2-6-56:シミュレーションで考える「伸びの限界」

顧客起点マーケティング 良い売上、悪い売上
顧客の離反と新規獲得のバランスが重要で、離反率を減らし獲得コストを抑える施策と既存商品を育てることが成長の鍵となります。
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新規獲得と離反(残存率)の関係

改めて、ここで注目したいのは、「顧客はどのような商品でも必ず一定数は離反する」事実です。したがって、新商品を積み上げても、いずれかの段階で必ず“伸びの限界“を迎えます。

シミュレーション1:一定の新規顧客を獲得する(図5-10)

単純なシミュレーションをしてみます。シミュレーション1は、あるブランドに100人の既存顧客がいて、1回の購入サイクルで同じ獲得コストで50人の新規を獲得できるとし、同時に既存顧客の30%が離反していくとします。

合計顧客は初期は伸びますが、逓減し18回目のサイクルで離反顧客数が50人となり新規顧客数と同じになって、合計顧客数は増えなくなります。既存顧客の母数が増えると、離反率が30%で一定であれば、母数から離反する絶対数がいずれ新規獲得と拮抗するからです。離反率が0%でない限り、この限界は必ず訪れます。それを避けるためには、離反率を下げ続けるか、獲得コストを悪化させずに新規顧客の獲得数を増やし続けるか、その両方の実現が必要です。

つまり、プロダクトである商品を磨き続けて、満足度を高め継続率を高めて離反率を減らす、新規顧客の獲得コスト効率を落とさず獲得数を増やし続けるのです。9segsでいえば、成長ルートを強化し、失敗ルートを減らし、復帰ルートを強化し、NPI割合を増やし続けるのです。

シミュレーション2:新規顧客獲得を5%ずつ増やす(図5-11)

仮に、離反率を30%のままで、新規顧客の獲得数を毎回5%ずつ増やすシミュレーション2を考えてみましょう。これであれば、18回まで合計顧客数の伸びをほぼ右肩上がりで維持できます。18回までの必要な新規獲得数は倍以上になりますが、獲得コストが変わらず、新規獲得された顧客の残存率が落ちなければ(残存率が落ちると、離反率30%が上昇する)、右肩上がりが達成できます。これで、売上と利益と利益率は落ちることなく維持拡大できます。

このためには、新規獲得すべき潜在顧客層である未認知層、認知あり未購入層、NPIありとなしの違いを定量的、定性的に把握して、マーケティング施策とプロダクト(商品)の強化改善が必要です。これは、一つの目指すべき「良い売上」の最大化と「悪い売上」の最小化の達成です。

しかし、新規顧客の獲得が順調に進まず、最初のシミュレーション1のように獲得コストに見合う獲得顧客数が50人から増えないと、合計顧客数は早くから逓減するので、売上も逓減します。この場合、シミュレーション2の模索を継続しつつ、新商品を投入することは短期的には良いのですが、最初の商品は成長の限界だとシミュレーション1の状態で半ば諦めて、新商品投入するとミルフィーユの崩壊に向かっていきます。

仮に、2番目の新商品の継続率が1番目の既存品の継続率より高ければ、頭打ちのポイントが図よりも後ろにずれるので、総売上が下がっていく時期が後退します。そこで3番目、4番目、5番目を急ぐことなく、継続して1番目、2番目の商品の育成、すなわち「良い売上」の最大化を追求し続ければ、その伸びしろはまだ巨大に残る未認知層、認知あり未購入層に見いだすことができます。しかし、その注力を諦めて新商品投入による短期の売上上昇、「悪い売上」の積み上げに偏ると、確率的に後発商品の継続率は先発より低いため、「ミルフィーユの崩壊」を早めるのです(図5-12)。

プロダクトライフサイクル理論の注意点

「プロダクトライフサイクル理論」、という言葉を聞いたことがあると思います。商品には寿命があるという考え方の下、プロダクトを4つの段階で捉えるもので、ビジネスの現場では「プロダクトライフサイクル理論でいう『成熟期』『衰退期』に入ったからもう売れない」として次の商品投入に向かうことがよくあります。

ですが、ほとんどの場合で、まだ大きな伸びしろを残したまま諦めることを正当化しているというのが筆者の考えです。そのプロダクトの成長機会となる潜在顧客全体像、つまり、未認知顧客と、認知はあるが未購入の顧客の大きさが見えておらず、「プロダクトライフサイクル理論」を言い訳にしているだけです。

これには、「新商品を出せば一定量は必ず売れる」という期待もあります。既存品を伸ばすには、すでに一定は策を講じている既存顧客の単価や頻度の向上か、まだ獲得できていない新規顧客の獲得が必要です。既存品を伸ばすための潜在顧客層を特定して、その層を理解して、どんな便益と独自性を提案するか、どんな方法で行うかを分析的に細かく考えるのは、複雑ですし、簡単ではありません。

一方で新商品は、その中身が何であれ、新しいというだけで期待感が高まります。よほど的外れなものでなければ、ある程度の初速は出るでしょう。だから、より少ない労力で短期で成果を得られそうな新商品に意識が向いてしまうのです。

複数商品のクロスセルが起きても多くが低下する

そもそも人間は、同じことより新しいこと、考えることより実行できることに気持ちが向かいます。ゆえに、社内的にも社外的にも盛り上がりやすい新商品を出すのは、マーケティングの人間にとっても、モチベーション高く多くの労力を投入しやすいのです。

そして、既存ブランドに新商品を出すと、既存顧客から試し買い的な追加購入が起こり、短期で売上が上がります。しかし、既存顧客の立場だと購入金額や支出が上がるため、長期では、既存品か新商品いずれかの購入頻度が下がる可能性が高いです。

例えば通販事業では、購入単価を関連購入で引き上げるのが定石ですが(クロスセル)、決して成功率が高いわけではありません。複数アイテムの継続率が高ければ高単価が維持できますが、先のように商品ごとの購入頻度が同様に高く維持されなければ、既存顧客の購入単価は元に戻るので、新商品を出して単価アップしても程なくもとに戻ってしまうのです。こうして、時間の経過にしたがって、複数商品の継続率の低下が続き、それが積み重なってミルフィーユの崩壊が起こるのです。

次項では、ミルフィーユの崩壊の回避策を考えていきます。

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《西口一希》

良い売上、悪い売上