
「アイデアの手がかり」を得る
ここからは、「N1インタビュー」の枠組みについて、具体的にどう準備するかを解説します。
「N1分析」は、顧客の潜在的なニーズや心理を深く理解するための分析です。
顧客の中から「実在する特定の1人」を深く分析・理解して、顧客の解像度を高めることによって新たなアイデアが生まれ、そのアイデアを反映して事業の成長につなげる取り組みとも言えます。
N1分析で重要な過程となるのが、「N1インタビュー」です。
自分たちだけでは思いもよらなかった「アイデアの手がかり」を得るために、実在する特定の1人に起きた特異な経験や、データからは読み取れない心の動きをインタビューで洞察していきます。
定量調査や購入行動分析などから事前に導いた仮説を「N1インタビュー」でより深く掘り下げ、その人の実際の行動や意識から顧客をロイヤル化するためのアイデアの手がかりを見つけることが目的です。
私が「N1インタビュー」を行うときは、だいたい1時間くらいを目処にしています(カジュアルに5分や、30分というケースもあります)。1時間以上のインタビューだと、受ける人が疲れてしまうことも多いためです。
先に触れたように、最初のインタビューイー(インタビュー対象者)には、自社のプロダクトを高頻度で購入していて、しかも今後も買いたいと思っている「ロイヤル顧客」から選ぶことをおすすめします。
これから企画・開発する新商品の場合は、参入しようとしているカテゴリーの競合商品や代替品のロイヤル顧客に話をうかがいます。
20人くらいに聞くと、アイデアが見えてくる
「N1インタビュー」を行う人数は、セグメントごとに20人くらいに聞くのが1つの目安になります。筆者の経験則では、4、5人くらいに聞いているときまではそれぞれが特殊なケースのように感じますが、10人程度の話をうかがうまでに何パターンかの仮説が見えてきて、20人に話を聞く頃にはそれが確信に変わります。
話を聞いているうちにこちらの洞察力や仮説設定能力が上がっていき、「あれ、なんか同じようなことを言っている人がいたな」ということがつかめるようになっていくのです。また、20人も話を聞いていると、こちらにも心の余裕が出てきて、聞き逃していたことが聞けるようになります。
それで仮説が見えてこなければ、話を聞く人数を30人、40人と増やしていってもいいのですが、単に人数を増やせばいいということではありません。多くの人の話を聞くことで、むしろ演繹的発想にとらわれてしまうとしたら、N1インタビューを行う意味がないからです。
アックスヤマザキの山﨑社長からも、「当初は1000人など大人数の話を聞かなければ意味がないかと思っていたけれど、実際にやってみると数の多さより深さのほうが大事だと気づいた」というお話がありました。
20人くらいに深く話を聞いていると、「なぜロイヤル化しているのか」「そもそもなぜ最初に使用したいと思ったのか」「なぜ購入に至ったのか」など、アイデアの手がかりの候補がいくつか見えてきます。
逆に、ロイヤル顧客が20人も見つからない場合は10人でも5人でも構いません。
まずは、その5人がプロダクトのどこにどんな良さを感じてくださっているのかを聞き、その便益をほかの顧客に提示してみて、相手の反応を探るということをひたすら続けていくと、アイデアの手がかりが見つかります。
ロイヤル顧客以外の顧客層にも広げていく
その後は、マーケティングの課題によって変わってきますが、ロイヤル顧客以外のセグメントにも「N1インタビュー」を行い、ロイヤル顧客層で得られたアイデアの仮説を確認していきます。
ロイヤル顧客層で得られたアイデアのきっかけや、似たような例がロイヤル顧客層以外のセグメントで出てこなければチャンスです。そこを広げていくと、顧客がロイヤル化するための仮説につながる可能性があります。
そのアイデアのきっかけをもとに仮説を考え、ほかの方へのインタビューの際に「こういう提案があったらどうですか?」「こんな機能が付いていたら、どう思いますか?」などと聞いてみて、複数の人から好意的な反応があれば、大きなリターンが見込める可能性が出てきます。
逆に、ロイヤル顧客を深掘りした際に特殊な要因を見つけられず、一般顧客の方たちと、便益と独自性が同じだとしたら、それは危険な兆候かもしれません。たまたま知り合いだから、お付き合いで買い続けているとか、商品を変更するのが面倒だから続けているだけで、競合から攻められやすい構造になっている可能性もあります。
ただし、実際にはロイヤル顧客ならではの便益と独自性を感じているものの、本人もそのことに気づいていないケースがほとんどです。筆者がコンサルティングさせていただく企業では、そのケースばかりです。ですから、そこをしっかり押さえておくと、一般顧客をロイヤル化するためのアイデアにつながるはずです。
次項では、「N1インタビュー」の大きな流れを説明します。
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