2-4-4:「マス思考」から大きく転換すべき

顧客起点マーケティング N1分析
マス思考の限界を理解し、多様な顧客セグメントを深く把握することが求められます。利益構造を踏まえた分析と戦略設計により、企業は長期的な成長を実現すべきです。
2-4-4:「マス思考」から大きく転換すべき

人口が3倍だと、ポテンシャルも3倍か?

前項では、平均値や最大公約数のみを求める「マス思考」の問題を指摘しました。

最近は、メディアなどでもマス的なアプローチの限界が指摘されるようになってきましたが、実際の現場ではいまだに「マス思考」にとらわれているマーケターや企業が多いと感じています。

たとえば、海外に販路を拡大しようとするとき、こんなことを言う人がいます。「アメリカの人口は日本の3倍ですから、ポテンシャルも日本の3倍ありますよ」。これは実際にはまったく逆であり、これこそ「マス思考の罠」と言えます。

たしかにアメリカの人口は日本の3倍ですが、アメリカでは人種や国籍、出身地、宗教、年収、教育歴、政治的信条などによって考え方や価値観の差異が大きいため、日本よりはるかに細かいセグメンテーションで顧客をとらえる必要があります。

合計値にとらわれる「マス思考の罠」

たとえば、政治的信条だけを見ても民主党支持者と共和党支持者の間には多様なバリエーションが存在し大きな振れ幅があります。かつて筆者が在籍していたP&Gでも、アメリカ国内で「ヒスパニック系の消費者向けマーケテイング」「アジアン系向けのマーケティング」などと細かく分類されており、そこからさらに細かくセグメントされていました。

顧客の分類について細かくは後述しますが、筆者は「N1分析」の際に購入頻度でセグメントする「5segs(ファイブセグズ)」や、さらに「次回購入意向(NPI:Next Puerchase Intention)」のかけ合わせによって9つの顧客グループに分類する「9segs(ナインセグズ)」を提唱しています。

これらは実際のビジネスでの最低限の分類として活用しています。それぞれの「seg(セグメント)」の中でさらに分類が必要で、多様性の幅が大きければ大きいほど、より詳細にセグメントする必要があるのです。

いずれにしても、単純に合計値が大きければ売上もそのまま大きくなるはずだというのは大きな間違いであり、「マス思考の罠」と言わざるをえません。

「マス思考」では、利益に貢献する顧客を見分けられない

さらに、売上が上がっている事業においても、合計値にとらわれると実態の把握が不可能になり、継続的な利益を上げるのが難しくなります。

たとえば、ディスカウントや特典割引などの施策を積めば短期で売上を上げることはできますが、その結果、一度しか買わない(使わない)顧客ばかりで構成されることになり、利益率が下がってしまいます。

事業や企業の中長期的な成長を考えるうえでは、顧客構造を把握し、利益ベースの「LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)」に貢献してくれるはずの顧客を大切にする必要があります。

まだ会員登録されていない方へ

会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です


《西口一希》

N1分析