2-6-55:新商品の成長の罠「ミルフィーユの崩壊」

顧客起点マーケティング 良い売上、悪い売上
短期的な新商品投入は売上増につながりますが、長期的には頭打ちやブランドの崩壊を招く可能性があります。そのため、継続率の向上と潜在顧客の把握が重要です。
2-6-55:新商品の成長の罠「ミルフィーユの崩壊」
  • 2-6-55:新商品の成長の罠「ミルフィーユの崩壊」
  • 2-6-55:新商品の成長の罠「ミルフィーユの崩壊」
  • 2-6-55:新商品の成長の罠「ミルフィーユの崩壊」
  • 2-6-55:新商品の成長の罠「ミルフィーユの崩壊」
  • 2-6-55:新商品の成長の罠「ミルフィーユの崩壊」
  • 2-6-55:新商品の成長の罠「ミルフィーユの崩壊」
Geminiで生成

「ミルフィーユの崩壊」とは何か?

売上至上主義の典型として、「(ブランドや同一シリーズのプロダクト群の)総売上を向上させるために、新商品を発売する」ことがあります。多くの場合、最初に発売している商品について「もう伸びない」と判断し、売上成長のために、関連商品、派生商品が開発・投入されます。

しかし、この戦略は短期では売上増になるものの、長期で利益と利益性を毀損する可能性が高いことを認識しておく必要があります。なぜなら、①多くの場合、追加投入する新商品の継続率は既存商品より低く、売上の頭打ちが早いことが多いから。また、②売上と利益を生み出していた既存商品の成長ポテンシャルを最大化しておらず、潜在的な顧客をまだ獲得しきれていないことが多いから、です。

①および②に気づかず、「現行商品が伸びなくなってきたから、新商品を投入する」ことを続けると、後から投入した多くが積み重なったミルフィーユのような“売上の多層構造“ができ、各商品の伸び率が早く頭打ちをして、それらが多層に重なって加速的に崩れます。筆者は、これを「ミルフィーユの崩壊」と呼んでいます(図5-5)。

こうした事態を引き起こさないための策について、結論からいうと、新商品を追加して短期の売上を支えながらも、既存品のロイヤル顧客層の継続率とそれを支えているプロダクトの便益と独自性を理解し、その便益と独自性に価値を見出してくれる可能性のある潜在顧客(まだ獲得しきれていないWHOと、まだ見つけられていないWHO&WHAT)を丹念に探し、継続的に売り伸ばすことが土台になります。

その上で、新商品を投入する際は顧客心理をよく把握し、クロスセルにつながるか=既存顧客に十分に併売を促せるか、また単体でも新規獲得を見込めるかを検討することが求められます。さらに、複数商品を併売する場合はどれが伸びるかを確かめ、継続率が高いものを伸ばしていきます。長期で営業利益ベースのLTVを上げるには、継続率が高いことが必須だからです。

付け加えると、同一ブランドの複数商品において商品ごとに「良い売上」と「悪い売上」を見極め、短期の売上に貢献する「悪い売上」も許容しながら、「良い売上」につながる商品と顧客層の拡大に投資を集中させて長期的に伸ばしていきます。このいずれの対応にも、9segsの運用とN1分析が活用できます。

「ミルフィーユの崩壊」はなぜ起こるのか

では、この「ミルフィーユの崩壊」が起こる仕組みをシミュレーションします。

商品単価1,000円、原価300円、新規顧客の獲得コストと既存顧客の維持コストには1:5の法則を適用して、それぞれ1,000円、200円とします。この1番目の商品の新規顧客の初回購入から2回目購入への残存率(コンバージョン率)を30%、2回目以降を80%とします。

また、この商品発売から6回のサイクルを終えて、7回目の購入サイクル(購入サイクルが1ヵ月なら7ヵ月目、3ヵ月なら19ヵ月目)で次の新商品を投入し、以降も、その追加商品の発売後7回目の購入サイクルで次の新商品を定期的に投入するとします。日用消費財などで、半年ごとに新商品が投入されていくようなイメージです。

そして、この追加的に発売していく新商品の新規顧客の初回購入から2回目購入への残存率(コンバージョン率)を25%、2回目以降を70%と、1番目の商品より-5%ずつ低いと設定して、シミュレーションします(図5-6)。

新商品の売上の頭打ちは早く、降下率は大きい

まず、最初に投入した商品の伸びが頭打ちになってきた7回目の購入サイクルで追加の新商品を投入すると、全体の売上はいったんは跳ねるように上がるものの、1回目の商品と同様に伸び率が頭打ちして停滞する形になります。最初の商品も次以降も、市場に新商品として投入時は話題性でポンと売上が伸びますが、一定期間が経つと頭打ちとなります。

新規顧客の初回購入から2回目購入への残存率(コンバージョン率)が100%でない限り、どんな商品であっても、時間とともに必ず売上の伸び率は逓減します。もちろん、商品が圧倒的に支持されて口コミが大きく広がり、新規顧客の流入が加速度的に大きくなれば、この頭打ちは後ろにずれますが、残存率や継続率が100%になることはあり得ないので、必ずどこかで逓減するのです。

そこで7回目の購入サイクルごとに次々と、定期的に新商品を投入すると、段々の構造ができます。それを商品別に可視化したのが、図5-7の右側です。中段は2番目に投入した商品による売上、上段は3番目に投入した商品による売上で、その時期、その時期の売上は、複数の商品の売上がミルフィーユのように多層に積み重なってでき上がります。

商品別に売上を把握せず、すべて一緒くたに合算で見ていると、売上は順調に伸びているように見えますが、そう捉えてしまうと、大きな機会損失と利益減少のリスクを抱えることになります。全体として伸びているように見える売上ですが、商品別に見ると、一定期間後は1番目の商品も2番目も3番目も頭打ちしています(図5-8)。

さらに、2番目、3番目に出した新商品のコンバージョン率、残存率を1番目の商品より5%低いと前提しているので、それぞれの逓減スピードは早く頭打ちし、それらがミルフィーユのように重なることで、全体売上が急速に頭打ちし、そこから減少していくことになります。

つまり、次の新商品を早く出さなければ、全体の売上伸長は止まります。もしくは、1番目の商品よりも高い顧客残存率・継続率で、かつ新規顧客獲得が容易な新商品が投入されない限り、ミルフィーユの崩壊は必ず発生します。結果、既存顧客の減少を補うために新規獲得を続けるべく費用や組織強化を積み重ねて、ますます新規顧客の獲得へ傾注していくことで、損益分岐点も悪化し、利益と利益率を落とす構造になるのです。

これは、多くのビジネスや新規事業が直面している問題でもあり、多くのV字回復が続かない原因でもあります。実は、そもそも顧客の残存率や継続率を視野に入れて売上と顧客を構造的に理解していれば、商品発売前から、こうなる運命はわかるのです。

次々と新商品を投入した結果、すべてが弱くなる

この問題を解決するには、顧客の残存率・継続率が高い商品を伸ばし続けるしかありません。その商品の潜在顧客がどれくらい市場にいるのか? 未認知顧客の数は? 認知しているが未購入の顧客は? その中で、その商品に興味を持ってくれそうな潜在顧客はどれくらいいるのか? を把握し、費用対効果を悪化させずに継続的な利益につながる新規獲得を最大化、つまり「良い売上」につながる商品の売上を最大化するのです。ここがないままの新商品のさらなる投入や販売促進、売上拡大は「悪い売上」の拡大になるのです。

ただ、前段で解説した「売上=顧客数 × 頻度 × 単価」が単一商品についてなら理解できても、複数商品の売上と、複数の顧客数のパターンになると複雑になり、どう扱ったらいいのかわからなくなりがちです。ここで複数商品を合算して売上を平均しても、意味がありません。それは「良い売上」と「悪い売上」の合算でしかないのです。いちばん継続率が高い商品を見つけるのが最も大事です。

一方で、商品別の売上を把握しておらず、売上が商品別の多層構造になっていることに気づいていない場合、「(合算としての)売上は順調だ、新商品の投入は成功だ」と思っていたら「急に頭打ちがきてしまった」という事態に直面します。そして、売上維持のためにまた新商品を追加する、販売促進を強化する「悪い売上」の拡大サイクルに入ってしまいます。

加えて実際のビジネスでは、4番目、5番目と新商品を投入すると、どうしても新商品に集中してしまい、先行の既存品となった1番目、2番目、3番目への投資が少なくなり、問題が悪化します。この状態になると、既存顧客にとっても、新商品に目移りし、複数の選択肢から再度選び始めるので、継続率が高かった商品から離反し購入が分散します。

結果、それぞれの商品に投資して獲得してきた継続率、ロイヤリティを自ら弱め、強い既存品の便益や独自性を磨き上げることができず、すべての商品が中途半端に弱くなり、頭打ちが早くなり、突如として横滑りが起きるのです。これが、「ミルフィーユの崩壊」です(図5-9)。

もちろん、いずれかの商品が何らかのきっかけで大きく跳ね上がり、そのときの総売上がベースとして定着することも起こる可能性はあります。事実、どの企業もそうした成長を期待していることと思います。しかし、このような構造的な問題を想定せず、ただ「既存品が伸びなくなったから、新商品を」として投入すると、確実にこのような事態に陥ります。

まだ会員登録されていない方へ

会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です

《西口一希》

良い売上、悪い売上