
顧客がどうなれば損益分岐点を超えるか
ここからの「LTV」は、断りがない限り、すべて「顧客あたりの営業利益ベースのLTV」とします。すべての顧客の平均LTVは「平均LTV」と記載します。また「ロイヤル顧客」とは、自社プロダクトの業種・カテゴリーや事業ステージに応じて「月に〇個以上購入する人」「毎週利用する人」といった形で定義して問題ありません。
まず、前段で解説した「損益分岐点」を思い出してください。損益分岐点とは、ビジネス全体が黒字に転じるポイント、つまり利益が生じるポイントを意味します。それぞれまとめると、次のようになります。
損益分岐点とは:
ビジネス全体の総費用(固定費 + 変動費)が、総売上高とちょうど等しくなる点
この点を下回っている間は損失が発生しており(赤字)、この点を超えると利益が出始める(黒字)
損益分岐点は、ビジネスが赤字にならないために最低限達成すべき売上(または販売数量)の目標ラインを示す
(利益ベースの)LTVとは:
一人の顧客が、その顧客であり続ける全期間を通じて、企業にもたらす累計の営業利益のこと
計算には、顧客の平均購入単価、購入頻度、継続期間、および営業利益率が考慮される。重要なのは、単なる売上ではなく、顧客獲得コスト(CAC)や顧客維持コストを差し引いた後の「純粋な営業利益貢献」を見ること
「LTV > CAC」が、その顧客単体で見た場合の最低限の採算ライン(顧客レベルの損益分岐点)。つまり、獲得コストを上回る営業利益を、その顧客が生涯で生み出して初めて、その顧客獲得は(単体では)成功したと言える
ロイヤル顧客とは:
企業の商品やサービスを長期間にわたって繰り返し購入・利用してくれる顧客
一般的に、購入頻度が高く、顧客としての期間が長く、結果として高いLTVを持つ傾向がある
企業やブランドとの関係性が構築されているため、維持コストが相対的に低い
このときビジネスの損益分岐点、LTV、ロイヤル顧客は、次のように密接に関連し合います。
まず、新規顧客を獲得するにはコスト(CAC)がかかるため、継続購入型ビジネスのほとんどの場合、初期段階では事業は赤字からスタートします。顧客が継続購入を重ねることで、次第にCACが回収され、ある時点でLTVがCACを上回り、顧客単位で初めて営業利益が創出されます。
LTVが高い顧客が多ければ、損益分岐点を早く超えられる
このとき、ビジネス全体の損益分岐点は個々の顧客が生み出す利益の積み重ねによって達成されるため、LTVの高いロイヤル顧客が損益分岐点達成をけん引します。ロイヤル顧客が多いほど損益分岐点を超えるまでのスピードは速くなり、早期に全体のコストを回収できるわけです。
そしてロイヤル顧客が多いほど、CAC回収後の営業利益への貢献額は大きくなります。ロイヤル顧客が生み出す安定した営業利益(「LTV > CAC」の差分)が、ビジネス全体の固定費をカバーし、損益分岐点を超えて伸び続けるための強力な推進力となります。
ロイヤル顧客の割合が高く、そのLTVが高ければ、ビジネスはより低い売上高で損益分岐点に到達でき、安定した利益体質を築きやすくなります。逆に、LTVの低い顧客(一過性の顧客など)ばかりだと、損益分岐点を超えるのが困難になります(図3-10)。

これらの関係性から、LTVを重視し最大化しようとすることは、必然的にロイヤル顧客の顧客数を増やし、維持を重視する戦略につながることがわかります。なぜなら、彼らこそが長期的に安定した利益をもたらし、事業全体の早期の損益分岐点超えと持続的な成長を支えるからです。
ただし、繰り返しになりますが、だからといって決して「既存顧客に注力せよ」「新規獲得よりCRM優先」と言っているわけではありません。本来、新規顧客とロイヤル顧客はビジネス全体を支える動態(ダイナミクス)の一部であり、つながっています。もし、新規獲得と既存顧客維持(リテンション)の活動が組織的に分かれているのであれば、連携を強化し、協力してロイヤル顧客の増大に努めることが大事です。
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