
AIによるマーケティングプロセスへの影響
AIがもたらすマーケティングプロセスへの影響を、「顧客起点マーケティング」を含めてステップごとに予測してみます。
以下の図は、マーケティングプロセス(R-STP-MM-I-C)を「戦略的プロセス(R、STP)」と「戦術的プロセス(MM、I、C)」に区分し、同じく「顧客起点マーケティング(5segs、9segs、N1分析)」を戦略的プロセスに、またマーケティングの様々な手段手法であるHOWを戦術的プロセスに接続したものです。AIマーケティングは、このすべてに影響します。
(顧客起点マーケティングの詳細は、こちら https://wisdom-evolution.com/category/ccm/ をご参照ください)
AI マーケティングの影響

では、マーケティングプロセスに沿って順にAIマーケティングの影響を解説していきます。
Research(リサーチ)
まずステップ1のResearch(リサーチ)ですが、AIの活用により、データの収集、分析、洞察の生成が飛躍的に効率化されると考えられます。特に経済産業省や総務省など官公庁から出ている調査データや様々な団体が発表している市場や業界に関するデータは、自然言語処理(NLP)やウェブスクレイピングを用いて、すでにリアルタイムで自動収集が可能です。さらに、ニュース記事やソーシャルメディアへの投稿を収集し、顧客の感情分析を行うことで顧客のインサイトを抽出できるようになるのは確実です。
これら膨大なデータをクラスタリングやトレンド分析によって整理し、経済指標や市場データを基にした予測分析モデルを構築することで、将来の市場動向をシミュレーションすることも可能です。これにより、リサーチに要する時間と人的リソースを大幅に削減し、マーケターは判断と意思決定に集中できるようになります。
STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)
ステップ2のSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)では、自社の保有する顧客の行動データやPOS データ、さらに具体的なターゲット市場や顧客層の調査データを与えることでAI が顧客セグメントの抽出とターゲティングの最適化を自動化すると考えられます。顧客の購入履歴や行動データ、人口統計データを機械学習で分析し、細分化されたセグメントを自動で生成することが可能になります。これにより、継続的な利益性が高い顧客層を特定し、そのセグメントに最適な製品やサービスを提案できます。
さらに、競合に関する調査データ、アンケートデータをAI に与えることで、市場内での競合他社とのポジショニングをリアルタイムで把握し、自社の強みを効果的に訴求するコミュニケーションを構築できます。AIによるSTPの効率化は、潜在顧客とターゲット市場の分析精度を高め、マーケティング活動の投資対効果を大きく変えると考えられます。マーケターが行うべきは、AIに提供するデータの種類や分類の設計、そのデータ取得のための調査設計と、結果としてAI が出力する提案に対する判断と意思決定になります。
MM(マーケティングミックス)
ステップ3のMMを4P で考えると、プロダクト(商品)では、ソーシャルメディア上での評判や顧客フィードバックをリアルタイムで解析し、その結果を反映して商品仕様やデザインを最適化することが可能です。また、すでに可能になっている新商品のコンセプトや広告クリエイティブの候補作成の自動生成の質も急激に高まると考えられます。プライス(価格)においては、AIが市場動向や需要データを分析し、競合価格を考慮したダイナミックプライシング(動的価格設定)をリアルタイムで実施し、プレイス(販売流通)では、AIがサプライチェーン全体のデータを解析し、効率的な配送ルートや販売チャネルの最適化を提案できるでしょう。
さらに、プロモーションでは、GAFAM(Google, Apple,Facebook, Amazon, Microsoft)のようなプラットフォーマーのデータと直接結びついて、 広告キャンペーンAIがターゲット顧客ごとに最適なメディアを選定し、効果的なメッセージを自動作成し予算と売上目標に応じて自動配信するようになると予測できます。これにより、4P全体が効率化され、さらにステップ2のSTPとの一体化、同時自動化が進むと考えられます。この変化により、リソースの無駄を最小限に抑えることができ、マーケターは、短期と長期の売上と利益の目標に応じた判断に集中するようになります。同時に、これらの自動化によって、マーケティング、商品開発、財務、営業、物流などサプライチェーン全体の関わりがリアルタイムに密結合することで、これらの複数の部門をリードできる統合的な判断と意思決定が担えるCMOやCEOの需要が大きくなると考えられます。
Implementation(実行)
ステップ4のImplementation(実行)では、AIがマーケティングキャンペーンの管理や運用を自動化するでしょう。AIはリアルタイムでマーケティング施策やキャンペーンの進捗をモニタリングし、効果が低い施策については予算配分や内容を自動調整します。また、現在のマーケティングオートメーション(MA)ツールもステップ1、2、3 のデータとプロセスと連携することで、よりリアルタイムで、精度高く自動化されます。これらすべてを統合して運用するプロジェクト管理のためのAI が実行プロセス全体を監視しリソースの配分やスケジュールの最適化を行い、実行段階のスピードはリアルタイム化され、マーケターの実務負担はなくなっていくと予測できます。
Control(管理)
ステップ5のControl(管理)は、ステップ4のImplementation(実行)とプロセス統合され、AIが施策の成果を迅速かつ正確に評価します。プロジェクト管理のためのAIが、ダッシュボード上で、マーケティング施策やキャンペーンの各種KPI(新規顧客数、ROI、LTV 進捗など)だけでなく、短期と長期の売上と利益目標の進捗とそれらの相関関係・因果関係の指標を可視化することで、マーケティング投資だけでなく事業に関わる投資と費用を項目ごとにリアルタイムで把握できるようになると予測できます。
また、市場環境と顧客に関するデータとマーケティング施策データが連携されることで、予測分析能力が向上し、将来パフォーマンスをシミュレーションし、売上や顧客行動の異常をリアルタイムでアラートすることも可能になると予測できます。このような自動化により、AI は次に行うべきアクションを具体的に提案し、マーケターはその判断と意思決定に集中できると考えます。
ここまでの内容を、次に端的にまとめておきます。
これからのAIマーケティングのあり方
ステップ1:Research(リサーチ)
自然言語処理(NLP)やウェブスクレイピングを活用し、調査データや市場情報をリアルタイムで自動収集
経済産業省や総務省、業界団体の調査データ、ニュース記事、ソーシャルメディア投稿を自動解析
顧客感情分析により、顧客インサイトを抽出
経済指標や市場データを基に予測分析モデルを構築し、将来の市場動向をシミュレーション
ステップ2:STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)
顧客の行動データやPOSデータを分析し、細分化された顧客セグメントを自動生成 ・ 購入履歴や行動データ、人口統計データを活用し、継続的な利益性が高い顧客層を特定
市場内での競合他社とのポジショニングをリアルタイムで把握
効果的なコミュニケーションを提案し、マーケティング投資対効果が向上
ステップ3:Marketing Mix(マーケティングミックス)
ソーシャルメディア上の評判や顧客フィードバックをリアルタイム解析し、製品仕様やデザインを最適化
新製品のコンセプトや広告クリエイティブを自動生成
市場動向や需要データを分析し、競合価格を考慮したダイナミックプライシングをリアルタイムで実施
サプライチェーン全体のデータを解析し、効率的な配送ルートや販売チャネルの最適化を提案
GAFAMのデータを活用し、ターゲット顧客ごとに最適なメディアを選定
効果的なメッセージを自動作成し、予算と売上目標に応じた広告配信を自動化
ステップ4:Implementation(実行)
マーケティングオートメーション(MA)ツールがデータと連携し、より精度の高い自動化を実現
プロジェクト管理AIが実行プロセス全体を監視し、リソース配分やスケジュールの最適化を実施
ステップ5:Control(管理)
施策の成果を迅速かつ正確に評価
ダッシュボードAIがKPI(新規顧客数、ROI、LTV進捗など)や売上・利益目標の進捗を可視化
市場環境データと施策データを連携し、予測分析能力を向上
異常検知AIが売上や顧客行動の異常をリアルタイムでアラート、次のアクションも具体的に提案
以上、マーケティングプロセスのステップごとに考えてみました。俯瞰して見ると、良質な大量のデータが準備され連携することで、マーケティングプロセスは全体にわたり、リサーチから実行、管理に至るまでのすべてのステップで効率化と省人化、リアルタイム化されていくでしょう。これにより、マーケターの役割は「判断」と「意思決定」、また「創造的な業務」に集中していきます。一方、マーケティング、商品開発、営業、財務、生産、調達などの機能別の役割の意義は薄れていくと予測され、組織体系自体を大きく見直し、AI を最大活用する新しい職責と組織に移行していくと考えられます。
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