
プロダクト自体に価値はない
ここからは、一般的な知識を前提に、筆者の提唱している考え方とフレームワークを重ねて本シリーズのテーマを詳説していきます。
まず、大前提として「価値」の話をしたいと思います。前段の「売上」の項目で、価値について次のように表現しました。
企業が「このプロダクトには価値がある」と信じて世に送り出しても、顧客が実際に「価値がある」と認めなければ購入行動に至らず、売上は発生しません。 |
多くのビジネスの会議、あるいは書籍や記事では「(企業が)価値を“提供“する」という言葉が使われます。それは、ビジネスの経営から現場まで「価値は企業が提供するもの」という考えが暗黙的に浸透しているからでしょう。しかし、筆者の提唱する「顧客起点マーケティング」では、価値は企業が“提供“するものではなく“提案“するものと明確に線引きをしています。
企業はたしかに、プロダクト(=商品:物理的な製品や、無形のサービスの総称)を提供します。しかし、プロダクト自体に価値があるわけではありません。同じプロダクトでも、ある人にとっては価値が生じますが、また別の人にとっては無価値です。
価値はあくまで顧客が見いだすもので、企業ができるのは「顧客が価値を認める“可能性のある“プロダクトの提供」であり、「価値になるかもしれないアイデアの“提案“」に過ぎません。
牛乳が苦手な人にとって牛乳は価値があるか
ごく簡単な例を紹介すると、牛乳は栄養価が高く、多くの方にとって価値があります。しかし、牛乳アレルギーのある方や、体質や味の点で牛乳が苦手な方にとっては価値がありません。そのような方に、自社が製品化できた、従来にない栄養価の高い牛乳を宣伝しても、購入はされないでしょう。一般の方々には購入される、つまり価値が成立しても、理由があって牛乳を買わない方々には価値は成立しません。
このように、プロダクトの提案に「自分にとって良いことだ」「ぜひ欲しい」と思う顧客がいて、その方々に届いて初めて「価値が成立する」と言えますし、それが「価値が生まれた」「顧客とプロダクトの間に価値を創出できた」状態です。
もう一つ例を挙げると、牛乳は栄養価が高いですが、同時に脂肪分もそこそこ高く、ダイエットをしている人には不向きと言われることもあります。そこで低脂肪乳や無脂肪乳といった製品が有効ですが、脂肪分も栄養の一種と捉えると、無加工の牛乳と同等とは言えないでしょう。そこで、栄養価をなるべく減らさずにダイエット中でもおすすめな牛乳を開発しプロダクトとして提案したら、ダイエット中の方々に対して価値が成立する可能性が高いと考えられます。
価値で分岐する、良い売上の「成長スパイラル」と悪い売上の「デススパイラル」
前述のように、価値とは「どのような人にどのようなプロダクトを提供するか」で、成立の有無やその多寡が決まります。「WHO・WHAT・HOW」で表すと、「誰に(WHO)、何を(WHAT)」提案するかで、価値が成立するか、創出されるかどうかが決まるのです。これは拙著に既出の内容ですが、「良い売上」に直結するので、改めて解説します。
WHOとWHATの組み合わせを、筆者は「WHO&WHAT(顧客戦略)」と表しています。良い売上が生まれる条件は、これが価値として成り立っていることが第一に挙げられます。先の牛乳の例でもわかるように、WHAT=プロダクトが同じでも、WHO=顧客が変われば価値は生まれません。
では、価値が高いと何が起こるかを、新規顧客と継続顧客と費用の関係で考えてみます。
良い売上の「成長スパイラル」
まず、新規顧客がプロダクトを購入し、プロダクトを使用体験し高い価値を見いだすと、既存顧客となって自発的に継続購入し始めるので、既存顧客への販売促進の費用が抑えられます。この既存顧客による高い継続購入が高い売上を維持するので、売上のために、新規顧客を獲得する必要性は低くなり、新規顧客獲得への費用も抑えられます。
つまり、既存顧客による高い継続購入からの安定した売上が、全体の費用を抑えて、高い利益と利益率を支える構造になり、累計利益額が大きくなり「良い売上」が積み上がる成長スパイラルとなります。
悪い売上の「デススパイラル」
一方、価値が低いと、新規顧客から継続顧客になる割合が低く、既存顧客の自発的な購入は弱く継続購入率も低いので、既存顧客への販売促進の費用が増えます。さらに、継続顧客による売上が不安定なため、新規顧客の獲得での売上を積み上げる必要性が高くなり、新規顧客獲得への費用が上昇します。
結果として、不安定な売上を支え続けるための全体の費用を積み上げ続けることになり、利益も利益率も下がり、売上の頭打ちと利益減少から赤字に向かいます。これは「悪い売上」に囚われた「デススパイラル」と言えます(図2-1、2-2)。


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