マーケティングには「正解」がない
ビジネスの世界において、財務会計などの分野は明確なルールや法則に基づいていますが、マーケティングは違います。マーケティングはその定義が曖昧で、様々な形で存在するため、この分野を学ぶ際や実務に応用する際には混乱が生じることがあります。これは、マーケティングが多岐にわたる手法や戦略を含むために、一貫した「正解」が存在しないからです。
2024年7月時点において、AIとGoogle検索で確認すると、100種以上の「〇〇〇マーケティング」概念が存在しています。古典的なものから最新のデジタル技術に関するものまで、多種多様な情報と知識があふれています。
最も有名かつ古い歴史の「マスマーケティング」であっても、重要な知識もあれば、時代遅れで役立たない知識もあります。また、異なる名称であってもほぼ同じ概念であったり、単なるHOWの一部である特的に販売促進方法に「マーケティング」という言葉をつけただけの狭義の概念であったり、特定のビジネス環境でしか活用できないものも多く存在します。また、ここで扱う112種のほぼすべてが、潜在的な顧客(WHO)に、プロダクトである商品やサービス(WHAT)を訴求したり届けたりする手段手法(HOW)です。つまり、一般的にマーケティングと呼ばれる情報や知識の大部分は、手段手法(HOW)であると言えます。
マーケティングの急速な変化
マーケティングの歴史を俯瞰すると、現代においてもマーケティングに大きな影響を与えているのが、マス媒体を使ってマス(多くの顧客)を対象としたマス マーケティングです。マス マーケティングは、1970年代からテレビCMなどのマスメディアの発展とともに進化し続け、多くの書籍や大学の教育コンテンツとしてまとまっていることから、現代のマーケティングでもマス マーケティングの知識の影響力は依然として強いです。
1990年代からインターネットをメディアとして活用したマーケティングも開発されてきましたが、あくまでマス マーケティングの補完的な位置付けでした。しかし、2000年代後半からスマートフォンが一般の個人に急速に浸透することで、スマートフォンを前提としたデジタル技術が著しく発展し、一般生活者の生活習慣は大きく変わりました。マス マーケティングの土台であったメディア環境も、急速に変化しました。総務省が発表した平成29年度の情報白書の情報通信機器の保有状況の推移(世帯)を見ると、スマートフォンの急速かつ巨大な影響が理解できます。
この変化は、かつてない速度で進み、マーケティングに関わる知識も急速に拡大し専門分化しています。それに対応すべく様々な「〇〇〇マーケティング」が生まれる一方で、デジタル技術の進化が早いために、知識の陳腐化も早く、インターネットやデジタルに関連する知識全体の体系化が追いつかず、マス マーケティングとの体系的な統合も進んでいません。
デジタルメディアとその技術の浸透は早いものの、活用方法に関しては年齢や地域の差異が大きく、全体としてデジタルメディアは従来のマスメディアを完全代替してはおらず、共存する状態となっています。結果として、ビジネスが対象とする顧客層や事業内容によって、有効なマーケティングはまったく異なるのが現状です。電通がまとめた2022年度までの媒体別広告費を見ると、デジタルメディアを含むインターネット広告費は急速伸長していますが、マスメディアであるテレビの広告費用は徐々に縮小しているものの、依然として大きいことがわかります。
インターネット、スマートフォンの浸透、デジタル技術の急速な発達を背景にして、112種の「〇〇〇マーケティング」は個別特化していきました。またマーケティング業務とマーケターは専門分化し、経営視点でマーケティング統括するCMOに求められる知識レベルは極めて高くなっています。
学問としても、実務としても、これらの統合的な運用方法は体系化されておらず、多くの無駄な投資が発生しています。デジタルが効果的なプロダクト(商品やサービス)でも、マスに投資をしたり、逆にマスが効果的な分野であっても、新規顧客獲得のために小さなデジタルやSNSに投資し続け、結果として機会損失を発生させてしまうケースが日常化しているのです。これらの体系化と統合的な運用は、マーケティングだけでなく経営にとっての最大の課題です。
最初に学ぶべき12分野24種のマーケティング
体系化されていない112種の「OOOマーケティング」を学習し、その活用方法に熟達することは困難ですので、wisdom-Betaでは、現代のビジネスパーソンやマーケティングに関わる実務家が、優先的に学習すべきマーケティング知識と知恵の体系化を進めています。
ここでは、112種の「OOOマーケティング」概念の中でも、誰しもが最初に理解すべき12分野24種のマーケティングの個別の概念、そして全体像とつながりを解説します。闇雲に個別のマーケティングのテクニックやノウハウを深く学習するのではなく、継続的に学習し実務で実績を出し続けるために、それぞれの定義と概要と12分野のつながりをひも解いていきます。
最初に学ぶべき24種のマーケティングは、違いに影響を与えつつ重複しながら発展し続けているので、どれかだけを学習するのではなく、歴史的な解説を含めて12分野に分類し、それぞれの活用方法と関係を理解したいです。これら12分野24種の解説の後に、残り88種の「OOOマーケティング」の基本概念を、具体的な事例付きで解説します。自分自身が関わるビジネスが12分野のどこに関係するのかを理解した上で、それぞれに関連するマーケティングの知識をアップデートし、結果を出し続けるマーケティングの知識とその相乗効果としての知恵を強化していきましょう。
分野1から7は、コミュニケーションと販売方法に関わるメディア、チャネル、インターネットやデジタル技術を起点としたマーケティング分野です。この分野は、後の全分野にも常に関連する基礎的な分野です。
分野8から11は、「誰が誰に販売するか」で分類したマーケティング分野で、店舗を通じて顧客に間接的に販売する販売モデル(分野8)、顧客へ直接販売する販売モデル(分野9)、事業者が販売者や他の事業者と行う共同販売モデル(分野10)、事業者を顧客として事業者が実地する販売モデル(分野11)の4分野です。
分野12 は、分野1から12の全マーケティングに関連しながらも、最も定義が曖昧で多くの誤解と誤用が発生し、経営者とマーケターの中で過剰期待と過小評価が起こる分野である、ブランドマーケティング、ブランディングと呼ばれる分野です。
ちなみに「顧客起点マーケティング」は、WHO(顧客とクライアント)を起点としているので、分野に関係なく1から12のマーケティングすべてに親和性がありますが、ここではそれ以外の概要と関連を解説し、「顧客起点マーケティング」は別途に解説します。
これら12分野 24種のマーケティングを時系列で俯瞰すると、次の図のようになります。
2024年の現代において、マーケティングに求められる知識分野が1990年代と全く異なることが一目瞭然です。同時に、現代においてなぜマーケティング業務とマーケターが専門分化し、「経営視点でマーケティング統括するCMO人材が少ない」と言われるかが理解できます。過去に実績を上げたベテランCMOでも、知識分野が限られていると、異なる分野では結果を出せなくなるのです。
また実務に関わるマーケターは、12分野24種のマーケティングの一部に特化した職務となるので、日常業務で得られる知識とノウハウも、その分野に特化してしまいます。そのため専門家にはなり得ますが、CMOに求められる統合的な知識を得るには、日常業務だけでは不十分なのです。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です