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高品質な「香る自然派スキンケア」で支持されるD2Cブランド、「N organic(エヌ オーガニック)」。運営会社のスタートアップ、株式会社シロクは、コスメ業界の常識に染まることなく、「N1=顧客」の声を活かす顧客起点経営を徹底。当初サブ要素だった「香り」から、忙しい女性の「癒やし」という真のインサイトを発見し、高速のN1分析を武器に市場を創造しながら成長を続けました。 インタビューイー/飯塚勇太(いいづか・ゆうた)氏 株式会社シロク代表取締役社長。1990年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2011年、サイバーエージェントの内定者時代に、友人らと開発・運営した写真を1日1枚投稿し共有するスマートフォンアプリ「My365」を立ち上げ、21歳で株式会社シロク設立と同時に代表取締役社長に就任(現任)。2014年、当時最年少の24歳でサイバーエージェントの執行役員に就任。2020年サイバーエージェント専務執行役員に就任(現任)。そのほか、株式会社シーエー・モバイル、株式会社タップルの取締役を務める。 インタビューイー/向山雄登(むこうやま・ゆうと)氏 株式会社シロク専務取締役。1987年京都府生まれ。神戸大学経営学部卒業。学生時代に飯塚氏とともに「My365」を立ち上げ、株式会社シロク取締役に就任。さまざまな新規事業を立ち上げ、2017年からは「N organic」のマーケティング責任者を務める。 |
常識に染まらなかった開発で「香る自然派スキンケア」が誕生
高品質なオーガニック成分と精油のブレンドが特徴のD2Cブランド「N organic」は、多忙な女性たちから熱く支持されています。このブランドを運営する株式会社シロクは、モバイル・インターネットサービスをルーツに持つスタートアップです。
同社が2017年5月に「自然の力で素肌と心を美しく導く」というコンセプトでスキンケア市場に参入した際、コスメ業界の知見はほとんどありませんでした。競合他社が多い中で、当初は1日十数件しか購入がないという暗闇の中を手探りで進んでいる状態でした。
しかし、販売開始から数カ月後、商品を購入したお客様へのヒアリングで、思わぬ転機が訪れます。お客様の多くが、肌への成分よりも「香りの良さ」を継続の大きな理由として挙げていたのです。
当時のスキンケア市場では柑橘系の香りは一般的ではありませんでしたが、「N organic」はブランドマネジャーと向山専務の「気分が良さそう」という好みを理由に、合成香料を一切使わず100%天然の精油による香りを採用していました。業界の「常識」を持たなかったことで、かえって独自性が生まれ、コミュニケーションを「精油の香りが良いスキンケア」に切り替えたところ、販売数が大きく伸長しました。

N1分析が捉えた「癒やされたい」というインサイト
「香り」の訴求で成功を収めた後、同社はさらに一歩踏み込んだインサイトを発見します。産休から復帰したチームメンバーが、「毎日目が回るほど忙しいが、スキンケアの瞬間だけは『N organic』の香りで癒やされる」と漏らした言葉がきっかけでした。
向山氏は、この声こそが日々の仕事や子育てに追われる女性たちの真のニーズだと確信。広告クリエイティブを「精油の香りで忙しい日々が癒やされるスキンケア」へと変更した結果、売上が再び大きく伸びたのです。
大手企業が保湿力や浸透力を競う「成分競争」を主戦場とする中、同社はあえてそこをど真ん中に据えず、「香り」や「癒やし」という感情的な便益に軸を置いたことで、独自の勝ちパターンを確立しました。
不完全でも早く、そして毎日聞くというスタートアップの文化
シロクがN1分析を徹底できる背景には、創業以来の文化があります。モバイル・インターネットサービスで培われた「不完全でもいいからサービスを早く出し、お客様の声を聞きながらアップデートしていく」という高速PDCAの文化です。
この高速な顧客起点のサイクルを支えているのが、徹底したN1インタビュー体制です。コロナ禍以降はZoomなども活用し、ロイヤル顧客だけでなく、まだ商品を使ったことのない未認知・未利用の方も含め、今でもN1インタビューを欠かさず実施しています。
インタビューで得られた結果や次の施策案はすべてSlackでオープンに共有され、社長の飯塚氏も全てに目を通すというテキストベースでの高速な意思決定が行われています。この体制により、現場からのフィードバックに基づいた施策がスピーディに実行・検証されています。
経営指標としてのN1:「ロイヤル化する強い瞬間」の追求
向山氏は、顧客の行動を測る指標として、一般的な顧客ロイヤルティ指標であるNPS(ネット・プロモーター・スコア)よりも、「次回購入意向(NPI)」という先行指標に注目。お客様がロイヤル顧客へと変わる「強い瞬間」を見つけることを分析の核としています。
この「強い瞬間」を解像度高く聞き出すため、インタビューの手法も変更しました。単にカスタマージャーニーをなぞるのではなく、顧客の意思や行動が変わったポイントを、4W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どうやって)を用いて詳細に深掘りするようになったのです。
例えば、化粧品を買いたくなった瞬間について、「インフルエンサーの〇〇さんの投稿を見たから」で終わらせず、「その〇〇さんが、いつ、どんなことを言ったのか」まで細かく聞き出し、ロイヤル顧客化につながる決定的な瞬間を徹底的に探っています。さらに、お客様のほうが企業より詳しいという意識を持ち、「お客様に対するリスペクト」を根っこに持つことも、真のインサイトを引き出す上で重要視しています。
巨大市場でのニッチな提案で「ずっと、のこる。」
飯塚氏は、N1分析を経た施策案など、Slackに書き込まれる社員からの報告をすべてチェックし、現場や顧客の情報を継続的に吸い上げるスタイルを維持。過去の事例や売れる見込みといったロジックよりも、スタッフのクリエイターとしての気持ちを優先し、「熱心な素人集団でいよう」というコンセプトを掲げています。
同社は年商1,000億円規模に挑戦できる市場を選びながらも、攻め方としては写真共有アプリ「My365」での成功体験に基づき、最初から独自のエッジを立てたニッチな便益の提案からはじめました。大手企業のフォロワー戦略をとらず、独自の便益で勝負をかけるという成功パターンを踏襲しています。
飯塚氏は、業績目標に左右される短期的なマネジメントよりも、中長期的な発展を重視しています。経営指標の一つとして「顧客の声を聞き続けること」を捉え、「もっと、つくる。ずっと、のこる。」というビジョンを掲げています。
長く残るブランドやプロダクトを生み出すためには、必然的にどうしたらお客様に愛され続けるのかを考えることになります。これが、同社の揺るぎない顧客起点の軸となっています。
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