
次回購入意向(NPI)の軸を加えて9つに分ける
次に、「良い売上」の未来予測指標を加えた顧客動態(カスタマーダイナミクス)である9segsを解説します。これは、5segsを作成する量的アンケート調査に、さらに未来予測指標である「次回購入意向(NPI:Next Purchase Intention)」の有無を聞くことで作成できます。「次の機会に(次の機会も)このプロダクトを購入したい」人を「NPIあり」とします。
対象プロダクト(もしくは対象ブランド)に購入意向がある顧客を「NPIあり = 積極」、購入意向がない顧客を「NPIなし = 消極」と分類し、5segsをさらに分類します。
5segsの上位4顧客である、
ロイヤル顧客(購入頻度が高い)
一般顧客(購入頻度が低い)
離反顧客(購入経験はあるが現在は購入していない)
認知未購入顧客(認知はしているが購入経験はない)
の4層をそれぞれ2つに分類し、未認知顧客を加えると、次のように9つのセグメント(セグ1~セグ9)に分類できます(図4-7)。そして、各セグメント間の顧客の行動や心理の差異を分析し、次なる施策に生かします。

積極ロイヤル顧客(セグ1):現在の購入頻度が高く、次回もそのプロダクトを選ぶ可能性が高く、LTVに最も貢献する顧客である
消極ロイヤル顧客(セグ2):現在の購入頻度が高いが、次回は離反する可能性が高い顧客層である
積極一般顧客(セグ3):現在の購入頻度は低く、次回もそのプロダクトを選び、今後ロイヤル顧客化する可能性が高い顧客層である
消極一般顧客(セグ4):現在の購入頻度は低く、次回は離反する可能性が高い顧客層である
積極離反顧客(セグ5):現在の購入はないが、次回はそのプロダクトを選ぶ可能性が高く、一般顧客化する可能性が高い顧客層である
消極離反顧客(セグ6):現在の購入もなく、次回も購入せず離反状態である可能性が高い顧客層である
積極認知未購入顧客(セグ7):そのプロダクトを認知しているが購入経験はなく、次回はそのプロダクトを選び一般顧客化する可能性が高い顧客層である
消極認知未購入顧客(セグ8):そのプロダクトを認知しているが購入経験はなく、次回も購入せず認知未購入である可能性が高い顧客層である
未認知顧客(セグ9):プロダクトを認知していない(知らない/5segsの未認知顧客と同じ)のである
精緻な「顧客戦略」を導き出す
9segsが5segsと異なるのは、次回購入意向(NPI)の軸が加わる点です。これにより、顧客を「積極」と「消極」として今後の購入可能性の有無も分類するので、その差異の原因である心理や行動を分析することができます。
言い換えると、「次も買いたいと思っているロイヤル顧客と、次に買いたいと思っていない(競合や代替品にスイッチするかもしれない)ロイヤル顧客は、その心理や行動の何が違うのか?」といった顧客構造と、「良い売上」の未来予測を加えて分析できるのです。そのため、5segsよりも精緻な「顧客戦略(WHO & WHAT)」を導くことができます。
意外に思われるかもしれませんが、頻度高く購入しているからといって、全員が次の機会も継続するとは限りません。多少の不満や不便はあるけれど、それしかないから買っている/利用している、というプロダクトが実際にはけっこう多いのは、顧客の立場で考えるとわかると思います。
同様に、認知未購入顧客も「次に機会があれば買いたい」と思っている人と、そうではない = ただ認知しているだけの顧客に分けられます。前者のほうが初回購入を促しやすいのは、肌感で理解いただけるでしょう。つまり、NPIありのセグ1、3、5、7までの奇数セグメントのほうが、顧客化や顧客維持のコストは低く抑えられるのです。
顧客心理の精緻な分析がLTV最大化につながる
このように、「次に買いたいか?」を問うNPIの有無は、将来の購入可能性の有無に置き換えられます。同時に、NPIは顧客の購入行動の背景にある心理を捉える指標として活用することができます。
この分類により、顧客の状態と動態(ダイナミクス)を把握して、その行動と心理に応じたマーケティング戦略を構築し、「良い売上」を最大化する施策につなげます。NPIが未来予測指標として優れている点は、後述します。
9つのセグメントに分けることで、各顧客層の行動や態度をより詳細に把握し、個別に対応するため、すなわち良い売上を最大化する戦略を構築することができます。各セグメントの差異分析を行い、それぞれのセグメント顧客の行動や心理の特性と差異を理解し、購入頻度が高くNPIもある「セグ1(積極ロイヤル顧客)」へ移行していただけるよう戦略を構築します。
この分類は、BtoCだけでなくBtoBでも利用可能で、業種や商品にかかわらず幅広いマーケティング施策に活用できます。
なお、「5segsにおけるパレートの法則」を前述しましたが、9segsでもパレートの法則はあてはめられます。5segsではロイヤル顧客層に売上と利益が集中すると解説しましたが、9segsで見た場合、5segsのロイヤル顧客層をNPIで分けたセグ1(積極ロイヤル顧客)への集中はさらに顕著となり、長期で見た場合、累計利益はセグ1に集中します。
未来予測指標としてのNPI
NPIに関しては、事業成長を予測する未来予測指標としての有効性について、学術的な研究を進めています。2019年に発表したNPIは、筆者が共同創業したM-Force社において実務で活用しながら、翌2020年よりマクロミル社と共同で、事業成長のKPIとしての有効性を調査しています。
ビジネスは自社がいかに努力しても、競合や社会や環境の変化によって予期せぬ影響を受けます。したがって、精緻に事業成長を予測するのは根本的に難しいことです。ゆえに、例えば「好感度が上がれば事業も上向くだろう」といった形で、これまで複数の指標が将来のビジネスにつながる指標として施策の効果測定などに用いられてきましたが、定石と支持される指標は出てきていませんでした。
そこで、日用消費財6カテゴリー・54ブランドのマーケットシェアの推移と、NPIを含む複数の指標がどのくらい相関があるかを継続的に調査しています。具体的には、よく使われる従来の指標として「認知」「好感度」「満足度」「NPS(ネット・プロモーター・スコア/他者にどれだけ推奨したいか)」、そしてNPIを加えた5つの指標との相関を追跡しています。
その2年分の結果をまとめたのが、図4-8です。2020年12月に取得した指標と、その時点での金額シェアとの相関、また半年後と1年後の金額シェアとの相関のいずれも、NPIが最も強い相関を示しました。

初回調査で、シェアを高めて継続的に事業成長を目指す上でのKPIとしてNPIが適切であることが示唆され、さらに期間を置いた調査結果から、未来予測指標としての有効性も確認できました。ある時点でNPIが高いブランドは、将来的に事業成長する可能性が高いことが示されたわけです。
なお2021年までの結果は、マーケットシェアへの説明力や実務における実用性に関して研究論文「Selection versus scale: Loyalty indices for brand management」にまとめ、翌2022年11月、マーケティングアナリティクスの国際論文誌である「Journal of Marketing Analytics」に採択されました(参照:https://mforce.jp/news/1117.html)。
これらの活動を通して、多くの企業でNPIを有効に活用し、継続的な利益性向上に役立てていただけるとともに、投資家の評価指標としても活用される可能性が広がっています。今後もM-Force社はマクロミル社を主体とし、未来予測指標としてのNPIについての精度検証を深めていく予定です。
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