
話者:福田康隆氏 ジャパン・クラウド・コンサルティング株式会社 代表取締役社長/ ジャパン・クラウド・コンピューティング株式会社 パートナー 早稲田大学卒業後、日本オラクルに入社、米オラクル本社に出向。2004年に米セールスフォース・ドットコムに入社、翌年に日本法人へ。専務執行役員兼シニアバイスプレジデントを務めた後、2014年にマルケト代表取締役社長。2019年アドビシステムズの買収によりアドビシステムズ執行役員マルケト事業統括に就任。2020年1月より現職。 |
ICP(Ideal Customer Profile)を起点に考える
書籍『THE MODEL』の発刊以降、多くの企業でTHE MODELが取り入れられていますが、その運用が表面的になっているケースがかなり多い印象を受けます。特にBtoBでは、ファネルの下部の受注数を増やそうと、安易にファネル上部の見込み客層を広げようとする傾向が見られますが、これは西口氏の言う「良い売上」を本質的に増やす行動ではありません。
BtoBにおいて「良い売上」を上げるためには、「ICP(アイディアルカスタマープロファイル)」という概念が極めて重要です。
これは、自社の製品やサービスを最も理想的に活用し、最大の価値を引き出し、そして長く使い続けてくれる「理想的な顧客」が誰なのかを、最初に綿密に定義することから始まります。「9segs」でいうところの「セグ1」や「セグ2」に該当する顧客像を明確に設定することが肝要です。
ICPに対して活動を起こすことが重要であり、最終的に獲得できる最下部の顧客(ボトム)から逆算して、その理想的な顧客にどうリーチするかという発想が営業戦略の主軸となるべきです。前出のTHE MODELのプロセス図に、「育成対象外」(図中左下)とありますが、これは「ICPに合致しない層に対しては、マーケティング投資を極力控えるべき」というメッセージです。

ICPに到達し、良い売上を増やす
私はマーケティングの効果や貢献を見る上で、単にリード数や商談化数ではなく「獲得したリード件数の内、ICPに合致するものが何件か」という割合を見ることが多いです。
THE MODELを運用する上で大事なのは、このICPの重要性です。
THE MODELは、ICPに到達して「良い売上」を増やすための、プロセス実現やリソース配分の最適化を行うための考え方です。単に、ファネルの上部を広げてコンバージョン率を良くするという発想とは、根本的に異なります。
しかし、コロナ禍でインサイドセールスに注目が集まった影響もあり、THE MODELを「効率的にリードをコンバージョンする方法」と捉えられてしまっていることが多いようです。
例えば、リード数が増えているのに商談が少ないケースでは、そもそもICPのリードが増えているのか。あるいはインサイドセールスの生産性に問題があるのではないか。解約が増えている場合には、目先の数字が欲しくてICP以外の顧客に販売していないか、あるいはカスタマーサクセス側のプロセスに問題があるのかといったように、ICPを起点に考えていく必要があります。
利益を出すための司令塔が必要
共業を前提とするTHE MODELには、部門間の連携という課題も存在します。BtoBの世界では、マーケティングのKPIはリード数、良くても商談数などで測られ、単年度の成果を追いがちです。営業も同様に、単年度の受注ベースで評価されることが多く、カスタマーサクセスも年ごとの契約更新率だけを追う傾向にあります。
エンタープライズからSMBまで、また1年目のクライアントから数年目のクライアントまで、顧客層は多様であるにもかかわらず、全体の数字のみを追ってしまうことで、長期的な視点や本質的な共通目標が欠けてしまいがちです。
そのため、売上と利益性という広い責任を負う人物、すなわちCRO(Chief Revenue Officer)やそれに相当する役割が、全体を俯瞰して管理する必要があります。そうしないと、例えば関係性が良好な既存顧客にリソースを割くべきなのに、新規市場開拓にばかり人員を投入してしまうといった非効率なリソース配分が生じ、理想的な事業運営は困難になります。
うまくいっている企業では、CROが受注前と受注後を横串で見て、全体を把握した上でリソースを最適に配分しています。単に人の配置だけでなく、マルチプロダクト戦略を採り、クロスセルによる顧客単価向上や、複数製品の利用促進などによって解約率の改善にも貢献するなど、長期的な視点を持つことが非常に重要です。
そのためには、西口氏が提唱するように、プロセス全体を単月などの縦軸だけでなく、長期的な横軸で捉える視点が求められます。
売上と利益が"扇形"になる危険なケース
会社の売上と利益を時間軸で並べてみると、その会社の健全性がよくわかります。
以下の図のAタイプのように、売上も利益も堅調に伸びる会社は、誰にとっても良い会社です。一方で、Bタイプのように一見すると利益が出ていないように見えても、初期のAmazonやSalesforceのように将来の市場獲得のために利益を先行投資に回し、本質的には利益が出る事業構造を持っているケースもあります。
しかしCタイプのように、一時期のSaaS企業に多かったパターンで、売上は伸びているように見えても、そもそもビジネスモデルとして成り立っていない危険なケースも存在します。一時期、「SaaSは赤字を掘ってでも成長すべし」といったことも言われましたが、結果的に破綻した企業も少なくありません。
Dタイプは余談ですが、日本の大企業に多いパターンで、利益は堅調に出しているものの売上が伸びず、市場にインパクトやイノベーションを起こせずにゆっくりと衰退していく企業を表しています。

スタートアップの中には、売上ベースでLTVを計算するケースが見受けられますが、契約更新率の根拠が不明確なまま、同カテゴリーの平均契約率を安易に当てはめてしまい、結果的に想定外の解約が多発するといった問題が生じます。LTVを過大に見積もり、CPAを高くかけすぎて失敗するケースが散見されます。
BtoBで良い売上を積み上げるには
最も重要なのは、バランスです。ICPに合致する顧客にしっかりと価値を提供しながら、同時に市場全体を広げていくというバランスを取ることが求められます。このバランスを適切に取ることは、やはり売上全体に責任を持つCROのような役割の人材でないと困難です。
私が働いてきた外資系企業の本社組織体制では、事業責任者を支える役割として、部門付きのファイナンス(ファイナンスビジネスパートナー)と、同時にセールスオペレーションやレベニューオペレーションといった事業寄りの数値管理のパートナーが両方存在しました。
ファイナンスは財務情報の視点から、レベニューオペレーションはパイプライン、リード、マーケティング予算など事業の具体的な数字を抑えて経営層にアドバイスを送ることで、経営層が多角的な視点から議論できるリソースを得ていました。
多くの企業で、経営者がどのような視点で何を見ているかが、社内で共有されていないケースが多いです。私の経験では、たまたま本社の経営陣に近い場所にいたことで、それらを学ぶ幸運に恵まれました。現場からその状況を変えていくのは難しいかもしれませんが、自分が与えられた指標だけでなく、それが何につながり、経営層が何を見ているのかを理解しようと努力することは、自身のキャリアパスにもつながるでしょう。
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