

企業間取引で培われた産業マーケティング
産業マーケティングは、特に1970年代に学術研究として注目され始めた、企業間での製品やサービスの取引を対象としたマーケティング手法です。この時代の産業マーケティングは、主に製造業者が他の企業に製品や部品を販売することに焦点を当てていました。この段階では、マーケティング活動は比較的単純で、大量生産された製品を市場に供給することが中心でした。
産業マーケティングの活用事例
ゼネラルエレクトリック(GE):1950年代から1960年代にかけて、GEは産業設備と部品を他の製造業者に供給していました。この時期、GEは広告や直接営業を通じて、その高品質な製品を市場にアピールし、ブランドの信頼性を構築しました。
IBM:1960年代、IBMはコンピューターシステムや関連機器を他のビジネスに販売していました。IBMはその技術的専門知識と顧客サービスを前面に出し、長期的な顧客関係を構築することに重点を置いていました。
デュポン(Du Pont):デュポンは化学製品と素材を、自動車産業や建築産業など様々な産業向けに供給していました。製品の品質と技術革新を通じて、デュポンは産業マーケットで強固な地位を築きました。
理論が洗練されていったビジネスマーケティング
1980年代以降、BtoB分野においても、市場のグローバル化と企業間競争の激化に伴い、マーケティング理論がより洗練されていきました。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングといった概念がビジネスマーケットにも適用されるようになり、ビジネスマーケティングと呼ばれるようになりました。この時代には、企業は特定の業界や顧客ニーズに合わせて製品をカスタマイズし、より戦略的なセールスアプローチを取り入れ始めました。
ビジネスマーケティングの活用事例
インテル(Intel):1980年代末、インテルは「Intel Inside」キャンペーンを開始しました。このキャンペーンは、最終顧客に対しても認知度を高めることで、パソコンメーカーに対する製品の採用を促進しました。
シーメンス(Siemens):1970年代から1980年代にかけて、シーメンスは工業用機械とシステムをグローバルに販売していました。カスタマイズされたソリューションと優れたアフターサービスを提供することで、特定の顧客ニーズに応じた製品を提供しました。
エアバス(Airbus):1970年代に設立されたエアバスは、1980年代以降に、航空機の製造と販売において、カスタマイズされた航空機ソリューションを提供して競合他社と差別化を図りました。顧客と密接に協力して、その特定の運用ニーズに合わせた航空機を設計しました。
小売店向けのトレードマーケティング
トレードマーケティングは、概念は1970年からありましたが、P&Gなどの大手小売企業が小売店向けの営業活動において実践し始めたのは、1980年代から1990年代にかけてです。小売業者との関係を強化し、自社製品の店頭での販売を促進するために導入されたのが発端です。これにより、商品棚の位置やディスプレイ方法、プロモーションキャンペーンの共同展開など、具体的な戦略が導入されました。1990年代には、小売店のPOS(Point of Sale)データや消費者の購買データ分析を活用し、小売業者と協力してより効果的なマーケティング戦略を展開しました。この時期に、P&Gは米国だけでなく世界的に、大手スーパーマーケットチェーンやドラッグストアと強力なパートナーシップを築きました。
トレードマーケティングの活用事例
P&G(Procter&Gamble):小売店に対して詳細な販売データを提供し、売り場の最適化や在庫管理をサポートしています。例えば、POS(Point of Sale)データを用いて、商品の販売動向を分析し、小売店がどの製品をどのタイミングで発注すべきかをアドバイスします。また、営業部隊がマーケティング観点で、小売店に対して自社製品の利点を具体的なコンセプトとして提案し、その製品がどのように消費者の生活を改善するかを具体的に説明し、マーケティングキャンペーンの一環として小売店の店頭プロモーションと連携させます。
ネスレ(Nestle):ネスレは、小売店の棚割りや商品配置を最適化するためのデータを提供し、カテゴリーマネジメントをサポートしています。特に、各商品の売上データを分析し、最適な棚配置やプロモーション戦略を提案することで、小売店の売上向上を図ります。
花王(Kao):花王は、小売店に対して消費者の購買行動に関するインサイトを提供し、それを基にした販売促進施策を提案しています。例えば、特定の製品がどのような消費者層に人気があるかを分析し、小売店がターゲット層に合わせたプロモーションを展開できるようサポートします。
デジタルにより発展したBtoBマーケティング
1990年代以降、インターネットとデジタルテクノロジーの急速な普及により、BtoBマーケティングが明確な分野として確立しました。
BtoB(ビジネス・トゥ・ビジネス)マーケティングは、企業が他の企業を対象として製品やサービスを販売するためのマーケティングです。顧客向けのBtoCと異なり、最終顧客ではなく他のビジネスが顧客となるため、購買決定プロセスがより複雑で、高額な取引や長期にわたる関係構築が特徴的です。BtoBマーケティングでは、製品やサービスの専門性が高く、顧客との密接な関係や信頼の構築が重要視されます。
その歴史的な進化は、産業の変化、テクノロジーの発展、市場ニーズの複雑化とともに発展してきました。BtoC分野を中心に発展してきた、分野1から7までのマスマーケティング、1to1マーケティング、デジタルマーケティング、SEM、SNSマーケティング、モバイルマーケティング、データドリブンマーケティングも反映しながら進化しています。
1990年からは、関係を深めるためのCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)システムが導入され始めます。2000年以降には、オンラインプラットフォームの台頭により、リードジェネレーション、コンテンツマーケティング、ソーシャルメディア戦略が重要な要素となりました。
その後さらに、顧客の体験を中心に据えた戦略へと進化しました。アカウントベースのマーケティング(ABM)など、特定の重要顧客に焦点を当てた戦略が登場し、パーソナライズされたマーケティングアプローチが一般的になりました。顧客のライフサイクル全体にわたって価値を提供し、長期的な顧客関係を築くことが、BtoBマーケティングの主要な目標となっています。
このように、BtoBマーケティングは単なる製品の売り込みから、顧客との深い関係構築と維持にシフトしてきました。各時代の技術革新と市場の変動が、BtoBマーケティングの進化を促し、より複雑で洗練された多様な戦略へと発展させています。
BtoBマーケティングの活用事例
パナソニックコネクト(Panasonic Connect):パナソニックコネクトは、特に製造業界に焦点を当てたBtoBマーケティング戦略を展開しています。例として、顧客に製造工程の自動化と効率化を支援するためのIoTソリューション「Gemba Process Innovation」を提供しています。このプロジェクトでは、製造現場のデータをリアルタイムで分析し、運用の最適化を図ることができるソフトウェアやハードウェアのマーケティングを展開しています。このように、同社は顧客の具体的な課題解決を図りながら、深い業界知識とテクノロジーを活用したソリューションを提供しています。
ミスミのメヴィー事業(MISUMI Meviy):ミスミが展開するMeviy事業では、工業製品を必要とする企業に対してカスタマイズ可能な部品を短納期で提供するという強みを前面に打ち出しています。Meviyプラットフォームは、設計から発注までを一元管理できるシステムを提供し、エンジニアや購買担当者が容易に正確な部品を選定し購入できるようにサポートしています。この事業は、高度なカスタマイゼーションと効率的なサプライチェーン管理を通じて、顧客のニーズに応えることに重点を置いています。
日立製作所(Hitachi):日立はグローバルに展開する多岐にわたるビジネス領域で、特にインフラや情報通信技術(ICT)ソリューションを提供しています。BtoB市場において、カスタマイズされた産業機械やシステムソリューションを通じて、他企業の運営効率化や技術革新を支援しています。
特定企業に特化するアカウントベースドマーケティング(ABM)
アカウントベースドマーケティング(ABM)は、特定のターゲット企業や組織を個別の市場として捉え、その企業のニーズに合わせてカスタマイズされたマーケティング戦略を展開する手法です。ABMはBtoBビジネスに特に有効で、高いROIを達成するために用いられます。このアプローチでは、セールスとマーケティングの活動が密に連携し、特定のクライアントやアカウントに対して一貫したメッセージングと戦略を実施します。主な目的は、重要なアカウントに対するエンゲージメントを深め、長期的な顧客関係を築くことにあります。
プロセスは、次のように進行します。
アカウントの選定:市場調査やデータ分析を行い、最も価値のある顧客アカウントを特定します。
インサイトの獲得:特定したアカウントのビジネスニーズ、課題、関係者を理解するための詳細な調査を行います。
カスタマイズされた戦略の策定:アカウントごとにカスタマイズされたコミュニケーション戦略とマーケティング活動を計画します。
実行と最適化:計画されたマーケティング活動を実行し、結果を分析して継続的に最適化を図ります。
アカウントベースドマーケティングの活用事例
セールスフォース(Salesforce):クラウドベースのCRMツールを提供する米国発祥の企業で、BtoB市場に特化しています。同社は顧客データの一元管理を可能にし、企業が顧客関係をより効果的に管理し、営業活動を最適化できるよう支援しています。Salesforceは、カスタマイズ可能なプラットフォームとしてその利便性をアピールし、全世界の企業に採用されています。
アドビ(Adobe):Adobeは、デジタルマーケティングツールのAdobe Experience Cloudを通じて、大手企業向けにABM戦略を展開しています。特定の大手顧客に対して、カスタマイズされたマーケティングキャンペーンを実施し、それぞれの企業のニーズに合わせたソリューションを提供しています。この戦略によって顧客のエンゲージメントを深め、より高いROIを達成しています。
IBM:IBMは、主に大企業や政府機関向けに高度な技術ソリューションを提供しています。顧客企業の業務効率を向上させるためにカスタマイズ可能なクラウドコンピューティングサービスやAI技術を提供し、これらの技術がどのように顧客のビジネスを支援するかを詳細に説明するマーケティングキャンペーンを展開しています。専門的な知識を必要とする製品の複雑さを理解し、潜在顧客に直接訴える内容で構成されています。例えば、IBMはセミナー、ワークショップ、専門展示会、そしてデジタルコンテンツを通じて、潜在的なビジネス顧客にアプローチしています。
アクセンチュア(Accenture):コンサルティングおよびプロフェッショナルサービスを提供するアクセンチュアは、ABMを採用し、主要顧客に対して特化したサービスとソリューションを提供しています。このアプローチによって顧客との関係を深め、顧客のビジネス成果を向上させるための戦略的なパートナーシップを築いています。
富士フイルムビジネスイノベーション:同社は特定のキーアカウントに対してカスタマイズされたマーケティング戦略を展開し、その企業の特定のニーズに合わせた製品やサービスを提供しています。顧客のビジネスプロセスを深く理解し、それに基づいて最適なソリューションを提案することで、顧客との関係を強化しています。
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