
2007年、Appleは初代iPhoneを発表し、スマートフォン市場に本格的に参入しました。スティーブ・ジョブズは、従来の携帯電話の概念を覆し、完全なタッチスクリーンインターフェースと直感的な操作性を備えたデバイスを世に送り出しました。この革新は業界全体に衝撃を与えましたが、Microsoftはこの変化を軽視し、対応が遅れました。
Appleの新たな成長戦略とMicrosoftの軽視
iPhoneが発表された2007年1月9日のMacworld Expoで、ジョブズは「携帯電話の未来を変えるデバイス」としてiPhoneを紹介しました。しかし、この発表に対するMicrosoftの反応は驚くほど軽視的なものでした。Microsoftの当時のCEOであったスティーブ・バルマーは、iPhoneの価格の高さと物理キーボードを持たないという設計を批判し、当時の主流であったBlackBerryやWindows Mobileのスタイルが引き続き支配的であると確信していました。
バルマーは2007年のインタビューで、iPhoneについて「500ドルもするんだろう? 世界で最も高価な携帯電話だな!」と発言し、さらに「キーボードがないんだろう? ビジネスマンがそんなものを使うわけがない!」とも述べました。彼はiPhoneの価格設定やユーザーインターフェースに対して懐疑的であり、従来のビジネス向けスマートフォンが引き続き市場を支配すると考えていました。一方で、ビル・ゲイツはiPhoneについてより慎重な見解を示し、「iPhoneは素晴らしいデバイスだと思う。ただし、私たち(Microsoft)のやり方とは違う。Appleはハードウェアとソフトウェアを一体化することで成功しているが、そのアプローチが市場全体を支配するとは限らない」と語っていました。彼は、Microsoftの戦略である「Windows Mobileを多くのハードウェアメーカーにライセンス供与する方式」が市場の主流であり続けると考えていました。
しかし、Microsoftのこうした見解は大きく誤っていました。AppleはiPhoneで、単なる携帯電話を超えて、モバイルコンピューティングの新時代を切り開こうとしていたのです。Microsoftはこの変化を見誤り、迅速に対応することができませんでした。
App Storeの成功とMicrosoftの遅れ
2008年、AppleはApp Storeを開設し、開発者が自由にアプリを提供できるプラットフォームを構築しました。これは、iPhoneが単なるハードウェアではなく、ソフトウェアエコシステムを持つ強力なプラットフォームへと成長することを意味していました。App Storeの導入によって、開発者は容易にアプリを開発し、Appleのプラットフォームで収益を得ることができるようになり、ユーザーは多様なアプリを利用できることで、スマートフォンの価値が大幅に向上しました。
しかし、Microsoftはこの動きを完全に見逃しました。Windows Mobileは依然として古い設計のままであり、開発者向けの統一されたアプリストアを提供することができませんでした。この遅れが、Microsoftのモバイル市場での敗北を決定的にしました。スティーブ・バルマーは後になって、「最大の失敗は、2007年にiPhoneが出たときに、我々がすぐに対応しなかったことだ。我々は当時、PC市場と企業向け市場に焦点を当てており、モバイル市場を十分に重視していなかった。AppleはApp Storeを導入し、エコシステムを強化した。我々ももっと早く行動すべきだった」と述べ、iPhoneに対する過小評価がMicrosoftのモバイル市場での後れを生んだことを認めました。
Microsoftはこの時点でようやく危機感を持ち始め、2010年にWindows Phone 7を発表しましたが、すでに市場はAppleとGoogle(Android)に占拠されていました。App StoreとGoogle Playは急速に成長し、ユーザーと開発者の支持を得ていたため、Windows Phoneの市場参入は遅すぎるものとなりました。
Microsoftのスマホ市場撤退
2010年、MicrosoftはWindows Mobileの後継として「Windows Phone 7」を発表しました。従来のWindows Mobileとは異なり、新しいUI(Metroデザイン)を採用し、iPhoneと競争することを目的としたものでした。しかし、Microsoftはまたしても市場の要求に対応するのが遅れました。
Windows Phoneは、開発者の支持を得られなかったことや、エコシステムが確立されなかったことが大きな課題となりました。AppleとGoogleは、それぞれiCloudやGoogleサービスと連携することでエコシステムを形成していましたが、Microsoftはこの面で出遅れていました。AppleとGoogleは2007年から2008年にかけて本格的なスマートフォン戦略を打ち出していましたが、Microsoftは2010年になってようやく本格的な対抗策を発表したものの、すでに市場はiOSとAndroidの二強体制になっていました。
バルマーは、後にWindows Phoneの失敗を振り返り、「我々は、Windows Phoneで市場を変えようとしたが、遅すぎた。開発者を巻き込むことができず、結果としてエコシステムが成長しなかった。AppleとGoogleは、はるかに強固なプラットフォームを構築していた」と語り、市場参入の遅れが最大の失敗だったことを認めました。
Windows Phoneの売上は伸び悩み、2014年にMicrosoftはNokiaの携帯事業を買収し、巻き返しを図りましたが、最終的に2017年にスマートフォン市場から完全に撤退しました。AppleとGoogleがモバイル市場を完全に支配する中で、Microsoftはもはや競争できる余地を失っていたのです。
まとめ
iPhoneの登場は、スマートフォン市場におけるパラダイムシフトを引き起こしましたが、Microsoftはその変化を軽視し、対応が遅れました。スティーブ・バルマーは当初、iPhoneを「高価で成功しない」と見誤り、MicrosoftはApp Storeのようなエコシステムの重要性を理解するのに時間がかかりました。結果として、Appleはスマートフォン市場を支配し、MicrosoftはWindows Phoneの失敗によってスマートフォン市場から完全撤退することになりました。もしMicrosoftが2007年の時点でAppleの戦略を真剣に受け止め、より迅速に対応していれば、モバイル市場での競争はまったく異なる展開になっていたかもしれません。この一連の出来事は、テクノロジー業界において、革新の波を正しく認識し、迅速に適応することの重要性を示す歴史的な事例となりました。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です