
利益を支えるのは「新規」ではなく「継続顧客」
前項は、子連れ客を中心とした常連でにぎわう鉄板焼き店の実話を紹介しました。
20年以上経ってマーケティング視点で振り返るこのお店の話は、決して特殊な事例ではないと言えます。今ではオンラインの口コミやSNSで、どんな製品やサービス、あるいはビジネス形態でも、人が人を呼ぶ構造が強くなっています。
鉄板焼き店のマスターが日々、直接顧客に触れ、数字を振り返る中で試行錯誤を経てたどり着いたように、どんなビジネスでも、常連さんの特徴的な行動や継続のきっかけをつかんで再現を図ることで、同じ成功にたどり着くことはできます。
マーケターなら、新規顧客の獲得には大きなコストがかかり、逆にリピーターの維持にはコストがあまりかからないことを、肌感でつかんでおられるはずです。その違いを計算すれば、必ず新規顧客の売上は利益貢献が少なく、リピーターである継続顧客からの売上から得られる利益がビジネスを支えているのです。
この構造を理解すれば、長期的かつ継続的な利益の拡大、その利益を再投資して売上の拡大につなげることができるのです。現に、様々な失敗を経て、この構造に気づいてから、筆者は今いろいろなビジネスにおいてこの概念を踏襲し、事業成長につなげています。
ビジネスの本質は「良い売上」の最大化にある
本書で提案する「良い売上」とは、「継続的に利益に貢献する売上」です。逆に「悪い売上」とは「一過性で利益に貢献しない売上」です。世の中のほとんどの事業は新規獲得に大きなコストをかけているため、1回きりの購入や利用で終わってしまうと、最初にかけたコストを回収できません。むしろ赤字です。その赤字を埋めているのは、リピーターからの利益です。
すべての顧客は1回目の購入時は新規顧客なので、その初回購入が成立した時点ではほぼ赤字です。さらに、新規顧客の多くは離反するので、100%が継続してくださるビジネスはあり得ません。なので、時間軸を念頭に入れて新規顧客の継続率を高めないといけませんし、新規の段階から「継続の見込みが高い」顧客を見極めて、その方々により多く新規流入していただくことが重要になります。
単に「新規よりもリピーターを優先すべき」とか「リピーターより新規」といった優先順位の話ではないのです。「良い売上」になる顧客を最大化し、「悪い売上」になる顧客を最小化することが、ビジネスの本質だと言えます。これはBtoCに限らず、BtoB含めてすべてのビジネスに共通する本質です。
競争が少なく、人口が増えてクライアント数が増えていた昭和の時代であれば、単純に顧客数を増やして売上増を追い求めれば、利益率は下がっても総額としての利益額が増えるので、ビジネス上、大きな問題ではなかったかもしれません。この時代には「売上がすべてを癒す」という言葉もありました。
しかし、国内外含めて競争が激しく、人口もクライアント数も増えない今は、「とにかく売上を上げろ」と号令をかけて生き残れる時代ではありません。すべてのビジネスパーソンは、これまで以上に顧客とクライアントをよく理解し、長期の生存戦略として意識的に「良い売上」を最大化し、積み重ねていく必要に迫られているのです。
なお、これまで筆者のいずれかの書籍をお読みいただいている方に、筆者の理論と本シリーズの概念「良い売上、悪い売上」がどのように体系立っているかをお伝えしておきます(以下図)。もちろん、これまでも一般的なビジネスの知識体系に立脚して筆者の理論「顧客起点マーケティング」を提示してきましたが、ここでは基礎的な財務知識が不可欠になります。財務は苦手とするマーケターも多いので、もう少し本シリーズの概要を知っていただくためのパートを経て、財務に関してマーケターに必要な最低限の解説をします。

持続的成長のために本連載で解き明かすこと
さて、本シリーズでは次のようなことを解説していきます。いずれかに疑問や興味を感じる方は、ぜひ続きを読み進めてみてください。
「売上を上げれば利益も上がる」は昭和の神話
ほとんどのビジネスは、初回購入で利益は出ない
売上向上を目指すと、簡単に実現できる悪い売上を積み上げてしまう
同じ1万円の売上でも、利益率は大きく異なる
既存顧客は永遠ではなく、必ず離反する
「価値」が高いと、価格を維持もしくは上げられ、費用は抑えられる
「パレートの法則(2:8の法則)は、長期の累計利益で考えるべき」の意味
「5:1の法則 新規獲得にかかる費用は、既存維持の約5倍かかる」の意味
「5:25の法則 既存顧客の離反を5%改善すると、利益が25%改善する」の意味
LTV(LifeTimeValue:顧客生涯価値)とは、継続型ビジネスの最重要指標
LTVが高い顧客=良い売上をもたらす顧客=継続性の高いロイヤル顧客
どうしたら、LTVを利益ベースで把握できるか
どうしたら「将来、良い売上をもたらしてくれる顧客」を早期に見極められるか
顧客を把握する方法:ID POS分析、5segsおよび9segsカスタマーダイナミクス
「増収減益」のほとんどは「増収増益」に転じない
また、後半では「経営を左右する二大問題」として、「売上至上主義が引き起こす問題と対策」「新商品の成長の罠 ミルフィーユの崩壊」を解説しました。これらは経営問題に関わる内容ですので、経営レベルでの問題をまず理解されたい経営者やCMOクラスの方には特にお勧めします。現場のマーケティング実務者の方は、必要に応じてお読みください。
続いて、書籍『THE MODEL』(翔泳社)著者の福田康隆氏に監修いただき、BtoB領域における「良い売上」「悪い売上」を解説していきます。
最後に、一休.comの榊淳社長、花房みのり氏との特別対談を収録しました。筆者が考える「良い売上と悪い売上」の管理を徹底されている同社のお話から、ぜひ「良い売上」を追求するための示唆を得てください。
本シリーズを通して、経営層を目指すマーケターや現在の経営層の方々、すべてのビジネスパーソンの方々が投じる費用や労力が最大限に「良い売上」に結実するよう執筆を進めます。お役に立てていただけたら幸いです。
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