
AIはどのような業務作業を代替するのか
本項からは、近年急速に発展している「AI マーケティング」の予測を解説します。
2022年からのChatGPTやGeminiをはじめとする生成AI の驚くべき進化は、まさに秒進分歩ですが、現時点でAI によるマーケティングを予測すると「AI(人工知能技術)を駆使して、すべてのマーケティングのプロセスを対象にし、自動化、ロボット化を通じて、関わる投資対効果を高めること」と考えられます。ここでは今後の「AIマーケティング」を予測してみます。
前提として、マーケティングプロセス(R-STP-MM-I-C)は以下の図のように、R(Research)、STP(Segmentation、Targeting、Positioning)、MM(Marketing Mix)、I(Implementation)、C(Control)で構成されています。これは一方通行ではなく、ステップ1のリサーチから始めて、ステップ5のコントロール(分析、効果検証)まで進んだら、またステップ1 に戻るという循環構造になっています。また、とりわけSTPとMMは双方向であることも留意すべき点です。

2025年時点で見えているAI マーケティングとして、すでに活用されている内容や、そのためのマーケティングツール、サービスだけでも、これまで人間がマニュアルで行っていた作業や、手間がかかるために着手されなかった作業の多くをAIマーケティングが代替しつつあります。例えば、次のような業務作業が挙げられます。
■AI マーケティングが代替すると予測される業務
データ分析と予測
大量のデータを高速で処理し、パターンや傾向を見出す
顧客行動の予測モデルを構築し、将来の購入行動を予測
市場動向の分析と予測を行い、戦略や施策の提案
パーソナライゼーション
個々の顧客の嗜好や行動履歴に基づき、コンテンツやオファーをカスタマイズ
リコメンデーションエンジンを用いて、関連性の高い製品やサービスを提案
ダイナミック(動的な)価格設定を行い、個々の顧客や市場状況に応じて最適な価格を提示
チャットボットと顧客サービス
自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)を活用した顧客対応チャットボットを導入し24時間対応を実現
顧客の質問や問い合わせに迅速かつ正確に回答
複雑な問題は人間のオペレーターに引き継ぎ、効率的な顧客サポートを提供
コンテンツ生成
AIを使用して、ブログ記事、ソーシャルメディア投稿、製品説明などのコンテンツを自動生成
画像や動画コンテンツの作成や編集にAIツールを活用
パーソナライズされたメールやニュースレターの作成
広告最適化
AIアルゴリズムを用いて、広告キャンペーンのターゲティングと配信を最適化
リアルタイムで広告パフォーマンスを分析し、自動的に調整
クリエイティブ要素の効果を予測し、最適な組み合わせを提案
顧客セグメンテーション
複雑な顧客データを分析し、より精緻な顧客セグメントを作成
行動パターンや嗜好に基づいて、動的にセグメントを更新
各セグメントに最適なマーケティングや施策を提案
予算配分とROI 最適化
各マーケティングチャネルの効果を分析し、最適な予算配分を提案
キャンペーンのROIを予測し、投資判断をサポート
リアルタイムでキャンペーンの成果を測定し、必要に応じて調整
音声検索とAIアシスタント対応
音声検索に最適化されたコンテンツを立案
AIアシスタント(Siri、Alexa、Google Assistantなど)を通じたマーケティング施策の実施
感情分析
ソーシャルメディアの投稿やカスタマーレビューを分析し、ブランドに対する感情を分析
顧客の感情に基づいて、コミュニケーションを調整
不正検出
広告詐欺や不正なトラフィックを検出し、マーケティング予算の無駄を防ぐ
偽のレビューや評価を識別し、ブランドの信頼性を保護
プレディクティブリードスコアリング
AIを用いて見込み客の質を評価し、転換確率の高いリードを特定
営業チームの効率化とリソース最適化を支援
クロスチャネルマーケティング最適化
複数のマーケティングチャネル間でのユーザーの行動を分析
チャネル間の相互作用を考慮した最適なマーケティングミックスを提案
リアルタイムパーソナライゼーション
ウェブサイトやアプリの訪問者の行動に基づき、リアルタイムでコンテンツやオファーを調整
ユーザーの現在のコンテクストに合わせた最適な体験を提供
予測的在庫管理
需要予測により最適な在庫レベルを維持
季節変動や市場トレンドを考慮した製品発注の最適化
バーチャル/拡張現実(VR/AR)マーケティング
AIを活用したVR/AR体験の個別化
製品の仮想試着や空間シミュレーションなどの高度な顧客体験の提供
コンバージョン率最適化(CRO)
AIを用いてウェブサイトやランディングページの要素をテスト・最適化
ユーザーの行動パターンに基づいた動的なページ構成の調整
インフルエンサーマーケティング最適化
AIを使用して最適なインフルエンサーを特定・ 選択
インフルエンサーキャンペーンの効果予測と最適化
イス・ オブ・ カスタマー(VOC)分析
顧客フィードバック、サポートチケット、通話記録などを分析し、主要な顧客の声を抽出
製品開発やサービス改善のための洞察を提供
競合分析の自動化
AIを使用して競合他社のウェブサイト、価格、製品、マーケティング活動を継続的に監視・ 分析
競合他社の戦略変更や市場動向をリアルタイムで把握
プログラマティック広告の高度化
リアルタイムビディング(RTB)をAIで最適化
ユーザーの文脈や行動に基づいた高度なターゲティングと広告配信の実現
AIによって進むマルチモーダル化
この予測の一覧を見るだけでも、AIマーケティングが、Wisdom-Betaとして定義しているマーケティングにおける重要12 分野(図)の進化をはるかに飛び越えるスピードでマーケティング自体を変革することは明らかです。マーケターが積極的にAI の可能性を理解する必要性は、急速に高まっています。

ChatGPTやGeminiなどの生成AIが出現する以前のAI(従来型AI)は、事前に決められたルールや条件に従って動作するか、 画像認識、音声認識、自然言語処理などの分野でパターン認識が行われていました。例えば、手書き文字認識や顔認識、スパムメール検出などは従来型AIで実現していました。しかし、複雑な文脈理解や抽象的なパターン認識には限界があり、大規模で多様なデータセットの処理には制約がありました。新しいコンテンツの生成能力も限定的でした。
しかし、生成AIの進歩により、大規模で複雑なデータセットを処理できるようになり、文脈や抽象的な概念のより深い理解が可能になりました。さらに、テキスト、画像、音声、動画などの新しいコンテンツを生成する能力が大幅に向上しました。例えば、メールのスパム判定で比べると、以前のAIであれば、特定の単語が含まれていればスパムメールと判断していましたが、大規模言語モデルでは、メール全体の内容を理解し、文脈やトーンに基づいてスパムかどうかを判断し、削除も内容の編集も自動化できます。
AIの進化は、著しく進んでおり、数値、言語、文章だけでなく、音声、画像、動画などもデータとし、その論理性や文脈を直接理解します。アウトプットも数値、言語、会話、音声、画像、動画など、フォーマットの幅が広がりつつあります。つまり、マルチモーダル化が進んでいるわけです。これにより、AIがもたらす業務作業の効率化の範囲は急速に拡大していますが、一方でAI に学習させるべきデータ(数値、言語、会話、音声、画像、動画)を定義して準備することは、アウトプットの精度を上げるためにも非常に重要な課題になっています。
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