
価値の再評価、離反復帰、ブランディング
「今、誰に向けて、何をしたらいいのか」の現在地を把握するために活用できるのが、「ストラテジーマップ」です。前項では、1⃣~3⃣を解説しました。本項では引き続き、4⃣~6⃣を解説します。
1⃣ 顧客と価値を定義 WHOとWHAT(顧客戦略)
2⃣ WHO(潜在客)へ接触し、WHAT(便益と独自性)を提案
3⃣ 新規(初回購入)
4⃣ 価値の再評価(実際の使用体験)
5⃣ 離反の復帰
6⃣ ブランディング(価値を記号化・強い記憶に)

4⃣ 価値の再評価(実際の使用体験)
次は、プロダクトを実際に買って(使って)もらった後の価値の再評価です。
「初回購入」で顧客戦略(WHOとWHAT)が成立したら、それで終わりではなく、顧客は必ず「価値の再評価」を行います。実際にプロダクトを使ってみて、そのプロダクトが本当にその期待通りだったのか、期待外れだったのかという評価をし、次の購入や利用を検討するのです。
たとえば、ある牧場で「生乳100%のおいしいソフトクリーム」という看板を見て、おいしそうだと思って買った人がいるとします。その人がそれを食べたとき「普通だな」と感じたら、わざわざもう一度買いに来ようとはしないでしょう。これが「離反」です。
食べてみて「なかなかおいしかった」と感じてくださったら、もう一度買うかもしれません。「すごくおいしかった」という人は、「毎週これを食べに来よう」とわざわざ食べにくるかもしれません。これは購入頻度が上がるということです。もしくは、「もう1つ食べたい」と言って2つ買って食べるかもしれません。これは購入単価が上がるということです。
もしくは、期待した価値とはまったく違ったけれども、違う価値を見つけることもあります。たとえば生乳100%に期待していたけれど、それよりソフトクリームに入っていたバニラビーンズが気に入ることもあるかもしれません。
実際には、「初回購入」の手前で顧客からの再評価を挟むケースもあります。「興味を感じたからランデイングページを見てみたら、わかりにくくて買うのをやめた」とか「営業担当の押しが強くて嫌な感じだったからやめた」などのように、「価値の再評価」の手前で失敗してしまうケースもありますが、多くは「初回購入」から「価値の再評価」に移行するという流れをとります。
この4番目の「価値の再評価」は、一般的なマーケティングでは、あまり着目されていませんが、非常に重要な過程です。そもそも最初に設定したWHOとWHATは「初回購入」時から同じかどうか、「価値の再評価」によって変化していないか、または新たなWHOとWHATが成立していないかをしっかり見極めなければいけないということです。
5⃣ 離反の復帰
一定の割合の顧客は、残念ながら「価値の再評価」を超えられずに離反していきます。どんなビジネスでも2回目、3回目以降も購入を続ける人は少数で、ほとんどは途中で離反します。そこで、離反した顧客に戻っていただくために何らかの働きかけをする必要があります。これが、離反した顧客を復帰させる「離反の復帰」の過程です。
たとえば、ソフトクリームの商品の改良を続けておいしくなっていれば、離反していた顧客も戻ってくるかもしれません。もしくは、「ソフトクリームの中に入っているバニラビーンズがおいしかった」という声があれば、「生乳100%」の提案から「バニラビーンズの粒感たっぷりのソフトクリーム」という提案に変えてみると、「それなら食べてみたい」と思う顧客もいるかもしれません。
ですから、最初に想定していたものと別のWHOとWHATが見つかったときは、顧客拡大のチャンスと言えます。想定外で見つかった便益と独自性は新たな顧客戦略として可能性を検討し、商品の改良や強化、新たな開発、あるいは訴求方法の見直しにつなげましよう。
6⃣ ブランディング(価値を記号化・強い記憶に)
4番目の「価値の再評価」では、単価や頻度が上がったり、継続購入したりする人がいます。しかし、中には価値を感じたことを忘れてしまう顧客もいます。
たとえばソフトクリームを食べたそのときには「おいしい」と思ったけれど、いつの間にか記憶が薄れてしまうケースです。人間の脳のキャパシティ(記憶する力と想起する力)には限界があるので、「次も食べたい」「次も使いたい」と思っていても、忘れてしまうことがあるのです。これを「忘却離反」と呼んでおり、どんなビジネスでも大きな確率で起こります。
忘れられないようにするのが、6番目の「ブランディング」です。顧客が商品に価値を感じて購入(利用)し、満足したにもかかわらず忘れてしまうのを防ぐために、特徴的な名前やロゴ、デザイン、色などで覚えていただくのです。
顧客が「欲しい」と思う便益と独自性を強い記憶として残すために象徴化したものがブランディングです。顧客がそのロゴや色を見たときに、「あ、あれがあったな。あれを買おう」と思い出すためにこのブランデイングを行い、リマインダーの役割をします。
たとえば、マクドナルドのロゴを見てハンバーガーを食べたくなるとしたら、ブランディングの成果と言えます。逆にマクドナルドが嫌いな人は、あのロゴを見ても食べたいとは思いません。それも反対の意味でブランディングされているということです。
また、ブランディングは再購入だけでなく新規購入にも重要です。魅力的な広告で、何か買いたい商品やサービスを発見しても、象徴化・記憶化されていなければ、「あれは、何だったっけ?」と思い出せず、新規購入につながりません。
「自分たちの顧客がどういう方か」を把握する
以上、「ストラテジーマップ」について説明してきましたが、どんなビジネスであっても、この「ストラテジーマップ」の過程をたどります。マーケティングの手法や販促方法は、この「ストラテジーマップ」の1⃣から6⃣のどこかに必ず紐付いているはずです。逆に、これから行う施策がこの「ストラテジーマップ」のどこにあたるのかわからない場合は、その実行は思いとどまったほうがいいでしょう。
SNSマーケティングを行うにしても、YouTubeを使って施策を実行するにしても、その施策には必ず目的があり、その目的は特定のWHOとWHATに結び付くものです。
常にこの「ストラテジーマップ」を手元に、今、自分たちはどこにいて、どの顧客を見ているのかを確認してください。そして、その顧客が見出した価値を実現する、さまざまなHOWの効果と効率を検証し続けます。
重要なのは、「N1分析」を行いながら、WHOとWHATとHOWのPDCAサイクルを高速で回していくことです。
とくにデジタルマーケティングの領域でよく見られるのが、「KPI(重要業績評価指標)」を追うことに忙殺されてしまい、平均値や合計値は見ているけれども、自分たちの顧客が結局どういう方なのかを把握していないというケースです。
売上が上がったと喜んでいるけれど、一過性の顧客ばかりになっているかもしれません。実際のところ、顧客に対する具体的なイメージを持てないまま、仕事に携わっている方が大半ではないかという印象を抱いています。
顧客の具体的なイメージがなければ、マーケティングは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」の運任せになってしまうのです。
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