
一つの変数だけに偏った成長には限界がある
売上を構成する3つの変数(ユニーク顧客数、平均購入頻度、平均購入単価)の変動が、売上に与える影響について解説します。
売上は「ユニーク顧客数 × 平均購入頻度 × 平均購入単価」なので、原則としてこれらの3つの変数がバランス良く成長し続けることが理想です。しかし、現実のビジネス環境では、常にすべての変数が順調に推移するとは限りません。
市場の変化、競合の状況、顧客の嗜好の変化など、様々な要因によって、いずれかの変数が停滞したり、減少したりすることがあります。
このような場合、継続的に売上を成長させるためには、3つの変数のどれかが「停滞または減少した時に、他の変数が、その減少を補って余りあるほどに上昇する」必要があります。
ですが、一つの変数だけに頼った成長には限界があり、長期的な視点で見るとリスクが高いと言えます。なぜなら、その変数の成長が止まった時点で、売上全体の成長も止まってしまうからです。
事例で見る変数の関係性と限界
具体的なケースを通して、変数の関係性と、一つの変数だけに頼った成長の限界を見ていきましょう。
ケース:オンライン雑貨ショップ(目標月商1,000万円)
このオンライン雑貨ショップの現状は、以下の通りです。
ユニーク顧客数:月間5,000人
平均購入頻度:月に1回
平均購入単価:2,000円
現在の月商:5,000人 × 1回 × 2,000円 = 1,000万円
このショップでは、月商を1,200万円に伸ばしたいと考えています。それぞれ単一の変数を増やす戦略と、3つをバランスよく伸ばす戦略、そして現実的によく起こる「顧客数増加、購入頻度低下」の計5つのケースを解説します。
ケース1:ユニーク顧客数を増やす戦略
平均購入頻度と平均購入単価を維持し、顧客数を増やす場合、必要な顧客数は6,000人(1,200万円 ÷ 1回 ÷ 2,000円)。つまり、新たに1,000人の顧客を獲得する必要がある。
⇒この戦略は、市場に潜在的な顧客が多く存在する限り、継続的な成長の基本となるが、新規顧客獲得の効率が逓減すれば販管費が増えて、売上は増えるが利益性が低下する。また、新規獲得した顧客の継続購入率(残存率)が低いと、利益率の低下に加えて売上の減少となる可能性がある。
ケース2:平均購入頻度を増やす戦略
顧客数と平均購入単価を維持し、平均購入頻度を増やす場合、必要な平均購入頻度は1.2回(1,200万円 ÷ 5,000人 ÷ 2,000円)。つまり、既存顧客に平均して月に1.2回購入してもらう必要がある。
⇒この戦略は、リピート購入を促すための施策(ポイント制度、メールマガジン、特典など)が必要になる。しかし、顧客一人あたりの商品の使用量に限界があるカテゴリーであれば、購入頻度が上がっても使用量が増えず、購入頻度の増加は継続的な売上増につながらない。例えば、耐久消費財(家具や家電など)は、簡単に使用量は増えないので頻繁に購入するものではない、など。
ケース3:平均購入単価を増やす戦略
顧客数と平均購入頻度を維持し、平均購入単価を増やす場合、必要な平均購入単価は2,400円(1,200万円 ÷ 5,000人 ÷ 1回)。つまり、1回の購入で顧客に平均2,400円使ってもらう必要がある。
⇒この戦略は、商品の値上げや、関連商品を投入するなどの施策が必要となる。しかし、価格競争が激しい市場では、プロダクトの改良や強化がない値上げは顧客離れを招く可能性がある。また、関連商品への顧客の満足度が低く継続購入率(残存率)が低ければ、購入単価の増加は一過性となり、継続的な売上増にはつながらない。
ケース4:3つの変数をバランス良く成長させる戦略
上記のように、それぞれの変数による成長にはリスクと限界があり、その準備と実行にかかる時間も異なるので、短期と長期の視点で、3つの変数を費用対効果、投資対効果高く最大化しながらバランスをとりながら成長させることが重要である。
例えば、
継続的に顧客数を10%増の5,500人
半年後から、使用量と購入頻度を増やす販売促進を開始し、平均購入頻度を10%増の1.1回
2年目に、高い満足度と継続購入につながる関連商品を投入し、平均購入単価を10%増の2,200円
とした場合、
最初の半年:5,500人 × 1.0回 × 2,000円 = 1,100万円
半年以降:5,500人 × 1.1回 × 2,000円 = 1,210万円
2年目以降:5,500人 × 1.1回 × 2,200円 = 1,331万円
となり、継続的な成長を続けながら、目標の1,200万円を大きく上回る売上を達成できる。この仮定で、どの変数への投資が高い継続性と売上につながり利益性が高まるのかを見極めながら、また実行した施策の結果が想定外であれば、施策やプロダクトにどのような改善強化が必要なのかを学びながら、それ以降の成長戦略を強化し続ける。
ケース5:顧客数増加と購入頻度低下の影響
現実に起こり得る最悪のケースを考える。このショップは新規顧客獲得のための大規模な割引キャンペーンを実施し、顧客数を6,000人に増やすことに成功。しかし、このキャンペーンは既存顧客のロイヤリティを低下させ、しばらく後に平均購入頻度が0.75回に減少してしまった。また、獲得した新規顧客も割引目的が多く、平均購入頻度が0.75回に減少していった。
■初期状態(月商1,000万円)からの変化
ユニーク顧客数:5,000人 → 6,000人(1,000人増)
平均購入頻度:月に1回 → 0.75回(25%減)
平均購入単価:2,000円 → 2,000円(変化なし)
売上:5,000人 × 1回 × 2,000円 = 1,000万円 → 6,000人 × 0.75回 × 2,000円 = 900万円(100万円減)
最後のケースは、短期間で評価すれば、顧客人数が1,000人増えて初回購入の売上となる一方、既存顧客の購入頻度の低下は反映されないので、「短期で売上が上がって成功」と評価されます。しかし、一定期間をおいて、新規顧客の購入頻度の低さと、既存顧客の購入頻度の低下が売上に反映された時点で「失敗」したことに気づくケースです。
つまり顧客数を1,000人増やしたにもかかわらず、新規顧客獲得キャンペーンが既存顧客の購入意欲を削いでしまったこと、同時に新規で獲得した顧客は割引に魅力を見出して購入したもののプロダクトを評価せず、その後の継続購入率が低くなったことが、長期への悪影響となっています。さらに、新規顧客獲得のための広告宣伝費や販売促進費などの販管費が増加するため、利益は一層低下します。
例えば新規顧客獲得に200万円の費用がかかったとすると、売上が100万円減少した上に、200万円の費用がかかったことになり、合計で300万円の損失となります。こうしたケースは、決してめずらしくありません。
この問題に気づかず、長期間にわたって新規顧客獲得への投資を続け、新規獲得を拡大しながらも売上も頭打ちし、利益はそれ以上に減っていく結果となります。
各変数に対して適切な戦略や施策を講じる
なぜ、こうしたことが起こるのでしょうか? このケースは、短期間で顧客数を増やすことだけに注力し、長期間に影響する既存顧客の維持やリピート購入を促進する施策を怠った場合に起こりやすい状況を示しています。割引キャンペーンなどで一時的に顧客数を増やせたとしても、顧客が商品やサービスに魅力を感じていなければ、高い継続的な購入にはつながりません。
むしろ、割引目当ての顧客ばかりが増え、通常価格で購入する既存顧客が離れていく可能性があります。売上を伸ばすためには、短期間に顧客数を増やすだけでなく、長期的かつ継続的に既存顧客の購入頻度を高め、購入単価を維持または向上させることも同時に実行することが重要です。
売上は3つの変数の掛け算で決まるため(図1-6)、短期と長期の時間軸で3つの変数とその変化に常に注目して、その変化に影響を与える市場環境、競合状況、顧客ニーズなどを分析し、それぞれの変数に適切な戦略や施策を講じ続けることが重要です。結果として、バランスの取れた費用と投資で、持続可能な売上向上とビジネスの成功につなげていきます。

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