
購入に至る心理やその変化を理解する
顧客は、必ず何らかのきっかけがあって購入したり、使用したりしています。
何らかの心理の変化があって「この商品を買ってみよう」、あるいは「もう買うのをやめよう」という行動に移るのです。そうした心理やその変化を精度高く理解することが重要です。
たとえば、デジタルマーケティングでは当たり前になっている「ABテスト」でも、Aの成果が上がったから単にAに施策を寄せるのではなく、「なぜ顧客はAを選んだのか」「なぜBは選ばれなかったのか」を深く洞察することによって、Aよりはるかに成果が高いXという案が生まれる可能性が広がるのです。Xという案を追求しない「ABテスト」は、ほどなく行き詰まります。
顧客の心理を分析し、何に価値を見出したのかがわかるようになれば、客数、単価、購入頻度それぞれの上昇というかたちで必ず結果が出てきます。
顧客像が具体的でないと、実現性に欠ける
マーケティング担当者は、日々どうすれば売上や利益が上がるか、また顧客をどう増やすかについて頭を悩ませています。
しかし、たくさんの人が集まってディスカッションをしていても、良いアイデアが出ないことも多いです。なぜなら、ブレストで想定している顧客像に具体性がないため、どこかで見聞きしたようなものや、逆に奇抜なだけのものなど、商品の提案としても広告の訴求としても実現性や具体性に欠ける案ばかりになりやすいからです。
マーケティングで機能する強いアイデアを導き出すためには、実在する1人の顧客に焦点をあて、その人の詳細を深く理解することが重要です。

マーケット全体をセグメントすれば、意味ある最小単位は「N1」です。統計学で言う母集団の1サンプルではなく、名前のある実在する個別の顧客です。
人の行動は心の動きや深層心理の変化などに左右されますが、具体的に「N1」を設定するからこそ、具体的なアイデアにつなげられるのです。それはデータや数字を見ているだけではわかりません。はじめてプロダクトの便益を認知したときの心の動き、あるいはリピートしたときのきっかけを「N1分析」で見つけ、顧客戦略の起点にするのです。
対象をあえて絞り込む意義と必要性
しかし、1人に絞り込むことに対して不安を感じる人もいます。
「N1分析」を実践するうえで大きな障害となるのが、「ニッチ過ぎて、市場が狭くなるのでは」「1人に焦点をあてると、スケールしないのでは」といった懸念です。たくさんの人に買っていただきたいのに、「たった1人」にこだわると言われれば、不安になる気持ちもわかります。
そこで、対象をあえて絞り込む意義と必要性について説明します。
たとえば、誰かにプレゼントを贈るときの例で考えてみましょう。次の3つの選択肢のうち最も喜んでもらえる自信があるのは、どのケースでしょうか?
1.あなたのお子様、パートナーのいずれか1人
2.あなたの同僚10人
3.4年制大学の学部を卒業し、現在、首都圏に居住する年収400万~500万円の独身女性
1.は、誰にとっても明らかにほかの2つより成功する確率が高いのではないでしょうか。普段からよく知っている具体的な特定の一個人であれば、趣味や嗜好、生活態度、価値観、持ち物、興味対象を考えることで、本人が喜んでくれるプレゼントを選べる可能性が高くなります。
一方、2.の職場の同僚10人の場合、それぞれに年齢や性別、嗜好などが異なる10人が全員喜ぶプレゼントを選ぶのは難しく、結果的に無難なものを選ぶことになります。
さらに、3.の自分が直接知らない概念上の複数人となると、どんなプレゼントを喜ぶのかを想像するのは至難の業です。多くの企業で実際に行われているのは、こうした万人向けの粒度の粗い平均値・合計値を対象にした「マス思考」のマーケティングです。
マークテイングを考えるうえでも、1000人の平均値を起点とするより、「N1」を起点とするほうがはるかに成功率が高くなります。その人自身だけを見て、その人自身が喜んでくれるもの、買ってくれるもの、ハッピーになるものを考え抜くというところから視点がブレなければ、必ず見つかります。
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