
4象限をもとに便益と独自性のある「価値」をつくり続ける
「N1インタビュー」では、自分たちだけでは思いもよらなかったアイデアのヒントを得られることも少なくありません。具体的に実在する誰か1人の行動や心理をインタビューで掘り下げ、その人の心が動いたポイント(驚きや喜び)や潜在ニーズを探っていきます。
そして、プロダクトの便益と独自性(WHAT)に、価値を感じている人(WHO)の組み合わせを複数パターン見つけ出し、「ロイヤル顧客」として効率的に取り込むために有効な、再現性のあるマーケティング施策(HOW)を考えます。
前に触れたように、「便益」とは「便利・おいしい・楽しい」などの顧客が得る具体的な利益、利便性、快楽などを指します。顧客が自社のプロダクトを選ぶ理由です。一方、「独自性」とは、競合や代替品にはない、そのプロダクトならではの唯一無二の要素です。ほかの競合品や代替品では替えの利かない理由であり、顧客がほかの選択肢を選ばない理由です。
この「便益」と「独自性」の両方を兼ね備えたものを、顧客がお金を払ってでも手に入れたい「価値」を見出す可能性がある「アイデア」と定義しています。そのプロダクトの中長期的な売上と利益拡大につながるものです。それぞれの有無は、次のような4象限の図で表すことができます。

便益があっても、独自性のないものは「コモディティ」となり、価格競争が激しくなっていきます。便益がなく、たとえばパッケージが奇抜で人目を引くなどしても便益に結び付かない独自性がある場合は一過性の「ギミック」で終わります。物珍しさから一度は購入しても、便益がなければ継続して買うことはありません。
便益も独自性もないものは、開発に時間やコストをかけたうえで誰にも何の価値ももたらさない「資源破壊」となります。
手段や手法(HOW)に逃げてしまう理由
便益と独自性が両方とも強ければ、メディアやロコミを介して自然に広がっていくこともあります。そのため、この両方を磨き上げることが価値をつくるうえで非常に重要になります。
しかし、便益や独自性を見つけるのは簡単なことではありません。それがわかれば結果につながりやすいですが、すぐにはわからないから、手段や手法(HOW)に逃げるケースが多いのです。
なぜ売れないのかわからない、誰が買ってくれるかもわからないので、とりあえずデジタルマーケテイングをはじめてみる、展示会を開いてみる、営業を強化してみる、新商品として青いバージョンと赤いバージョンをつくってみる……というようなことになってしまいます。
人間にとって何もしない状況というのは非常に不安な状態なので、とにかく何か行動しようとするのです。しかし、とりあえず行動に移る前に、便益と独自性、そして顧客が誰かを見つけられなければ、その先は運任せになりがちです。
「顧客は誰か」という問いの重要性
有名な経営学者であるピーター・ドラッカー氏の著書に、こんな言葉があります。
「顧客は誰か」との問いこそ、個々の企業の使命を定義するうえで、最も重要な問いである。やさしい問いではない。まして答えのわかりきった問いではない。しかるに、この問いに対する答えによって、企業が自らをどう定義するかがほぼ決まってくる。(『マネジメント 基本と原則』P.F.ドラッカー著/上田惇生訳/ダイヤモンド社)
まさに「顧客は誰か」を知ることが重要だとドラッカー氏も指摘しているわけですが、顧客が誰かがわかれば、ビジネスはそれほど難しくはありません。筆者もいまだに毎日悩むポイントですが、これが見つかれば、その後の工程は非常にスムーズになります。
結局、経営もビジネスも、そのすべてがWHO(顧客)とWHAT(便益と独自性)に紐付いているということです。その組み合わせを見出せれば、買って(使って)いただけるために何をすればいいのかというプロダクトのアイデアや、どう訴えればいいのかというコミュニケーションのアイデアを生み出すことができるようになります。
そのようなアイデアを見つけ出すために行うのが「N1分析」なのです。
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