2-4-3:「マスマーケティング」の限界と誤解

顧客起点マーケティング N1分析
マスメディアから個人メディアへの移行により、不特定多数に一律で訴求するマスマーケティングが効かない場合も増えています。この環境変化は、マーケティング戦略に根本的な転換を迫っています。
2-4-3:「マスマーケティング」の限界と誤解

マスメディアから個人メディアの時代ヘ

近年、いい製品やいいサービスをつくっても売れなくなった、ヒットしにくくなっている、という声をよく聞くようになりました。とくにスマートフォン市場の急速な広がりの後に、この傾向が加速しています。

なぜ、いいものをつくっても売れなくなったのか。大きな要因としてあげられるのが、マスメディアの時代から、スマートフォンの浸透による個人メディアの時代への移行です。大勢の人々に向けて画一的な訴求をする「マスマーケティング」という概念は、かつてマスメデイアが情報伝達の主流であった昭和の時代に根ざしています。

昭和の時代には右肩上がりに人口が増え続けており、BtoCでもBtoBでも、ターゲットとなる顧客やクライアントが増え続けていたため、プロダクトを次々と大量生産して安い価格で市場に投入し続けるビジネスモデルが主流でした。

そして、この時代にはテレビ、新聞、雑誌、ラジオの4大マスメディアが主要なメディアチャネルであり、広範囲の視聴者や読者に向けて一斉に情報を発信していました。

大量の営業部隊が売り込みをかけると同時に、マスメディアで広告やニュースが流されると、プロダクトの認知が大きく上がり、売上にも大きく影響しました。買ってくださる顧客がどういう人なのかを深く理解しなくても、人口もクライアントも増えるのでマスメディアを駆使して認知を高めれば、売上も伸び、ビジネスが拡大していったのです。

このような背景から、拡大する「マスマーケット」に対して、「マス生産」にはじまり、「マス営業」と「マス販売網」を土台に、「不特定多数のマスの顧客」に、「マスメディア」を通じて、大規模な一律のマーケティング戦略を展開する「マスマーケティング」が主流となりました。

しかし、「マス」という概念には大きな問題があります。

「マス」と言われるような顧客は存在しない

そもそも市場における顧客1人ひとりは、それぞれ異なる生活やニーズを持っており、この多種多様な顧客の集団をひとくくりにした「マス」と言われるような顧客は存在しません。マスマーケットと思われている市場も、実際には多種多様な個々の顧客の集合体や平均値に過ぎません。

テレビCMなどに大規模な投資をするマスマーケティングは、本来はさまざまな趣味や嗜好、特性などを持っている顧客を「大きな集団」でとらえます。そこには、そもそも誰に向けてどのプロダクトを提案するかという視点がないため、全方位的にプロダクトの認知を図ることになり、誰も強く否定しない代わりに誰も強く支持することもない、無難で既視感のある提案を繰り返すことになります。

その結果、顧客1人ひとりの心に響きにくくなるだけではなく、必ずしもコミュニケーションコストの効率も高まらないのです。また、ものづくりも広告の訴求もマスの平均値を狙うので、コモディティ化する傾向も強くなります。常に価格競争にさらされることになり、ビジネスが一過性に陥るリスクも避けられません。

それをなんとかしようとして、さらに巨大なマスをとらえようとして最大公約数的な戦略やプランに投資を重ね、利益の出ないプロダクトとなってしまうケースも多くあります。

不特定多数をひとくくりにする「マス思考」の問題

このように顧客を深く理解しようとせず、ビジネスを合計値や平均値で最大公約数的にとらえてしまう思考を、筆者は「マス思考」と呼んでいます。

1990年代の商用インターネットの登場、そしてデジタル技術の進化、さらにスマートフォンやSNSの隆盛による情報爆発の発展は、マーケティングの世界にも革命をもたらしました。

ほとんどの人がスマートフォンを通じてインターネットに直接つながり、無数とも言えるさまざまなデジタル上の情報に触れるようになりました。そうした状態では、1人ひとりの情報接触や感情や行動を把握することが極めて難しくなっています。

さらに4大マスメディアが衰退していく中で、マーケターや広告担当者が発信するプロダクトの宣伝、市場動向の解説記事、ブランドメッセージなども伝わりにくくなっています。今、それを埋めるかのようにさまざまなデジタルマーケティングの手法が提案されていますが、それによってマーケターは「顧客が何を求めているか」を知るよりも、新しい手技手法の理解と実行に時間をとられているのが現状です。

念のため補足しておきますが、筆者は「マスマーケティング」という手法自体を否定しているわけではありませんし、マスメディアを使うことを問題視しているわけでもありません。問題となるのは、平均値や最大公約数のみを求める「マス思考」であり、不特定多数の集団を単一の顧客像にあてはめ、全方位的に顧客を獲得しようとするアプローチです。

1970年代から発展してきたマーケティングは、個々人が情報を受発信できるスマートフォンを持つ現代において、その前提としてきた「マス思考」から大きく転換しなければならないのです。

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《西口一希》

N1分析