
LTVとは、一人の顧客が生涯どれだけ利益をもたらすか
ここからは、特に継続購入型(リピート購入型)ビジネスにおいて重要な指標である「顧客生涯価値(LTVまたはCLTV:Customer Lifetime Value)」に焦点を当て、事例を交えながら解説していきます。
顧客生涯価値(LTV)とは、一人の顧客が企業との取引期間を通じて、企業にもたらす利益の総額を予測する指標です。平たく言えば、「一人の顧客が、生涯にわたってどれだけ営業利益をもたらしてくれるか」という金額を予測するものです。
LTVという言葉はよく聞かれるようになりましたが、当然ながら、現在の顧客が生涯にわたってどれだけの営業利益をもたらしてくれるかは現時点では確定できません。ですので、LTVはあくまで予測ですが、その計算には次の2つが重要な前提となります。
売上ベースではなく、営業利益ベースでLTVを計算する
短期ではなく、複数回の購入サイクルをカバーする長期間でLTVを計算する
顧客が生涯でもたらす累計的な営業利益が増えれば、当然それはビジネスに好業績をもたらしますので、LTVという指標は事業成長においてわかりやすく、多くのビジネスで、その活用が広がっています。
しかし、実際に計算し、PDCAを回して追求していこうとすると、やや複雑です。そもそも1章で詳説した売上と営業利益の構造が見過ごされていることも多いので、本項ではまず、単純化して解説します。例として、「人気のラーメン店」のLTVを考えてみます。
人気ラーメン店のLTVはいくら?
某所に、新たにラーメン店がオープンしました。メインのラーメンは、1杯1,000円で、原価は300円です。
新規の顧客を多く呼び込むために、店主はオープン記念として近隣に「新規の方は半額クーポン」を配りました。つまり、初めて来る顧客は500円で食べられる計算です。
そして、その値引き以外に様々な費用が400円かかっており、販管費は、500円 + 400円の900円となります(※ここでは、会計上の値引き処理を単純化しています)。すると、このクーポンを手に来店した顧客は500円でラーメンを食べるので、店には500円の売上が上がります。ですが内訳を見ると、1,000円の売上から300円の原価を引いて、半額値引きの500円とその他400円の合計900円の販管費がかかっているため、営業利益は-200円という計算になります。
営業利益:1,000円(売上) - 300円(原価) - 900円(販管費:値引きの500円 + その他400円) = -200円
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このクーポンでたくさんの新規顧客が来店し、しばらくするとリピーターとして常連さんがつき始めました。常連さんである既存顧客はクーポンがなくても来店します。
既存顧客の維持コストは販管費の400円に含んでいるとして計算すると、1,000円(売上) - 300円(原価) - 400円(販管費) = 300円の黒字で、新規顧客よりはるかに営業利益が多いことがわかります。
ここから、このラーメン店における顧客のLTVを「利益ベースで見た場合」と、「売上ベースで見た場合」の違いを解説します(図3-5)。

LTVを「利益ベース」で見た場合
新規顧客向けの500円のクーポンで、-200円の赤字でも、その顧客が継続顧客になってくれると、2回目の購入で300円の営業利益が出ます。累計で、-200円 + 300円 = 100円の黒字化となります。
さらに、その顧客が2回継続して購入(3回目購入)してくれれば、累計の営業利益は-200円 + 300円 × 2回 = 400円となります。
初回来店時の利益:1,000円 - 300円(原価) - 500円(新規獲得コスト) - 400円(その他販管費) = -200円
2回目来店時の利益:1,000円(売上) - 300円(原価) - 400円(その他販管費) = 300円 ・累計利益:-200円 + 300円 = 100円
3回目来店時の利益:1,000円(売上) - 300円(原価) - 400円(その他販管費) = 300円 ・累計利益:-200円 + 300円 × 2回 = 400円
別の考え方をすれば、500円クーポンで10人の新規顧客を獲得して10人で-200円 × 10人 = -2,000円の赤字でも、その内の2人が9回継続購入してくれれば、-200円 × 2人 × 1回 + 300円 × 2人 × 9回 = 5,000円の利益となります。
すると新規で離反した8人分の赤字「-1,600円」を吸収して、3,400円の累計黒字となります。10人のうちの4人が5回でも同様です。
これを新規獲得10人の平均LTVにすると、3,400円 ÷ 10人 = 340円になります。
LTVを「売上ベース」で見た場合
では、LTVを売上ベースで計算した場合を考えてみます。10人の新規顧客が全員離反すれば、売上は1万円(1,000円 × 10人)です。クーポンの費用は5,000円(500円 × 10人)です。クーポン費用を加味しない新規獲得一人当たりの平均LTVは、1,000円です。
全10回の累計売上 = 1,000円 × 2人 × 10回 + 1,000円 × 8人 × 1回 = 2万8,000円
平均LTV = 2万8,000円 ÷ 10人 = 2,800円
売上ベースのLTVは2,800円、新規獲得のクーポン費用が500円なので、そのまま新規獲得を続ければ「増える顧客数 × 2,800円」のLTVで無限に売上が上がる錯覚を覚えます。
この場合、顧客数の中に、ラーメンがおいしくて、結果として高い継続購入につながっている既存顧客の数が残存していけば、結果として累計的な営業利益が増えるかもしれません。すると一人当たりの売上ベースのLTVも高くなるので、LTV計測が役立っているように誤解するかもしれません。
しかしこれは、幸運にもプロダクトがすばらしく、何人かの顧客が継続購入するに値する価値を見いだしてくれたという結果論に過ぎません。
次項では、このラーメン店の数ヵ月後を見てみます。
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