2-6-21:粗利ベースの判断は「利益性の低下」のサインを見逃す

顧客起点マーケティング 良い売上、悪い売上
粗利益だけでなく、営業利益を重視し、投資やコスト変動の影響を正確に把握することが重要です。また、持続可能な成長には営業利益の視点が欠かせません。
2-6-21:粗利ベースの判断は「利益性の低下」のサインを見逃す
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なぜ「粗利」ではなく「営業利益」で見るべきか

前段で、事業成長の指標として「粗利」が用いられることもあるが、それは勧めない、と述べました。これについて補足しておきます。

ビジネスの現場では、手軽な指標として「粗利」を使うことが多いですが、現代のビジネスにおいて「粗利」だけで企業の利益を管理することは、時として誤った経営判断につながるおそれがあります。なぜ粗利ではなく営業利益で見るべきかを解説します。

粗利とは、売上から売上原価を差し引いた「売上総利益」のことであり、いわば「モノを仕入れて売っただけ」の段階での儲けを示す指標です。かつての日本企業、特に製造業や小売業、卸売業などでは、この粗利を企業の「利益を生む力」の中心的な指標として用いてきました。こうした粗利ベースの利益管理は、現在でも多くの企業で根強く残っています。

この背景には、歴史的な成功体験が深く関わっています。例えば、戦後の高度経済成長期においては、大量生産によって単価を下げることができ、売上が増えれば比例して利益も増えるという「スケールメリット(規模の経済)」が大きな競争力となっていました。

こうした時代には、「売上を伸ばせば自然に粗利も増え、利益も確保できる」という方程式が成立しており、それを基に企業経営が行われていたのです。そのため、売上と粗利に注目するシンプルな利益管理が、長らく有効であると信じられてきました。

また、粗利は売上高と売上原価という2つの要素だけで計算できるため、会計処理が比較的簡単で、中小企業など会計リソースが限られる組織にとっても導入しやすいという利点があります。特に現場での営業活動の評価や、日常的な経営判断を素早く行いたいときには、粗利は非常にわかりやすい指標です。

現代のビジネス環境と粗利管理の限界

しかし、現代のビジネス環境は大きく変わっています。特にサービス業やIT業界のように、製造原価が存在しないか軽微である一方で、人件費や広告宣伝費、マーケティング投資、開発費などの「販管費(販売費および一般管理費)」がビジネスコストの大半を占めるような業種では、もはや粗利だけを見ても、企業の真の利益性は把握できません。

例えば、売上を拡大するために大規模な広告キャンペーンを実施したとします。その結果、売上が伸び、粗利も増えたように見えるかもしれません。しかし、その一方で、広告費や営業スタッフの人件費、イベント開催費などの販管費が大きく増えていれば、最終的に企業が本当に残せる利益、すなわち「営業利益」はむしろ減少しているかもしれません。

つまり、粗利ベースでの判断では、日々の投資活動による利益性の変化や低下のサインを見逃すリスクがあるのです(図1-8)。

また、新規顧客を獲得した場合でも、その顧客がどれだけ継続してくれるか、継続的な売上と利益につながるのかは事前にはわかりません。獲得にかけた販促費や営業コストに対して、十分な利益を回収できる保証はなく、短期的な粗利の増加だけを見ていては、長期的な利益への貢献度を正確に測ることは困難です。

持続可能な成長を実現する「営業利益」の視点

営業利益を見ることで、マーケティング施策や営業活動、商品戦略が本当に利益を生み出しているのかを定量的に評価することができます。また、経営資源の投入に対するリターンをより明確に把握できるため、成長戦略の正確な舵取りにも役立ちます。

特に販管費の比重が高くなりがちなサービス業、IT企業、スタートアップ企業においては、この視点の転換は必須です。営業利益を中心に据えた利益管理によってこそ、健全で持続可能な成長が実現できると言えるでしょう。

言い換えれば、「粗利で儲かったように推測できる」のではなく、「営業利益で本当に儲かったのか」を冷静に見極めることが、これからの企業経営にとって極めて重要な判断軸となるのです。

さて、次項からは、ここまでの基礎的な財務知識を踏まえて、筆者の理論「顧客起点マーケティング」で提唱している「価値」と「良い売上」「悪い売上」の関係、そして既存顧客維持の重要性を示す3つの法則を学び、ビジネスにおける継続性(リピート)の意味を理解します。

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《西口一希》

良い売上、悪い売上