2-4-7:マーケットは塊ではなく、心理のある個人の集合

顧客起点マーケティング N1分析
マーケットは個人の心理や感情の集合体であり、顧客理解が不可欠です。経営者は顧客の本質を把握し、長期的利益を追求すべきです。
2-4-7:マーケットは塊ではなく、心理のある個人の集合

顧客の心理や変化を把握しないマーケティングは縮小均衡に陥る

筆者が普段、さまざまな業種にわたって事業支援や投資をしている中、多くの企業でよく「このマーケットの市場規模はこのくらいの売上」という話をされます。もちろん、それも必要な情報ではありますが、それだけを考えていると、顧客が見えなくなるリスクに陥ります。マーケットというのは、1つの「塊」ではないからです。

それぞれに思考や感情、認知、知覚、周囲との相互作用といった心の動きを持つ個人の集合がマーケットであり、事業の売上も、もともとは1人ひとりの顧客がプロダクトに価値を見出した対価として払ったお金の集合体です。そのことを念頭に置いておかなければ、顧客への感覚が失われていきます。

そもそもマーケティングとは、端的に言えばプロダクトを開発し、顧客に継続的に購入や使用していただいて、利益を生み出し続ける活動です。企業側がどれだけ魅力的であることを訴えても、受け手である顧客が価値を感じてくれなければ成立しません。

なぜ、その顧客はプロダクトを買ってくださったのか。その「行動変化」の理由である「心理変化」を理解しないままでは、大規模なマーケティングによる投資でスケールさせることは不可能なのです。とくに事業規模の大きな大企業ほど、顧客が見えなくなる傾向は顕著です。

一方、新規事業の立ち上げやスタートアップの場合は顧客がゼロからはじまり、1人、また1人と増えていきます。そのため、多くの新規事業の責任者やスタートアップの経営者には顧客が見えていて、「そのプロダクトの顧客はどんな人か」というイメージを肌感覚として把握していることも多いです。

経営者における2つのタイプ

ところが、そうした経営者の多くも、ビジネスや組織が大きくなっていくにつれて変わることがあります。社員数がだいたい100~300人の規模になってきたあたりから、経営者は大まかに2つのタイプに分かれます。

1つは、財務の結果を見ながらも、それまで通り自ら顧客にフォーカスし続けて理解しようとする経営者です。もう1つは、結果としての財務の数字や顧客の数などに焦点をあてて、顧客との距離が離れていく経営者です。

後者の経営者は、急速に顧客が見えなくなっていきます。売上を単に対前年比や対前月比で見るようになり、自社の財務的な結果に関心が移っていきます。組織や人材の管理、資金調達、他業界との折衝や交渉、調整などに時間も意識も奪われるようになるのです。

その分、経営者が顧客と直接会う機会は減り、創業時には自分自身の体験から得ていた「顧客はどういう人か」という感覚も失われていきます。

また、組織が大きくなるにつれて、社員やスタッフも顧客よりも社内に目が向くようになり、社内のルールやプロセスを、そして数々の財務指標を重視するようになっていきます。すると、社内の誰も顧客理解のないまま、意思決定が行われるという事態に陥るのです。

このように、どんな企業も顧客が見えなくなるリスクを抱えています。

「継続的に利益をもたらす顧客」と「一過性の顧客」

ビジネスを行ううえでとくに重要なのは、「継続的に利益をもたらす顧客」と「一過性の顧客」とを区別し、両者の違いを検証することです。

よくプロダクトを買ってくださる人と、プロダクトを買っていたのに途中から離れてしまった人、あるいは、プロダクトを知ってはいるけれども買ったことのない人を比べ、そこにどんな差異があるかを把握することが重要です。

その違いとは次のようなものです。

・顕在ニーズと潜在ニーズの違い

・その結果としての行動の違い

こうした違いを見ずに一過性の売上を追い求めるようになると、継続的な売上と利益をもたらす顧客層を拡大することができなくなり、長期的に持続する利益を上げることが難しくなります。

単に「PV (ページビュー)を上げるにはどうしたらいいか」「課金率を上げるには、どうしたらいいのか」「売上を達成するためにはどうしたらいいか」といったことばかり考えていると、顧客はそれらを達成するための「ただの数字の塊(マス)」になってしまうのです。

それよりも、「何が1人の顧客の心を動かし、何がその顧客にその行動を起こさせているのか」を洞察する習慣を普段からつけることが重要です。

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《西口一希》

N1分析