2-6-2:顧客が途切れない鉄板焼き店の秘密

顧客起点マーケティング 良い売上、悪い売上
常連や子連れ客のニーズに応えることで、安定した良い売上と長期的な繁盛を実現した鉄板焼き店の事例です。
2-6-2:顧客が途切れない鉄板焼き店の秘密
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常連や子連れ客同士を紹介するマスター

前項は、以下のように、2種類の売上を定義しました。

  • 「良い売上」とは、継続的な利益につながる売上で、高い累計利益を生み出す

  • 「悪い売上」は、一過性の売上で、ほとんどの場合、損失を生み出す

ここで少し、筆者の体験を紹介したいと思います。まだ、これらの概念を見いだす以前の話です。

20年ほど前のことです。自分に子どもが生まれるまでは、夫婦でよく外食していたのですが、子どもが生まれてからはなかなか外食するのが難しくなりました。お子さんがいない方も、ファミレスやファストフード店で子連れの方々を見かけると思いますが、子どもは少しもじっとしていませんし、どうしても騒々しくしてしまいます。私たちも、大人がゆっくり飲食を楽しめるようなお店からは足が遠のいていました。

そんな中、たまたま情報誌で「赤ちゃんでも大丈夫」という鉄板焼き居酒屋を見つけ、1歳ほどだった娘を連れて車で行ってみました。最寄り駅からは離れているものの、駐車場が広く、店に入ると大きな鉄板の周りには中高年のお一人様や夫婦、カップルがずらり。小上がりになっている座敷では、赤ちゃんから未就学児や小学生、その親たちでにぎわっています。

さらに店の奥にも空間があり、おもちゃやお絵描きの道具がそこかしこに散らばっています。子どもたちが飽きてくると、そこに移動して一緒に遊び始めます。学生アルバイトさんも、手が空くと子どもたちの相手をしてくれます。その部屋の隣にはいろんなアイスクリームが詰まった大きな冷凍庫があり、子どもたちは、アイスを無料で好きなだけ選ぶことができました。

マスターは気さくな方で、初めて来店した私たちに常連さんだった周りの家族を紹介してくれました。皆さんと話すうちに共通点や共通の知り合いがいるとわかり、話がはずみます。うちの娘も座敷を動き回りましたが、少し大きい子たちが遊んでくれたりして、久しぶりに外食を満喫できました。お会計は、一般的な鉄板焼き店に比べれば少し高い印象だったものの、それをはるかに上回る満足感で、この体験に値段をつけるのは難しいと感じました。

「どんな人が常連になっている?」

以降、この店には娘が中学生くらいになるまで10年以上通いました。その間にマスターはおもちゃやアイスの種類を増やし、隣の店が売りに出たら買い取って、リノベーションでつないで座敷をさらに広げ、店はどんどんにぎわっていきました。

子連れの顧客は、行き帰りにわざわざタクシーを使ってまで通う人もいました。私たちも子連れの常連さんと仲良くなり、週末に常連さんの別荘に集まってバーベキューをしたり、そこにお店から差し入れがあったりと、たくさんの交流が生まれました。

私は当時からマーケティングに携わっていたので、「どうしてこんなお店を実現できているのか」が不思議で仕方ありませんでした。聞くと、広告は何もしておらず、雑誌メディアの取材依頼があれば時々受けている程度だといいます。なので最初に訪れてから何度もマスターと会話して、繁盛の秘密を探りました。

いつも、はじめは「僕はただお客さんと話して料理して、皆さんと楽しんでいるだけですよ」としか話されないのですが、次第に経緯や工夫が見えてきました。

マスターはもともとフレンチのシェフで、独立して開業したときはフレンチ風のお好み焼きをメインにしていたそうです。ものめずらしいのもあって様々な顧客層が来店しましたが、あまり利益が出ていない。こんなもんか、と思いながら数年経つころ、常連になる人とそうでない人がわかってきました。

常連になるのは、近くに住んでいて自宅代わりに食事に来る中高年とその友人、カップルや、座敷を重宝する子ども連れでした。新規の方で定着するのは、常連の紹介やお店で仲良くなった人同士が圧倒的に多かったのです。

同年代の子どもがいるとそれだけで話題はあるので、ここで仲良くなって次は一緒に来たり、自分たちが来たら連絡し誘ってくれたりする。この子連れ層が年々大きくなり、子連れではない近所の方やカップルは、子ども好きで、子どもの喧騒を受け入れる方が常連になっていました。

常連さんの紹介の新規は、常連になりやすい

常連の方々はメディア掲載や天候などによらず、年間を通して一定の割合で来てくれますが、雑誌などで紹介されて急に増えた新規顧客は、ほとんどリピートしません。マスターは次第に、急に新規顧客が増えて、売上が増えて、仕入れや仕込みやアルバイトの手配でドタバタする時期は利益が少なく、むしろ売上が小さくとも常連客で売上が安定している時期は利益が出ていることに気づきました。

また、新規客でもリピーターになる方と1回切りで終わる方では明らかに差があると実感し、「常連さんが連れてくる方は同じく常連になりやすい」と感じるようになりました。

そこで改めて意識して顧客に話しかけ、特に子連れの顧客同士をつなげていくと、その顧客からの紹介での来店が起こりやすくなりました。子どもたちが安全に飽きずに過ごせると大人はゆっくり食事ができるので、奥の倉庫スペースは改装されて遊び場になり、地元の学生をアルバイト採用すれば、地元の顧客との会話もはずみ、お兄さんお姉さんに子どもたちもなつくようにもなりました。

また鉄板で焼き上げるバターたっぷりのトーストは、子ども連れが必ず頼む人気メニューなので、食事が後半になると、頼まなくてもマスターからの「パン焼くね」との一声で必ず出てきました。そのパンの量が多いので、食べ切れなさそうだと他の家族におすそ分けすることもあり、そこでまた会話が生まれていきました。

結果、常連さんが、次に常連になる可能性が高い新規顧客をどんどん呼び込む構造ができ、売上と利益が年間を通して安定している繁盛店になったのです。もちろん、いくら味に満足しても、大人だけの空間で静かに食事をしたい方は最初の来訪のみで離反しているでしょう。でも、マスターはそうした顧客を追いませんでした。

この鉄板焼き店は、売上や顧客数を追い求めた結果、繁盛したわけではありません。どのような顧客が再来店につながり、その方々は何を求めて来られているのか、何がきっかけなのか、何が重要なのか。そのニーズに応えようとし続けたことで、常連を維持しながら“常連候補“の新規が自然に集まる店になったのです。子どもが大きくなった後、久しぶりに夫婦で店を訪れましたが、常連からつながっていった多くの若い家族と子どもたちの活気でますますにぎわっていました。

この店のマスターが得ていたのは、まさしく継続的な利益につながる「良い売上」でした。次項では、この店舗の例を踏まえて、良い売上にこだわるべき理由を解説します。

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《西口一希》

良い売上、悪い売上