2-6-54:「売上至上主義」の罠

顧客起点マーケティング 良い売上、悪い売上
売上至上主義は、利益や品質の低下、コスト増加、資金繰りの悪化などの問題を招きます。そのため、長期的な視点とバランスの取れた戦略が求められます。
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売上至上主義における5つの課題

売上至上主義とは、営業利益よりも売上高を重視する経営方針ですが、言い方を変えると「良い売上」「悪い売上」の区別なく、目の前の売上を上げることに注力する方針です。これは、多くの企業で日常的に実行されています。この売上至上主義の5つの課題を解説します(図5-4)。

  • ① 利益率の低下: 売上を増やすことだけに注力すると、営業利益率の低い取引や赤字の仕事も許容するようになる。これにより、徐々に事業や組織全体の生産性が低下し、売上が増えても利益が伸びない、あるいは減少するという事態に陥る

  • ② コストの増加: 売上を伸ばすために、広告宣伝費や組織の拡大と人件費、長期の減価償却費用となる設備投資などの販管費が増加。コスト上昇が売上上昇以上に早くなり、損益分岐点も悪化することで、継続的に利益率が圧迫される

  • ③ 資金繰りの悪化: 売上の増加に伴い、運転資金も増加するが、営業利益率が低下していると必要な運転資金を確保しにくくなる。結果、売上が上がっていても、資金繰りが急速に悪化し、企業規模によっては危機に陥ることもある

  • ④ 従業員の疲弊: 売上至上主義は、様々な活動が増え仕事量は増えるものの、すぐに利益が上がって従業員の給与が上がるわけではないので、モチベーション低下や離職率の上昇につながる恐れがある。売上が上がっても給与を上げられず、ダウンスパイラルになりがち

  • ⑤ 品質の低下: 売上増に対応するためにプロダクトや販売網などの量的拡大を追求するあまり、プロダクトの品質や付帯サービス品質が低下する可能性が高くなる。これは長期的には顧客満足度の低下を通じて、継続購入の低下、離反の増加、新規顧客からの残存率の低下につながる

これらを踏まえて、どのような対策が取れるか考えてみます。それは、売上至上主義の功罪を理解した上で、「良い売上」「悪い売上」の構造的な理解を深めることが前提になります。短期と長期、売上と利益性のバランスを勘案した戦略と施策の実行に注力することで、売上至上主義の罠に染まらないようにしたいです。

条件付きで「売上を上げる」思考

ビジネスで社員に単に「売上向上」を指示する場合、「営業利益が上がる売上向上」を指示する場合、「将来の営業利益につながる売上向上」を指示する場合で社員の思考と行動がどう異なるか、その指示の実行の容易さの違いも含めてそれぞれの違いを列記します。

「売上向上」を指示する場合

  • 期待される行動

    • 顧客への積極的なアプローチ

    • 値引きや特典の提供による販売促進

    • 新規顧客の獲得に注力

  • 利点

    • 目標が明確で、結果が数字で見えやすい

    • 社員のモチベーション向上につながりやすい

    • 市場シェアの拡大に貢献する可能性

  • 課題

    • 利益を度外視した無理な販売につながる可能性

    • 値引き競争による利益率の低下

    • 短期的な成果に偏りがち

「営業利益が上がる売上向上」を指示する場合

  • 期待される行動

    • 高利益率の商品・サービスの販売に注力

    • ロイヤル顧客への施策集中

    • コスト削減の意識向上

  • 利点

    • 企業の利益性向上に直結

    • コスト意識の向上

    • 効率的な営業活動の促進

  • 課題

    • 短期的には、売上も営業利益も中途半端になるリスク

    • 短期的な利益追求により、長期的な顧客関係が損なわれる可能性

    • 新規顧客の開拓が疎かになる可能性

    • 一部の商品・サービスに偏る可能性

「将来の営業利益につながる売上向上」を指示する場合

  • 期待される行動

    • 長期的な顧客関係の構築に注力

    • 顧客の選別(長期で利益率の高い顧客への集中)

    • 顧客ニーズの深掘りと提案型営業

    • 新規市場や新規事業の開拓

  • 利点

    • 持続可能な成長につながる

    • イノベーションや新規事業の創出を促進

    • 顧客との強固な関係構築に貢献

  • 課題

    • 短期的には売上が停滞もしくは減少する可能性がある

    • 将来の利益を予測することが困難

    • 顧客の選別が難しい

    • 短期的な成果が見えにくい

    • 投資的な要素が強いため、リスクが高い

    • 社員のモチベーション維持が難しい

理想的なアプローチ

これら3つに絶対的な正解はないですし、ビジネス環境次第では、今日明日や今月の「売上向上」に注力せざるを得ない場合もあります。しかし、「将来の営業利益につながる売上向上」を軸として、この3つの方針を短期長期で良く組み合わせることが重要です。

「良い売上」「悪い売上」を明確に定義し、それを実現する施策まで落とし込んだ上で、短期的な売上目標と、長期的な累計利益と利益率と売上規模での成長戦略を明確に示し、それぞれの時間軸に応じた適切な評価システムを構築したいです。

また、社員の理解度や経験に応じた適切な指導と教育によって、より効果的な営業活動を促進できます。例えば、新人には「売上向上」という単純明快な指示から始め、次第に「営業利益が上がる売上」や「将来の営業利益につながる売上」の重要性の理解を促すアプローチが考えられます。

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《西口一希》

良い売上、悪い売上