2-6-37:売上が上がるほど赤字になるラーメン店

顧客起点マーケティング 良い売上、悪い売上
短期的な売上増は必ずしも利益につながらないため、継続顧客を重視し、長期的な利益で評価することが重要です。
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Geminiで生成

短期の売上増に潜む罠

前項では、1,000円のラーメンに対し「新規顧客は500円割引」のクーポンを配ったラーメン店の話をしました。原価と販管費を加味すると、初回購入ではー200円(200円の赤字)、2回目購入でやっと100円の利益が出る計算です。

さて、ラーメン店の店主も1ヵ月単位で売上を注視していたため、「来月はもっとクーポンを配ろう。たしかに一人当たりの売上額は半額だが、その分、クーポン発行数を2倍にして2倍集客すればいい」と考えました。

半額クーポンがあれば集客は確実だと思えて、店主は2,000枚のクーポンを配りました。

すると、新規顧客が一気に増えて売上額は上がりましたが、実はその顧客の多くが継続(リピート)せず、常連さんは思うように増えていませんでした。しかし、その時点での全体顧客数も売上も上がっていたので、店主はこの問題に気づきませんでした。新規の顧客数を増やせば、短期の売上は上がるのです。

しばらく経つと、売上は一定の額を保っているものの、利益がまったく増えないことに気づきました。クーポンを配り続けるにも限界があり、以前のようなペースで新規が増えるわけでもありません。このまま数ヵ月経てば、閉業も視野に入ってきてしまいます。

常連を増やす施策に舵を切った

そこで、店主は「常連さんを増やしたほうがいい」と思考を転換し、ポイントカードの導入など常連さんを優遇する仕組みを作りました。併せて、「売上が上がっても利益が出なければ事業が継続できない」と考え、売上ではなく利益を指標にしていくことにしました。

一度は来店している人の中から常連さんを増やすために、今回は店主は大幅な値引きをせず「もう一度食べたい」と思ってもらえる商品作りにより注力していきました。

その結果、新規顧客から常連になる人が増え、常連の来店頻度や購入単価も少しずつ上がっていきました。半額クーポンを配っていたころの短期での爆発的な売上増はなくとも、毎月少しずつの売上の伸びと安定した営業利益を得られるようになりました。同時に、安さではなく、味で顧客を惹きつける店として評判も広がっていきました。

LTVの誤解が招く経営リスク

この例え話は、決して極端な話ではなく、ビジネスの現場で頻繁に目にする状態です。

仮にラーメンというプロダクトの評判が悪く、リピートが完全にゼロであっても、クーポンでの新規顧客獲得が順調で、全体の顧客数自体が増えていれば、「売上ベース」での一人当たりのLTVは下がることはありません。ですので、この根本的な問題に気づくには時間がかかります。

どこかでクーポンをやめた途端に売上が激減するか、クーポンを配り続けても顧客数が頭打ちになり、損失が増えている状態になります。

多くの事業やブランドが、新規顧客の獲得を続けても、その獲得費用を回収できるほどの継続購入につながらず、赤字から脱却できない状態が続きます。そして資金が枯渇し、それ以上の新規顧客獲得への費用も投資もできなくなり、売上も落としてしまうことが発生するのです。このような事態は、営業利益ベースでのLTVを見ていれば避けられます。そして、その違いを分析して、営業利益につながる「良い売上」と「悪い売上」を区別することから、効果的な新規顧客の区別もできるのです。

この例からわかるのは、「新規顧客より継続顧客が増えたほうが儲かる」という単純な事実です。そのために、次にまとめるように、前述の①営業利益ベースで、そして②長期間で、LTVを計算することが大事になってきます。それぞれ以下に解説します。

営業利益ベースで:売上ベースでLTVを計算すると、新規顧客が多くても継続顧客が多くても、とにかく全体の顧客数が増えれば売上が増えて、一定期間はLTVは高く維持できる。そのため「とにかく集客だ」「とにかく新規をたくさん取ろう」という思考になりがち。しかし営業利益ベースでLTVを見ると、売上に占める新規顧客が多いとLTVは低くなるので、新規顧客と継続顧客の割合に注目して売上と費用管理を行う必要がある

長期間で:平均購入サイクルが3ヵ月のようなカテゴリーで、新規顧客の獲得を継続的に行っている場合、3ヵ月などの短期間でLTVを計算すると、その期間の合計顧客数の中の新規顧客が多くなり、継続購入の貢献を過小評価することになる。3ヵ月の購入サイクルで単純計算すれば、その前の3ヵ月間に新規獲得した顧客の継続購入は、この3ヵ月の計算にほぼ入らないので、営業利益への貢献が高いはずの過去からの継続購入を過小評価することになる。
これを1年、2年、3年の長期期間の合計でLTVを計算すれば、過去から積み上げてきた継続購入の含有率が高くなるので、より長期的な視点、つまり継続顧客からの営業利益の評価をLTVで行うことができる

世の中で使われているLTV分析の多くは、売上ベースで短期間の数字を使っており、本来のLTV指標としては不十分です。これが、実務家の「LTVの誤解」につながっています。

LTV(顧客生涯価値): 長期的な顧客関係が生み出す真の価値

営業利益ベースのLTVを把握することは、企業にとって次のような重要なメリットをもたらします。

長期的な視点での経営:短期的な売上高だけでなく、「長期的かつ継続的な売上と利益貢献」を見据えた経営判断が可能になる。目先の売上にとらわれず、将来の利益性を考慮した投資判断や事業計画を立てることができる

顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)の最適化:新規顧客獲得に投じるべき費用の上限を判断する重要な基準となる。営業利益ベースのLTVを超えるレベルで、顧客獲得コストをかけることは、長期的に見れば損失につながる可能性が高いため、費用対効果の高い顧客獲得戦略を立てる上で不可欠な基準となる

顧客維持の最適化:営業利益ベースのLTVなら、LTVの高い顧客セグメントや新規顧客の獲得手法や流入経路、プロダクトの訴求を分析できる。結果、どの顧客セグメントに重点的に投資すべきか、限られたマーケティング予算や経営資源を効率的に活用し、利益性の最大化を図ることが可能になる

これを、概念図で考えてみます。例えば図3-6のように10人新規顧客を獲得したとき、7人が1回きりの購入で離反し、3人がリピート顧客(既存顧客)となり、そのうち一人が2回で離反して一人が5回目まで、もう一人が6回目まで継続したとします。

これを、購入回数ごとの売上と営業利益(損失)で表すと、図3-7のようになります。

では、この図を長期視点の6回累計で見てみましょう。10人の新規獲得から得られる売上と営業利益(損失)は、図3-8のようになります。プロダクト(製品・サービス)の単価が一定であると仮定すると、初回で離反した7人からは損失が生まれ、長くリピート購入する既存顧客からしか営業利益は生まれないことが理解できます。

1回の購入での売上は同じでも、営業利益を生み出す売上と、損失を生み出す売上があります。「損失を生み出す売上も存在する」ことを、必ず意識していただきたいです。だから、LTVは売上ベースではなく、新規顧客へのコストと既存顧客へのコストの違いを反映した営業利益ベースで計算し、評価すべきなのです。

売上ベースではなく利益ベースでのLTV算出が不可欠

繰り返しになりますが、LTVは売上ベースではなく、営業利益ベースで算出しなければいけません。

現場マーケターの多くの方々は、担当されている自社プロダクトによっては、「LTVを営業利益ベースで算出する」ことに取り組んだ経験はないかもしれません。ですが、良い売上を積み上げるためにとても重要な概念です。まずは、ラフな単純概算で良いので、新規顧客と継続顧客に対して営業利益の違いでLTVを計算していただきたいです。

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《西口一希》

良い売上、悪い売上