2-4-39:「潜在ニーズ(インサイト)」と「アイデア」

顧客起点マーケティング N1分析
潜在ニーズ(インサイト)を理解するには、顧客の深層心理や行動背景をインタビューで深掘りし、分析と仮説検証を繰り返すことが重要です。
2-4-39:「潜在ニーズ(インサイト)」と「アイデア」

顧客自身が気づいていない「インサイト」を洞察する

「N1インタビュー」からお客様が感じている便益と独自性を見出すためには、「お客様自身が気づいていない潜在的なニーズ(インサイト)」を洞察する必要があります。これは「N1分析」で最も説明の難しい部分でありながらも、ビジネスの結果を大きく左右するところです。

ただし、N1インタビューをしたけれど、プロダクトの便益と独自性を見極められないというケースもあります。なぜなら、インサイトは行動を左右している、人間の欲望、矛盾、嫉妬、憧れ、不満などといった深層心理そのものだからです。本人も意識していない心理が行動に影響を与えているのです。

誰かが絶対に欲しいと思っているものがある場合、その裏には深いインサイトが存在します。 たとえば、「フェラーリに乗りたい」という強い欲望があるとしたら、その欲望はさまざまなコンプレックスや憧れ、幼少期の体験などに基づいていることも少なくありません。インサイトは、深層心理の欲望や欲求、ニーズにつながっているのです。

とくに特定のプロダクトやブランドが大好きというときは、わかりやすい機能便益に惹かれている場合もありますが、それ以外の要素が絡む場合も多いです。

それは幼少期の体験や、親や家族の影響、育った環境、満たされなかった欲望、昔感じた快感や達成感などが積み重なってできた個人の価値観によるものです。その人が快適だと思い、何を不快と思うのか。そこが見えてくると、その人にとって外してはいけない要素や欲望、願望、憧れなどが見えてきます。

試行錯誤を重ねて、顧客心理を理解する力がつく

こう書くと難しく感じるかもしれませんが、実際には人間の行動というのはそれほど複雑ではありません。人間は生まれたときから生存本能や種を残すための本能に動かされており、ホルモンバランスなどの影響も受けます。自分の命を守って快適に生きるために何かを手に入れたり、大切にしたりしています。

さまざまなサービスを利用するときや、モノを買うときも同様です。ほとんどの行動は意識的ではなく、そのときの気分や体調などによっても左右されますが、行動パターン自体はそれほど多くありません。

ただし、お客様の言葉の端々から無意識に望んでいらっしゃることを推察しながら話を聞くためには、何度もインタビューと分析を繰り返し、経験を積むことが求められます。

ふとした顔の表情や話し方、話している内容の矛盾、脈絡のない文脈から出てきた言葉、話しているときの仕草、その人の着ている洋服や持ち物など、さまざまなところから、「この人は本当は何を求めていて、どういったことに悩みを感じていて、心底欲しいと思つているものは何だろう。どうしたら、この人は喜んでくれるだろう」ということを常に考え続けて、頭の中で仮説検証をしていくしかありません。

そして「N1インタビュー」を重ねながら、「違った」「これじゃない」といった失敗を繰り返していくうちに、「あ、これだ!」とお客様が求めているものを見つけられるようになっていきます。試行錯誤を重ねることで、顧客の心理を洞察する力や理解する力が少しずつ身についていくのです。

なぜ、他社の「N1分析」を学ぶことが有効か

その意味では、本シリーズで紹介したケーススタディなどのような、ほかの人の経験を知ることにも意味があります。直接的・間接的に多くのケースを経験することが重要です。

たとえば、アックスヤマザキの山﨑社長が、周囲から「今どきミシン?」と言われ、「面倒」「難しい」「邪魔」という課題を抱えていたにもかかわらず、子育て世帯向けにミシンの開発を進めたのは、実際に会っていろいろな話を聞いたお母さんたちが、躊躇しながらも「やってみたい」と感じている潜在的ニーズを持っていることに気がついたからです。 それらの課題をクリアできれば、そのお母さんたちが買ってくれる、という「仮説」を持つことができたのです。

シロクの向山さんも、N1インタビューを重ねるうちに「化粧水による癒やし」について熱く語る方たちに出会い、これこそ自分たちが推すべきところだと気づきました。

やはり、1人ひとりのお客様へのインタビューを20人ほど実施していくと、しだいに「こういうことが言いたいのかな」と洞察できるようになってきます。

筆者自身も、オフィスで自分の頭の中だけで考えて「ひらめいた!」などということはありません。お客様の話を聞きながら、その行動の裏側にある心理的な背景を懸命に探っていき、その方が何を良しとされているのか、何を便益と感じ取っているのかを見つけています。

その意味では、「N1分析」ではそれほど複雑なことや難しいことをしているわけではありません。顧客が言葉にできない便益や独自性を見つけ出すために仮説を考え続け、顧客の話を聞き続け、顧客に憑依するかの如く、何が喜んでいただけるか、何が価値になるかを愚直に考え続けることなのです。

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《西口一希》

N1分析