2-4-26:マーケットが縮小する時代の勝ち筋は「帰納的発想」

顧客起点マーケティング N1分析
市場縮小時には、帰納的発想で顧客ニーズを発見するのが勝ち筋です。状況に応じた、機能的発想と演繹的発想の使い分けが成功を左右します。
2-4-26:マーケットが縮小する時代の勝ち筋は「帰納的発想」

ビジネスは、最初は1人のお客様からはじまる

自分で事業を立ち上げたり、スタートアップを創業したりする際、多くの場合は個別のケースからスタートします。

たとえば将来的に1兆円企業を目指すとしても、最初は1人のお客様からはじまります。世界中で1億人の顧客獲得を目指すときも最初の顧客は1人です。

事業責任者は、この最初のお客様のことを忘れません。すぐに売上が上がったケースでも、なかなか売れなかったケースでも、最初の1人は記憶に残っています。そして、たいていは最初の10人、100人の顧客の顔や特徴を覚えているものです。

それらの顧客が商品を購入する理由はそれぞれに違います。とはいえ、顧客が100人いたら100通りの購入理由があるわけではなく、複数のパターンで価値を感じてくれています。

そしてBtoBでもBtoCでも、顧客1人ひとりの顔が見え、その人たちがなぜ商品を購入してくださったのかを考えている時期は、帰納的なアプローチをとっています。

「先日、購入されたお客様はこういう理由で買ってくださった。ほかにも同じようなお客様がいるかもしれないから、その可能性を追求してみよう」

あるいは、それとは別の理由で購入した顧客がいたら、その便益や独自性をほかの顧客に伝えてみる。こうした積み上げによってWHOとWHATの組み合わせも増えていき、顧客の数も10人から100人、100人から1000人へと増えていきます。

事業拡大にともなって演繹的な仕事が増える

こうした段階になると経営者1人では対応できなくなり、営業部員やマーケティング担当者、開発担当者など関わる人数や部署が増えていきますが、このあたりから演繹的な仕事が増えていきます。

経営者や事業責任者が売上や利益、顧客数の増減などの財務指標や結果指標にばかり注目するようになり、顧客と向き合わなくなると、会社全体も顧客のニーズに目を向けなくなります。

顧客はどんな人か、その顧客がどんな価値を求めるかより、どのタイミングでどの販売促進策を実施したら売上が向上したかなど、成功した施策のみを拡大していく傾向が全社的に強まっていくのです。

昭和のようにマーケットが拡大している時代であれば、このような演繹的アプローチでも問題ありません。母数が大きく、なおかつ拡大し続けている時期は、独自の便益がなくても大規模な投資を行い、大規模な認知度と販売ルートを獲得することで売上も伸びていきます。拡大する市場でのマス競争によってビジネスが拡大します。

ところがマーケットが伸びなくなる、もしくは縮んでいく状況になると、独自の便益がないままマス競争を続けているプロダクトは必ず価格競争に巻き込まれ、コモディティ化します。

便益、独自性を見つけるために有益なのは、帰納的なアプローチによるマーケティングです。ですから、マーケットが縮小している現代の勝ち筋は帰納法にあると言えます。

演繹的発想と帰納的発想の両方を使い分ける

ただし、演繹的発想と帰納的発想はどちらが優れているという話ではなく、両方のアプローチを理解し、両方を使い分けることが重要です。

たとえば、組織として行動する際や、投資家や経営陣に納得してもらう際には、演繹的な説明が必要になります。帰納的な「N1分析」による提案だけでは突飛に思われて組織を動かすのは難しいため、市場全体で見たときにその「N1」がどのようなポテンシャルを持ち、新しいセグメントを形成する可能性があるかを演繹的に説明できるようにするのです。

マーケットの規模を計算するときにも、演繹的なアプローチを用います。

アサヒビールが「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」を開発する際には、これまでのようにビールを飲めなくなった人たちに注目して商品企画が進められましたが、王道から外れた低アルコールビールの開発に反対する社内に対しては「世界的なトレンド」や「環境の変化」などのマクロな視点を取り入れて説得したという話があり、まさに帰納的発想と演繹的発想の両方を使い分けていると言えます。

要は、どんな仕事をするうえでも演繹的発想と帰納的発想を身につけておいたほうがいいけれども、演繹的発想のみでは便益と独自性の両方を併せ持つアイデアを生み出すことは困難だということです。

演繹的発想では見つからない、強いアイデアを探し出すのが帰納的発想なのです。マーケティングの知識やノウハウのほとんどは演繹法なので、ルール化、フォーマット化、論理化、プロセス化しやすいのですが、「N1分析」は帰納法なので、そのルール化、フォーマット化、論理化、プロセス化が困難だとも言えます。

ゆえに、「N1分析」に関する書籍や教材は少ないですし、その体系的な学習が困難であるからこそ、身につけると大きな力になるとも言えます。

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《西口一希》

N1分析