2-4-20:Case Study要約版:株式会社アックスヤマザキ 老舗ミシンメーカーは、いかにして業績を立て直したか?

顧客起点マーケティング N1分析
書籍『ビジネスの結果が変わるN1分析 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する』に掲載したCase Study:株式会社アックスヤマザキの要約版です。
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長年、業績不振に苦しんでいた老舗ミシンメーカー・アックスヤマザキ。2015年に子ども向けのミシンを開発したところ、大ヒット商品になりました。以降も、シニア向けや男性向けなど、幅広いニーズに応える製品開発で業界に新風を吹き込んでいます。

変革のキーパーソンは、3代目社長の山﨑一史氏。ミシン離れなどの逆風において、「N1分析」を活かし、業績を立て直してきた経緯をうかがいます。

インタビューイー/山﨑一史(やまざき・かずし)氏

アックスヤマザキ代表取締役。2002年近畿大学商経学部を卒業後、機械工具卸企業に入社。2005年に父(当時社長)から相談を受け、右肩下がりの状況をなんとかすべく、家業である家庭用ミシンメーカー株式会社アックスヤマザキに入社。2015年に3代目として代表取締役に就任。同年、新市場を開拓するため子ども向けに開発した「毛糸ミシンHug」がヒットし、2016年ホビー産業大賞(経済産業大臣賞)、キッズデザイン賞受賞。その後、子育て世代に向けで開発した「子育てにちょうどいいミシン」もヒット、2020年にキッズデザイン賞優秀賞(少子化対策担当大臣賞)、グッドデザイン賞金賞(経済産業大臣賞)、JIDAデザインミュージアムセレクションvol.22と国内デザイン賞の3冠受賞。企業として「大阪活力グランプリ2020特別賞」に選出される。

会社の存亡という危機感から、潜在ニーズの発掘へ

大阪の老舗ミシンメーカー・アックスヤマザキは、2000年代、大手企業のOEM製品製造を主力とする社員18人ほどの業界最小規模の会社でした。取引先からは「ミシンなんてまだあるの?」などと存在を否定されることも。業績は悪化の一途を辿り、2015年には1億円近い赤字に陥る危機に瀕していました。

当時の営業は、自社の製品を買ってもらうための“お願い営業”に終始する、プロダクトアウトなスタイル。山﨑氏は、このままでは会社が潰れるという危機感から、視点を大きく転換します。長年の慣習を捨て、「お客様はなぜミシンをいらないと思っているのか」という、会社の外側にある顧客起点の問いを立てることを決意したのです。

山﨑氏はまず、自らミシンについて友人や知人にヒアリングを開始。ミシン会社の跡継ぎでありながら、自身もミシンを他人事として捉えていたことに気づき、「なぜ自分の周りの誰もミシンを持っていないのか」を追求しました。

ヒアリングを進めると、多くの母親たちが「小学校の授業で難しく感じてミシンが嫌いになった」という共通の経験を持っていることが判明。従来のミシンは、上糸・下糸のセット、糸調子など操作が複雑で、これがミシンへの「面倒、難しい、邪魔」という三大課題、すなわち大きな壁になっていました。

一方で、子どもたちからは「ミシンは魔法みたい」という純粋な興味が示され、山﨑氏は「小学校で嫌いになる前に、子どもが楽しめるミシンをつくろう」と決意します。

猛反対と「常識」を覆したイノベーション

この子ども用ミシンの開発は、当時社長を務めていた父親から「会社を潰す気か!」と激怒されるなど、社内から猛反対に遭いながら進められました。山﨑氏は、試作品に対する「プラスチックの針ではミシンではない」といった顧客のリアルな声(N1)を軸に、既存の発想を転換します。

「自分たちができること」ではなく「相手が何を望んでいるのか」という発想に切り替えた結果、本物の針の安全を確保する「針ガード」を採用し、複雑な糸かけが不要な毛糸で縫えるミシンを開発。苦難の3年を経て誕生した「毛糸ミシンHug」は、発売2カ月で初回生産分の2万台が完売する大ヒットとなり、会社は翌年に黒字回復を果たしました。

山﨑氏自身の娘が、クリスマスにサンタへ「パパのミシンちょうだい」と手紙を書いたことが、この成功が「自分事」として世の中に必要とされた証となりました。

大人の三大課題を解消した「隠さないミシン」

「Hug」の成功後、山﨑氏は母親たちから繰り返し聞かれる三大課題(面倒、難しい、邪魔)の解消を目指し、「子育てにちょうどいいミシン」を開発します。

操作の「難しさ」は、スマホ動画で入園・入学グッズの作り方を解説し、操作をシンプル化することで解消。そして、「ママ友が来たらミシンを隠す」という声に応え、本棚に収まるコンパクトなサイズと、従来のミシンの概念を覆すオシャレなマットブラックのデザインを採用し、「見せたくなるミシン」へと変貌させました。

このミシンは2020年の発売直後、コロナ禍でのマスク制作需要とも重なり爆発的なヒットを記録。同社のミシンはランキングで1位をキープし、売上高10億円、営業利益2億5000万円という過去最高益を達成しました。そのデザイン性は、ニューヨークのMoMAデザインストアでの取り扱いや、国内外での多数のデザイン賞受賞によって世界的に評価されています。

経営者自身の「N1」体験が会社を変える

同社はその後も、視力低下や複雑な操作を解消したシニア層向けのミシン、そして「レザーやデニムを縫いたい」というDIY・キャンプ好きの男性の要望に応えた高価格帯の「TOKYO OTOKOミシン」(高価格帯ながら初回3日で完売)など、「ミシンを使わない人」の視点を軸にヒット商品を連発します。

この成功の鍵は、山﨑氏がアンケートなどの量的データではなく、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、心を動かされるという定性的なN1分析を徹底した点にあります。

経営者が自ら顧客に向き合い、顔も名前も見える「1人」のニーズを解決しようと腹をくくること。このような、トップが持つ「軸」と「覚悟」こそが、零細企業が市場の常識を覆し、大成功を収めることができた最大の理由と言えるでしょう。

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《西口一希》

N1分析