
「N1分析」は帰納的なアプローチ
「N1分析」は、名前のある実在する1人の顧客を徹底的に理解し、その顧客が価値を見出す便益と独自性を見極め、具体的なプロダクトのアイデアと、訴求するための伝達方法としてのコミュニーケーションのアイデアを洞察する帰納的アプローチです。顧客自身も気づいていない、もしくは、言語化できない潜在的なニーズ(インサイト)を洞察し、新しい価値を創造する分析です。
「N1分析」で洞察しようとしているのは、いわゆる「インサイト」です。一方、「インサイト」と呼べないものは、顧客自身が気づいており、言語化できる、説明できるニーズであり、これは顕在ニーズです。顕在ニーズはすでに明確なマーケットになっており、それに対応する、つまり、ニーズに対応する便益を提供するプロダクトが多く存在します。
「N1分析」では、顧客の購入行動につながる、顧客自身も気づいていない、言語化できていない潜在ニーズをつかみ、有効なプロダクトの提案、さらにマーケティング施策を創出し、定量的な検証を重ねて拡大展開していきます。
筆者のキャリアで成功と失敗を分けてきたものは、確実に「インサイトの解像度」であり、
個人である顧客をどこまで深く理解したかでした。この理解を深める方法を「N1分析」と名付けました。
現代のマーケティングに関する課題
筆者は企業の事業支援以外に、数冊の自著や講演活動等を通して「N1分析」や「5segs(ファイブセグズ)」「9segs(ナインセグズ)」のフレームワークを組み合わせた「顧客起点マーケティング」の重要性を訴えてきました。
2023年に刊行した『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)では、実際にマーケティング初心者の編集担当や出版のサポートスタッフ、さらに中小企業の経営者、若手マーケター、マーケティング初心者の方々から徹底的にヒアリングを行い、マーケティングを実践するうえで妨げになっているポイントをまとめました。さらに、本を購入してくださった読者に向け、刊行後に無料のオンラインサロンを何度も開催し、質問や疑問に応えていきました。
そこで、多くの方がマーケティングのどのようなことに課題を感じているのかをひも解くと、「顧客の解像度を高める難しさ」を感じているケースが多いことに気づきました。約9ヵ月間にわたって開催したオンラインサロンでは、多くの方からさまざまな悩みをうかがい、それらに答えていく中で、筆者自身も多くの学びを得ることができました。
その内容を、オンラインサロンの参加者だけでなく、より多くの方に共有したいと考え、1冊にまとめたのが前出の書籍『ビジネスの結果が変わるN1分析 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する』です。実際にマーケティングの何に悩んでいるのか。それについての筆者なりの見解をまとめました。
ケーススタディから学ぶ意味
「N1分析」で顧客の解像度を高めるためには、座学も必要ですが、実際には何度も自分で経験してみることが重要です。徐々に勝ち筋のパターンが見えてくるようになってきます。
本書でも詳しく触れますが、歴史的にマーケティングは市場全体を大きな塊としてマクロ的にとらえ、既存の理論やルールを活用してシェア拡大を目指す「演繹的」な手法が一般的でした。一方、具体的な事例を深く分析して汎用可能な傾向やパターンを見出し、有効なアイデアを導き出して拡大展開していくN1分析は「帰納的」な手法と言えます。
そして、通常の解説書やビジネス書は、原理や理論から結論を導き出す演繹的アプローチで書かれるものが主流です。筆者自身の著書では、「顧客起点マークテイング」の両輪として、演繹的アプローチである「5segs」「9segs」と帰納的アプローチである「N1分析」を同時に解説していましたが、混在すると理解するのが困難になるのも事実です。
また、「N1分析」は多種多様な人間とその深層心理を対象にした帰納的分析なので、マーケティングの分野の中でも汎用的な体系化と言語化が最も難しくもあります。逆説的ですが、「N1分析」の理解と血肉化には、個別の実例から帰納的に理解することが重要だと考えています。
その意味では、「N1分析」は理論やプロセスからではなく、実際に起きた具体例(ケーススタディ)から学ぶことが最も有益です。
そこで本シリーズでは、実際に「N1分析」を実践して成果を出している企業の経営者やマーケティングの責任者から詳細に話を聞き、実例を紹介します。
具体的には、「N1分析」を実践する4社のケーススタディを掲載します。BtoC市場で停滞から大躍進を達成したメーカー(アサヒビール株式会社)、縮小しつつある市場で再生に挑む老舗メーカー(株式会社アックスヤマザキ)、インターネットを主体に成長を続けるスタートアップ(株式会社シロク)、BtoB市場における巨大グローバル企業(パナソニックコネクト株式会社)。この4社の経営トップやマーケティング責任者から、実践している「N1分析」について、その実施している理由や具体的な方法、実践するうえでの難点や留意点、成果などについてうかがいました。
「N1分析」を実践している人の生の声を通して、実践するための戦略をひも解いていきます。
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