
継続的な利益を生む「良い売上」への視点
改めて、「良い売上」と「悪い売上」についてまとめておきます。
良い売上……継続的に利益に貢献する売上
悪い売上……利益に貢献しない一過性の売上
本書の前半で順を追って説明していきますが、売上は同じ金額であっても、同じ利益を生み出しません。どんなビジネスでも新規獲得に多くの費用がかかるため、新規顧客からいただく売上からは、その初回の時点ではあまり利益は出ません。むしろ、ほとんどが赤字でしょう。
したがって、新規獲得からの売上ではなく、その後の継続購入からの売上が重要になります。ほとんどのビジネスでは、何回も継続していただいて初めて、利益が積み上がっていきます。そのため、売上を見るのではなく、その売上から生み出されている利益に注目し、長期的な視点でビジネスに取り組むことが必要です(図1)。
売上ベースではなく、利益ベースで数値を追う
短期ではなく、利益の継続性に着目して、長期間でビジネスを考える

そうして「良い売上」を最大化して「悪い売上」を最小化した先に、生み出される利益額と利益率が最大化され、顧客により大きな価値を提案できるマーケティング投資が可能となり、結果として継続的な事業成長に結びつきます。そのための方法論も、後半で解説します。
ちなみに、本書の第一の対象読者は「CMOや経営層を目指す、すべてのマーケターとビジネスパーソン」、第二に「経営層やCMO」としています。その場合、「マーケティング」の定義に相違があると読み進めにくいため、ここで筆者が考える定義を記しておきます。なお、本書では、あらゆる製品やサービスを総称して「プロダクト」と表記します。
そもそも「マーケティング」とは?
前提として、マーケティングとは何かを明記しておきます。筆者は、次のように考えています。
マーケティングとは: 顧客のニーズを洞察し、顧客が価値を見いだすプロダクト(製品やサービス)を生み出すこと。さらに、その価値を高め続けて継続的な利益を生み出し、その利益を再投資して新たな価値を創り続けること。 |
これは、以下の3つに分解することができます(図2)。
価値の提案と実現:顧客のニーズを洞察し、顧客が価値を見いだすプロダクトを提案し、価値を実現する
利益の継続:その価値を高め続けて、継続的な利益を生み出す
利益の再投資:その利益を再投資して、新たな価値を創り続ける

本シリーズを読まれる方々の、現時点での職務としては、すべてを掌管されていることは少ないかもしれません。この3つに責任を負うのは経営者、もしくは一部のCMOの方になるでしょうが、キャリア形成の解像度が上がりますので、この機会に全体像を理解していただければと思います。
1は、誰に(WHO)何を(WHAT)提供するか、という「顧客戦略(WHO&WHAT)」を見極め、様々な手段(HOW)で顧客とプロダクトの間に価値を成立させるステップです。これが成立して初めて、売上が生じます。次に2は、その価値の最大化に取り組み、継続的な利益を生み出すステップです。そして3で、その利益を新たな価値創造へと投資していきます。マーケティングは、この3つを循環させていく活動だと定義しています。
「売上に“種類“がある」ことにピンとこない理由
本題に戻ります。現段階ではまだ、そもそも「売上に“種類“がある」こととご自身のビジネスが結びついていないかもしれません。
実際に、筆者はこの数年の間に多くの経営者やマーケターの方に「良い売上」「悪い売上」の話をさせていただきましたが、すぐにご自身のビジネスと関連づけて理解された方は少数でした。
手始めに、「はじめに」の末尾に記載した、次の項目をひも解いてみます。
「売上を上げれば利益も上がる(売上はすべてを癒す)」は昭和の神話
同じ1万円の売上でも、利益は大きく異なる
ほとんどのビジネスは、初回購入で利益は出ない
まず、ビジネスパーソンなら、次の点に同意しない方はいないでしょう。
「『売上』と『利益』は違う」
さすがにこれは、当たり前のことです。では、次はどうでしょうか。
「『売上が上がっても、利益が上がる』わけではない」
「事業成長に必要なのは『利益』であり、『売上』は事業成長に直接的には関与しない」
これも、“正“です。売上を獲得するには、必ず費用がかかります。費用が一定なら、売上が上がれば利益も上がりますが、売上を獲得するために多額の費用を投じれば利益はむしろ減り、マイナスになることもあります。
また、売上はもちろん重要ですが、事業を成長させるのに必要なのは売上ではなく利益です。もちろん、スタートアップや新規事業では利益が出なくても、売上が上がることで、投資家や株主から資金を得て投資して売上成長できるという場合もあります。
しかし、それも将来に高い利益を生み出す可能性がある場合のみです。利益の見込みがないのに、売上が上がっても、投資家からも株主からもサポートを得ることはできなくなるので、どんなビジネスでも、最終目標として利益と利益率の見込みを把握し、管理しなければなりません。
ここまでの話に、異を唱える方はいないと思います。
しかし実際には、日々のビジネスの現場では利益にほとんど注目されず、驚くほど、売上の話ばかりが語られています。それは、なぜなのでしょうか?
次に挙げる、複数の「売上にばかり目が向いてしまう構造」があるからです(図3)。
① 部門や個人の評価が「売上額」にひもづいて いるため、おのずと売上を追いかけてしまう
② 利益は短期的に大きく伸ばせないため、すぐに数字が動く売上の向上に注力しがち
③ 高度成長期(昭和の時代)は売上が上がれば利益も上がっていたので、今もその感覚をひきずっている

次項から、一つずつ解説していきます。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です



