
「良い売上の最大化」で驚異的な成長を継続 一休の顧客別利益管理
宿泊やレストランなどの予約事業「一休.com」を運営する一休は、データを駆使して高い営業利益率を打ち出しています。同社では「顧客 ID 別の利益管理」を実施しており、本書で提案してきた「良い売上の最大化・悪い売上の最小化」をまさに実践している企業であることから、特別対談として代表の榊淳氏、宿泊事業本部長の花房みのり氏をお招きしてお話をうかがいました。
筆者と一休・榊社長とは、ICC(INDUSTRY CO-CREATION)サミットや各種のカンファレンスなどで数年前からご一緒しています。その中で、一休ではまさに「良い売上を最大化し、悪い売上を最小化する」顧客別利益管理を実践されています。昭和の時代から続く「売上偏重」を是正し、今後、多くの会社が理想とすべき、ある種のともしびとなる企業だと考えています。 前段で、売上を月次など短期の合算で見る場合と、顧客別に長期的にも見る場合を、縦軸と横軸で図解しました。この図において、縦軸でのみ見ているのが期間別損益管理、顧客別の横軸も含めて売上と利益を把握できているのが顧客別利益管理です。 ![]() ほとんどの企業が、縦軸での見方しかできず、顧客別利益管理という横軸の見方ができていません。これを実行するには、経営が顧客起点への信念に則って、顧客別のデータベースを構築し、KPIも顧客別利益管理の達成に見合っている必要があります。 このような管理をしている企業は、筆者がこの数年でご相談を受けてきた430社のうち、BtoC企業では1社もありませんでした。BtoBでも、顧客別の管理ができていないことから、全体の売上には問題がなかったものの、利益貢献の大きな数億円もの売上を得ていたクライアントを3年以上前に失注していたことに経営者が気づいていないケースがありました。顧客別の利益管理がいかに必要か、感じていただけるかと思います。 一休はかねてから、社員約300人の規模ながら、年商400億円超という少数精鋭企業として知られていました。直近2025年7月に発表された業績では売上高570億4,700万円、営業利益325億4,400万円で、営業利益率は57%と際立った利益性を示し、官報公告を出されるようになった25期(2023年)から3期連続での脅威的な成長を達成しています。 ![]() ただし特筆したいのは、一休は決して、売上と利益の追求を最優先しているわけではないということです。それは榊氏の著書『DATA is BOSS』(翔泳社)でも示されていますが、同社は綿密なユーザーインタビューを継続し、顧客に喜ばれることを徹底する姿勢があります。それが、今の業績につながっていると言えます。 今回、榊社長と、宿泊事業の責任者を務める花房みのり氏に、一休のそうした姿勢と実践がどのように成り立ってきたのかをうかがう機会をいただきました。読者の方々にはぜひ、「良い売上の最大化/悪い売上の最小化」の最先端の実例として、お読みいただけたら幸いです。 Profile: 株式会社一休代表取締役社長 榊 淳 氏 2003年に米国スタンフォード大学院のサイエンティフィック・コンピューティング修士課程を修了後、約10年間コンサルタントとして活躍。2013年に株式会社一休に入社、2016年より現職。 2023年からはLINEヤフー株式会社執行役員 コマースカンパニー トラベル統括本部長も務める。 宿泊事業本部長 花房 みのり 氏 2014年新卒で大手SIerに就職、システムエンジニアとして会計システムを担当。エンジニア経験が活かせる分析やマーケティングの仕事に興味を持ち、2017 年に一休に参画。一休.comのマーケターを担当した後、2025年より現職。 |
1件の予約ごとに限界利益を算出
西口 一休.comは、宿泊予約事業を皮切りに、レストランやスパなど一貫して高級な選択肢を顧客に提供されています。「非日常を体験したい」という顧客に対して、絞り込んだエリアで圧倒的に勝たれている。顧客のニーズをしっかり理解して、そのインサイトに寄り添ったサービスを展開されているからこその業績だと思っています。
実際、例えば宿泊予約事業だと「年間100万円以上を宿泊に使う人」をターゲットにされていると、講演やインタビューで明言されていますね。
榊 はい。当社はおっしゃるように、幅広く様々な方ではなく、ニッチな顧客層をメインターゲットに事業を展開しています。そうした方のインサイトを理解するために、ユーザーインタビューを恒常的に実施し、満足いただける選択肢やサービスを提案できるように心がけています。
西口 そうしたニッチなビジネスにおいて、「新規を10人獲得して何人がリピーターになっていただけるか」は特に重要だと思います。やみくもに新規獲得をして、全員が1回しか利用しなかったら、大きな損失になってしまいますよね。
榊 その通りですね。
西口 誰に何を提案するかについて、私は「複数の『WHO&WHAT』の組み合わせを理解して追いかけていく」ことを提唱しているのですが、一休ではもはやその組み合わせもなく、一人ひとりの“WHO“への最適な提案を無数に行っている形なのでしょうか?
榊 いえ、ある程度の粒度の顧客セグメンテーションも、明示的に捉えていますよ。
西口 それは何パターンくらい?
榊 パターンというより、いくつかの軸で切って見ています。いちばん大きな軸は「ヘビーユーザーか、ライトユーザーか」。また、「レジャー利用か、出張利用か」「レジャーならカップルか、ファミリーか、子連れか」などを見ています。そのようなセグメントを捉える一方で、個々人に対してAIによるパーソナライズを走らせています。
西口 なるほど。顧客に喜ばれる提案を前提に、本書でいう「良い売上をもたらす顧客」と一過性に終わる顧客を丁寧に見て、予約サービスというプロダクトを構築されているのが一休だという理解をしています。
その背景にあるのが、前に榊さんと花房さんからうかがった、顧客別利益管理です。宿泊事業の責任者をされている花房さんにお聞きしますが、現状はどこまで算出されているのですか?
花房 1件の予約ごとに、売上から費用を引いた限界利益まで算出しています。固定費までは振り分けていませんので、限界利益という言い方をしましたが、当社はすべての顧客にIDを付与しているので「Aさんの○月○日の□□ホテルの予約は限界利益△△円」がクリアになっている状況です。
西口 特定の顧客の予約1件ごとに、売上と費用がわかっているから、限界利益もわかるということですよね? 単月かつ合計の売上や費用ではなく、顧客別の売上と費用を捉えられている、という。
花房 そうですね。

「顧客別・予約ごと利益管理」までの三段階
西口 BtoBでは、顧客別(クライアント別)利益管理を実践している企業はあるかと思いますが、BtoCでは私が知る限り皆無です。そもそもなぜ、このような見方をするようになったのですか?
榊 最初から「顧客別」の管理を実装したわけではありません。いくつか段階があり、最初は「顧客セグメント別の売上とコスト」を見ていました。次に、「顧客IDベースでの費用をひもづけ」を実装し、実質的に顧客軸で利益を見えるようにしました。その後に、スピーディにPDCAを回すために「顧客別かつ予約単位」で見るようになったというプロセスでしょうか。
西口 それぞれ、いつごろのお話ですか?
榊 顧客セグメント別の売上とコストを見えるようにしたのは、私が2013年に一休に参画する前のコンサル時代からです(※榊氏は一休に入社する前、外部コンサルタントとして同社事業に関わっていた)。
次の顧客ID別管理の実装が、花房さんが入社した後の2019年ごろで、現在の予約単位での管理は2020年にコロナ禍の中で実施された「GoToトラベルキャンペーン」のタイミングですね。
一休の「顧客別・予約ごと利益管理」への道のり ・ 第一段階 2010年代前半 顧客セグメント別の売上と費用の管理 ・ 第二段階 2019年 顧客 ID 別の売上と費用のひもづけ(=粗利の管理) ・ 第三段階 2020年 顧客 ID 別、予約1件ごとのスピーディな粗利の管理 |
西口 順を追ってうかがいますが、そうすると、10年以上前から売上と費用は見ておられたのですね。
榊 そうですね。当時は、計算が複雑なので営業利益管理まではしていませんでしたが、疑似的な利益を見る発想はありました。この顧客セグメントは非常に有益だとか、そこまでではないといったことを、およその利益貢献で判断できるようにはしていました。
日々のビジネスを継続する中で生まれた仕組み
西口 次のタイミングが、顧客ID別、要は一人ひとりの利益を見られるようにしたと。
榊 はい。それが2019年のことですが、私たちはずっと、西口さんの図で言う「横軸で見る(顧客別利益管理)考え方を強く持っていたので、顧客別の利益を突然2019年に可視化したという感覚はないんです。どのみち利益貢献で判断しているから、仕組み化したほうがいいよねという、継続的なビジネス会話の中で構築したモデルでした。
実際に手を動かしたのは一人のエンジニアで、花房さんがアドバイザー的な立ち位置、私は監修という形でした。私たちとしてはさほど大ごとに捉えておらず、実装も2週間ほどだったと思います。
西口 その際には、前職でSEとして会計システムを担当していたという花房さんの役割が大きかったのでしょうね。
花房 会計システムの開発のさわりに関わっていたくらいでしたが、その経験を、ビジネスサイドから活かせたと思います。
西口 費用の按分などは、どうされたのですか? 顧客IDごとにかかった費用を割り出すのを、モデル化するわけですよね。
花房 そうですね。一休.comのサービスでいうと、具体的な施策数でいうと数十ありますが、費用は大きく「クーポン系コスト」か「ポイント系コスト」しかないんです。なので、一つずつ「この顧客には按分する/しない」を指定していった形です。
榊 当社の特徴として、ほとんどが、トランザクションにひもづくコストとして計上できるんです。例えば1泊1万円の宿が売れて、宿に入るのが9,000円、クレジットカード会社に入るのが1,000円、そのとき顧客が500円分のポイントを使い、500円分のクーポンを使った……といった形です。このあたりはすべて顧客ID単位でひもづけられます。ひもづかないのは広告費ですね。
西口 広告費はどうされているのですか?
榊 コンバージョンしていない人も含めて按分しています。
費用のひもづけまで判断するAIモデル
西口 ただ、言うは易しで、実践されている企業がないのが現状ですね。
榊 当社が少し特殊だというのはあると思います。
西口 というと?
榊 広告入札(ビッティング)のプライシングを、AIを使って行っていることです。なので、この広告費がどういう理屈でどの成果につながったのかまでわかるので、それもプログラムに書き込んでいるのです。
西口 具体例を教えてもらえますか?
榊 例えばリスティング広告の場合、クリック数に応じてコストがかかりますよね。そうすると、「10回クリックされたのに、予約が1件も入っていない」みたいなケースが結構あるんです。従来のやり方だと「広告費だけかかって成果がない」となってしまいますが、AIのビッディングプログラムは、その時に「この広告にかかったリアルなコストは、どのトランザクション(予約)にひもづくのが最も自然か」ということを、推測して判断しているんです。
また当社は、そういった広告に関するデータがすごく整備されているからこそ、AIで最適なプライシングができるという側面もあります。
西口 最初にそのAIのビッディングプログラムの中で、広告費と成果のひもづけをすべて設計されているから、後から手作業で確認する手間がない、ということですね。
榊 その通りです。ビッティングの精度を上げようと思ったら、コストの正しい評価ができなければいけません。見方を変えると、評価のひもづけの仕組みが最初から設計されないと、ビッティングのモデルは完成しません。
ただし当社でなくても、つまり今後AIを入れて、ビッティングの仕組みも社内で全部つなげれば、費用を適切にひもづけたAIモデルが完成する可能性は広がっていると思います。
西口 そうですね。要は、横軸で見る顧客起点での、経営者としてのコミットメントの問題ですね。
プログラムが暴走して「悪い売上」を集めてしまった
西口 そして3つ目の段階が、コロナ禍での「GoToトラベルキャンペーン」をきっかけに、予約単位で粗利が見えるようにしたことだと。これは、どういった発想によるのでしょうか?
榊 もちろん「顧客別にもっと精緻に利益を管理したい」こともあるのですが、発端となったのは「スピーディにPDCAを回したい」という考えです。というのは、予約単位で粗利まで出れば、都度の施策に関して大概の意思決定はできますから。それを追求した先に実現したのが、顧客別・予約ごとの利益管理でした。
仮にある施策を実施した際、例えばABテストなどでも、売上なら大抵は施策を実施したグループのほうが上がりますよね。ですが利益で見ると、実は大した差がなかったり、むしろ費用を引くとマイナスになったりすることもあります。それを瞬時に捉え、継続か中止かを即断できる、フレキシブルな施策運営のために予約ごとの利益管理を導入しました。
その実践の過程で、顧客セグメント別に見たり、それをもっと細分化したりというプロセスがありました。最終的にそれが一人ひとりの顧客軸、かつ予約単位で見るという見方になったんです。
最初から「予約単位」の発想があったというより、スピーディにPDCAサイクルを回すことがベースにあって、副次的に予約単位の把握が可能になったという感じです。
西口 その当時、PDCAが遅いという課題意識をお持ちだったのですか?
榊 はい、それもあるのですが、プログラムの“暴走“が起きたことがショックだったというのがあったと思います。
西口 プログラムの暴走、ですか。
榊 例えば当社サービスの状況だと、レコメンデーションや広告運用のモデルなどいろいろな仕組みがAIを使ったプログラムベースで動いているんですね。そのとき、100%プログラムに依存していると、思いのほかおかしなモデルができてしまったりして、売上が暴走したりするのです。要はAIが「売上向上」を最重要課題に、私たちが想定していない変な方向に進んでしまうというか。
西口 勝手に最適化がかかってしまって、利益につながらない売上まで上げてしまうといったことですか?
榊 そうです。その例の象徴が、コロナ禍の2020年7月に開始した「GoToトラベル」のときです。高級な宿に安く泊まれるということで、普段は一休を使わない方々を含め、高級な宿を閲覧する人がものすごく増えたのです。
すると、AIが「普段は来ないお客様がたくさん来た! ぜひ予約してほしいからクーポンを発行しよう」と反応してしまいました。
西口 トラフィックをトリガーに、クーポンを大量発行してしまったんですね。
榊 そうです。でも、その方々の多くはキャンペーンが終わると去ってしまうので、私たちとしては多額のクーポンを発行してほしいわけではありません。「これはいかん」となって、ちゃんと状況が見えるよう、PDCAを可視化して回せるようにしたのです。
会社としてAIをどんどん使っていくのは明らかなので、その点でもAIと仲良くしていかなければ。言い換えれば、常に私たちの意図どおりにAIが動くような仕組みに整えていく必要があると考えました。
AIの“Slack報告“でブラックボックスを可視化
西口 「私たちの意図通りに動くように」する修正は、どうかけているのですか?
榊 毎日、AIからSlackにレポートさせるようにしたんです。
西口 AIがSlackに! おもしろいですね。
花房 「今日はこんな予測をした、こんなアクションを取った」と報告が上がってきます。それを見ると、今日はどのような感じだったかがわかります。
西口 ブラックボックスだったものを、可視化されたわけですね。
榊 その通りです。レポートを通して、今日のモデルはアグレッシブだったなとか、売上が好き、つまり売上を追いかける傾向があるからもう少し調整が必要だな、といったことがつかめます。
どんなモデルも定期的にアップデートするものですが、アップデート直後におかしな挙動をすることがあります。それを1日単位で捉えてチューニングすれば、1週間もおかしな状態を放置するようなことは発生しません。
西口 たくさんのモデルが動いているとのことでしたが、その全体のオーケストレーションはどうされているんですか? 広告運用、レコメンデーションなどのテーマが異なるモデルの成果は、やはりLTVで見ているのでしょうか。
榊 オーケストレーションは、おっしゃるようにLTVをKPTとして、AIではなく人間が対応している形です。
西口 なるほど。それぞれのモデルはAIで自動化しながら、全体の最適化は人間が担っているのですね。それを実行するための指針を立てるために、Slackに報告させていると。
榊 はい。Slackの日々のレポートに加えて、管理会計と財務会計とのズレが気づきになることもあります。フォーマットが決まっている外部向けの財務会計と、経営に役立てるために内部的に行う管理会計は、100%は合わないですよね。管理会計で、例えば消費税を含むかどうか、10年前の顧客のポイントを償却したがトレースするかどうか、と追いかけると大変なのでやらない、とか。そのズレからモデルの改善ポイントに気づき、修正したりします。
マーケターはファイナンスを学ぶべき
西口 先ほどの、モデルのチューニングも榊さんが?
榊 はい。ただ、先ほど西口さんが言われたように、社長がやる必要はありません。うちにも、いいデータサイエンティストがたくさん育っていますよ。また花房さんのように、ビジネスもシステムもわかる人がいれば、ビジネス視点でエンジニアと的確にすり合わせができるので、助かっています。
西口 今回お話しして改めて、マーケターにもファイナンスとAIの知識が絶対に必要だと実感しました。榊さんのようにコードを書ける人になれなくても、AIの使い方を理解していれば、マーケティング、ファイナンス、AIの3つをそろえるのはキャリアの上でそこまで難しくなくなるだろうと思います。
西口 花房さんもアルゴリズム全体を把握されているんですか?
花房 仕組みは知ろうと努力しています。
西口 ちなみに、サイエンティスト側とビジネス側、それぞれの人材採用は難しくないですか?
花房 そうですね、サイエンティスト側は、今はかなり強い方が増えています。一方で、ビジネスもシステムもわかる方は、一休としても多く採用できているわけではありません。テックに強い方をベースに、ビジネスにも興味がありそうか、面接などで探りながら進めている感じですね。
榊 若くてセンスのいいサイエンティストは最近多いですね。また、応募してこられる方が皆さん『DATA is BOSS』(翔泳社・榊氏著)を読まれているので、一休の考えに共感してくださっているのだなと思うとうれしいです。
西口 それはいいことですね! 考え方もそうですが、やはり社風への共感もありますか?
花房 そうですね、当社でいうとすごくスピード感がありますし、トップとの距離が近いので、社風との相性は大きいと思います。
クロスセルをするなら、顧客の行動をトリガーに
西口 今後もさらにAIを進化させて、縦軸(期間別損益管理)でも横軸(顧客別利益管理)でも見て、「良い売上」を上げていかれると思うのですが、そのためにどのような部分に注力されたいか、うかがえますか?
花房 ヘビーかライトか、レジャーか出張かのような顧客セグメントで捉える方向性と、個々人へのパーソナライズの方向性、両方とも伸ばしていきたいと思っています。前者は、ヘビーなお客様の心をくすぐる施策や、初めてのお客様がつい予約してしまうような、“魅せる“施策を強めていきたいですね。逆に後者はAIでどんどん尖らせていければと考えています。
西口 レストラン事業はどうですか?
花房 レストラン側は、まだオンライン化が進んでいないところも多いので、まずはデジタルの世界に在庫を出していただくところからご支援していく段階ですね。開拓の余地がかなりあります。西口 ちなみに、レストラン事業も高級路線ですから、宿泊とレストランでのクロスマーチャンダイジングなどは推進されないのですか?
榊 今はやっていません。今後、そのカードを切るときがあるかもしれませんが、本質的にやりたいと思っていません。というのも、基本的にはクロスセルって会社都合じゃないですか。どうして一休の宿泊予約を使ったらレストランのレコメンドをされるんだ、って思いませんか?
西口 なるほど、たしかに会社起点で、顧客起点ではないですね。
榊 クロスセルやアップセルは、本当にニーズがあるなら良策ですが、例えばあるホテルに泊まった方に「そのホテルにはレストランもスパもありますよ」と言ってもそんなことはご存じでしょうし、提案の面白みもありません。
もし実施するなら、顧客の行動をトリガーにした提案ならありうるかもしれません。宿泊のヘビーユーザーでまだ一度もレストラン予約を使っていない方が、1件レストランを閲覧したときがあれば、そのタイミングでレコメンドする、などですね。そうしたら品よく伝えられそうです。ですが、あくまでその顧客がレストランにタッチしたから一休が行動するのであって、こちらから「レストラン、そろそろどうですか!」とはやらないと思いますね。
西口 顧客起点が徹底していてすばらしいですね。本書でも、クロスセルを狙って新商品を重ねた結果、売上が崩壊する「ミルフィーユの崩壊」を解説していますが、榊さんの「会社都合でのクロスセルは狙わない」というのは大きなメッセージだと思いました。今回はお二人とも、ありがとうございました!
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