
9segsの実例:ニューバランスの分析
最後に、9segsの実例を挙げておきます。図4-16は、ニューバランスの2021年9月時点の9segsの比率(%)です。筆者は当時も現在も同ブランドへの支援等の関わりはなく、これは筆者の会社で発注・実施した自主調査の結果です(調査対象:男女20~69歳、8,244人)。

この時点でブランドがどのような状態で、どこに成長機会があるか、どういった施策を通してセグ1への移行を促して良い売上を積み上げられるかを考えてみます。
まず、歴史の長い有名ブランドだけあって、未認知顧客は全体の20%弱です(新興ブランドの場合は、9割以上が未認知顧客になります)。この20%弱の顧客の認知を獲得することは大事ですが、ただ知ってもらうのではなく、「次に機会があれば買いたい(次回購入意向)」とポジティブな印象を抱いてもらい(セグ7への移行)、そのまま初回購入へとつなげる(セグ3への移行)、一直線の成長ルート(G1→G2→G3)の実現が重要です。
次に、消極 認知未購入顧客が31%と、全体で最も大きな割合を占めています。ブランドを知っているだけの顧客に、次にシューズを購入する機会の選択肢に入れていただき(セグ8からセグ7への移行)、初回購入を実現するか(セグ3への移行)の有効な戦略が導き出せれば、一定の顧客増が見込めそうです。それぞれのセグメントにあたる顧客に丁寧にN1分析を行い、心理変化と行動変化のきっかけがつかめれば、効果的な施策を実践することができます。
同様に、セグ6の消極 離反顧客も20.9%とそれなりに大きいボリュームとなっています。セグ5の積極 離反顧客と比べれば、復帰(セグ3への移行)を促しやすいのは次回購入意向(NPI)のあるセグ5のほうですが、前述のようにセグ6の方々は「ニューバランスの便益や独自性を評価していたけれども、それがニューバランスだったことを忘れているだけ(忘却離反)」の可能性もあります。
あるいは、以前に買ったニューバランスがたまたま合わず、他のニューバランスの別バージョンのスニーカーであれば合うかもしれません。したがって、前述のように思い出していただくためのブランディング施策や、別バージョンのスニーカーで改めて便益と独自性を訴求して、次回購入意向を持っていただき(セグ5への移行)、そして復帰/再購入へと進んでいただく(セグ3への移行)ことも可能性があります。
理想的な顧客構造とブランドの強さ
では、現在の顧客(セグ1、2、3、4)を見てみましょう。多くのブランドでは、次回購入意向のある奇数セグメントよりも、意向のない偶数セグメントのほうがボリュームが大きいです。しかしニューバランスは既存顧客において、一般顧客は差が少なく(セグ3が7.7%、セグ4が9.7%)、ロイヤル顧客に至っては積極ロイヤルのほうが上回っています(セグ1が3.2%、セグ2が2.3%)。
これはブランドとして理想的な状態で、既存顧客のブランドへの満足度が高く、長期のLTVと利益貢献が安定していることがうかがえます。
既存顧客における偶数セグメントが多い状態は、「次に機会があっても買わないかもしれない」という顧客が多い状態です。例えば、より安価であったり、より魅力的な競合品や代替品が市場に登場したりすると、この方々は流出しやすいと言えます。ですので、次も買いたいと思ってくださっている奇数セグメント顧客の割合が重要なのです。それはそのまま、ブランドの強さとも捉えられます。
ニューバランスに関しては、既存顧客の満足度が高いので、消極 一般顧客もセグ3(積極一般)やセグ1(積極ロイヤル)の顧客が実感しているプロダクトの良さ(満足しているポイント)を知れば、積極化する可能性がありそうです。たまたま買ったけれど特にブランドに思い入れがないという方々に、どういったコミュニケーションをすれば「次もニューバランス」と思っていただけるか、心理を探って提案や訴求内容を探る余地があります。
さらに、ロイヤル顧客全体においてセグ2(消極ロイヤル)よりセグ1(積極ロイヤル)のほうが大きいというのは理想的な状態です。セグ2の方々に次回購入意向を持っていただく便益と独自性の提案や、訴求内容を模索し、さらに、セグ1の方々によりロイヤルになっていただく(高い頻度で将来も購入し続ける)便益と独自性の提案や訴求内容を探っていきます。
各セグメントの経年変化を見る
さらに、先の調査時からの変化を見てみましょう(図4-17)。


2021年12月の調査後、およそ3年後となる2025年1月に、M-Force社が自主的に行った追加調査の結果を見ると、ニューバランスは2021年12月の9segsで予測されたように、理想的な成長を続けているようです。
継続的な売上と利益への貢献の最も高いセグ1(積極ロイヤル)、セグ2(消極ロイヤル)は、それぞれ3.2%から3.6%へ+0.4%、2.3%から2.6%へ+0.3%伸長し、ロイヤル顧客層全体として5.5%から6.2%へ+0.7%も増加しています。
一方で、一般顧客層(セグ3+4)は17.4%から16.3%へ、-1.1%縮小し、結果として既存顧客全体(セグ1+2+3+4)が22.9%から22.5%へ、-0.4%減っています。
さて、この変化をどう読み解けばいいのでしょうか?
実はこの変化は、驚くほど理想的な変化なのです。既存顧客数全体の減少は、「悪い売上」のセグ4(消極一般)が9.7%から8.2%にー1.5%ダウンした影響であり、むしろ「良い売上」となるセグ1(積極ロイヤル)への移行確率の高いセグ3(積極一般)は7.7%から8.1%に+0.4%伸びていることを評価すべきなのです。
この変化は、今後も引き続き高い利益性の「良い売上」を最大化しつつ、利益性の悪い「悪い売上」(消極一般顧客)を最小化していることに他なりません。
すでに解説しましたが、売上は、ユニーク顧客数 × 平均購入頻度 × 平均購入額です。つまり9segsで見る場合、売上への影響は、購入頻度の高いロイヤル顧客層の影響が一般顧客よりはるかに大きいのです。
このスニーカーの調査では、その購入頻度の差が3倍以上あることを加味すると、ロイヤル顧客層が0.7%伸び一般顧客層が1.1%減少していることは、売上への影響はロイヤル顧客層からの「0.7 × 3倍以上 = +2.1%以上」と一般層からの「-1.1%」を合算して、+1%以上の成長と計算できます。
ニューバランスは非上場企業であり財務データ自体を発表しませんが、2025年1月に行われた全米小売業協会の年次総会で、ジョー・プレストン社長兼CEOは、2024年の売上高が78億ドル(約1兆1,388億円)に達し、4年連続で成長率20%以上を記録したと公表しています。ナイキやアディダスなど競争の激しいスポーツ市場の中で20%超えは、脅威的な成長です。
「WHAT」の強化が「良い売上」を創る
ニューバランスの具体例を、経年変化とともに紹介しました。ただし言わずもがな、プロダクトへの高い満足感がブランド力の源泉になっているので、訴求だけを真似しても意味がありません。訴求の中身より前に、プロダクトにフォーカスすべきです。
訴求の仕方や方法であるコミュニケーション施策はあくまで手段手法 = HOWであり、プロダクトのWHAT(どんな便益と独自性を提案するか)、そのプロダクト自体の強化が、「良い売上」の積み上げに常に重要であることを忘れないようにしたいです。
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