
「外れ値」から、商品開発の新たな切り口が見つかることもある
「N1インタビュー」を行う際は、まずロイヤル顧客から話を聞いていく、と述べました。頻度高く使い続けている顧客から、企業側にすれば意外な話をうかがうことも少なくありません。
たとえば、20人の顧客に「この商品のどういう部分に価値を感じてくださっているのか?」をうかがうと、重複する内容がいくつか出てくることがほとんどです。筆者の経験則では、20人のお客様がいたら、たいていは3~5程度のパターンに集約されます。
しかし、中には特殊で例外的と感じるような話も出てきます。いわば「外れ値」ですが、こうした話は無視されがちな傾向があります。
統計学でたとえると、データの分布から大きく外れている上位と下位の数%が外れ値(「異常値」や「極端値」とも呼ばれます)で、多くの人が真ん中の平均値や中央値、最頻値を常識的な範囲だととらえ、そこで勝負することを考えます。これが演繹的な発想です。
しかし、すでに市場に多数存在する便益で勝負するというのは独自性に乏しくなります。
それよりも、標準偏差から外れている外れ値を突き詰めていくことで、顧客拡大の可能性が見つかることがあります。一見すれば外れ値に見える便益を感じている顧客の心理と行動の理解を深めていくことで、新たな便益を見つけ出すのです。


新しい市場の創造につながる「ニッチ戦略」
最初は少数の購入意向であっても、その便益を支持する潜在顧客がどこにいるのかを見出すことができれば、新しい市場を創造することができます。
これがいわゆる「ニッチ戦略」です。
「ニッチ戦略」を進める際には、「それは、あなたが欲しいだけではないか」「ほかの人にもあてはまるのか」などと言われることもあると思いますが、実在する誰か1人(経営者自身ということもあります)が心から欲しいと思うものであれば、必ずその背後には同様に反応してくれる何万人、何十万人、何千万人が存在します。
一方、あらゆる人が欲しがりそうなものをつくろうとすると、共感する人は少なくなります。この「N1分析」シリーズで紹介してきた企業事例を振り返っても、いくつもポイントがあります。
アサヒビールが缶チューハイに本物のレモンスライスを入れたケースは、これまでにない発想であり、まさに業界の歴史を合算した標準偏差から大きく外れているケースと言えるでしょう。
ミシンメーカーのアックスヤマザキは、一般的なミシンユーザー向けではない子ども用ミシンという外れ値に注目し、新たな市場を創造しました。注文数が多過ぎて製造が追いつかないという男性用ミシンも同様です。
「N organic」を手掛けるシロクも業界の「常識」から外れ、化粧水に100%天然の精油を採用し、それが顧客拡大につながりました。
大きなチャンスは常識の「外」にある
ビジネスでは、お客様が自分たちの思い通りに動いてくれないからこそ、ときに行き詰まります。
もしお客様が企業の予想通りに動いてくれるなら、マーケティングの施策で悩むこともなく、ビジネスは順調に成長し続けるはずです。
しかし実際にはそうならないからこそ、課題意識が生まれるのです。つまり、自分たちの考えや予想が外れているということです。
おそらく、企業が考えている常識の外側にお客様を動かせるヒントがあるのです。
ですから、事業が成長しないと悩んでいるときは、そもそも自分たちの考えや予想の範疇が狭いということを意識する必要があります。
答えは、企業やマーケターが現時点で持っている常識や知識、信念の外にあるのです。
ほとんどの人は、この「外」を外れ値として目を向けませんが、ロイヤル顧客が話してくださった予想外の感想や意外な行動は、じつは事業を成長させる大きなチャンスを秘めています。
インタビューではむしろ、脱線を掘り下げる
競合のプロダクトの強みを理解するときも、「N1分析」は有益です。筆者も、競合の対抗品を開発する際には競合のロイヤル顧客の「N1分析」を行っていましたが、やればやっただけ、打ち手の幅が広がります。
しかしお客様自身は、それが答えだとは思っていません。
ビジネスではよく「お客様に聞くのは良くない」と言う人もいますが、それは半分正しく、半分間違っています。お客様は答えそのものではなく、答えにつながるヒントを持っているからです。
答えとは何かというと、お客様に提供すべきプロダクトの具体的なアイデア(プロダクトアイデア)です。もしくは、既存のプロダクトをどう伝えれば、お客様に響くかという訴求方法(コミュニケーションアイデア)です。
お客様は、明確に「これが欲しい」「こう訴求して欲しい」とは言ってくれません。
また、逆にそれを言ってくださっても、お客様は自分が知っている範囲でしか言語化できていないため、だいたいやり尽くされた手段になってしまいます。
それは、N1インタビューで話を聞くマーケターや企業も同じです。
支援する企業のマーケターが実行したN1インタビューを後から見せていただく、あるいは文字起こしを読ませていただくのですが、多くのインタビューでは変わった話や面白い話はあまり掘り下げられず、インタビュアーが自分の理解できる範囲で話を進めていることがほとんどです。
筆者も含めて多くの人がそうですが、なかなか自分自身の既知の範囲を超えられないのです。
N1インタビューをしていて「お客様が何か変わったことを言っているな」と感じるときは本筋(と信じている流れ)から脱線してしまうと感じるかもしれませんが、むしろ脱線したほうがいいのです。
脱線は自分の常識の外に進んでいる証拠ですから、そこで「それはどういうことですか?」と深掘りしていくと、新しいアイデアにつながる可能性が高いのです。
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