2-4-10:Appleにみる「N1」起点のプロダクト開発

顧客起点マーケティング N1分析
Appleは「N1」に基づき、個人の欲求や洞察を深く理解することで独自性の高い革新を生み出し、市場を席巻しました。
2-4-10:Appleにみる「N1」起点のプロダクト開発

Apple Computer創業から上場も「N1」が起点

今や世界一のブランドであるAppleの創業時のエピソードをもとに、「N1」の洞察がどのような差異を生むかを一例として紹介します。

Apple Computer(現在のApple Inc.)は、スティーブ・ジョブズ(当時16歳)とスティーブ・ウォズニアック(当時21歳)が1971年に出会つたことをきっかけとして、1977年に共同創業しました。創業から1980年の株式市場上場までの急成長を支えたのは「Apple Ⅱ」というパーソナルコンピュータで、これはすべてウォズニアックが設計してつくったものです。

当時は、コンピュータは企業向けの高価な電子機械でしかなかったのですが、その中で、「Apple Ⅱ」はカラーグラフィックスを備えた最初のパーソナルコンピュータであり、 一般家庭でも使いやすい設計でした。これによりAppleは急速に成長し、パーソナルコンピュータ市場での地位を確立しました。

ウォズニアックは、コンピュータマニアであり、キーボードもモニターもない単なるコンピュータの基盤(後に「Apple Ⅰ₁」として販売)を自主開発し、それを無償で公開していました。そこにジョブズが注目してビジネス化し、さらに、ウォズニアックがそのさらなる進化版として「Apple Ⅱ」を誰でも使えるキーボード付き製品として仕上げて、急成長を遂げ、わずか3年での株式上場を実現しました。

ジョブズ自身がほしかったパーソナルコンピュータ

じつは、当時、ウォズニアックはヒューレット・パッカード(HP社)の正社員で、「Apple Ⅱ」となった基盤づくりも、画期的な「Apple Ⅱ」も自分の趣味的な副業としてジョブズとつくっていました。ウォズニアックは、これらを会社に隠すことなく、「Apple Ⅰ」の基盤も、「Apple Ⅱ」のアイデアもHP社の上司に報告していたのですが、HP社は、それらをプロジェクト化することはありませんでした。

一方で、ジョブズは、ウォズニアックの技術にマニアでなくても個人が楽しめるまったく新しい「便益=パーソナルコンピュータの可能性」を洞察していました。当時の記録を見れば、ジョブズ自身が欲しいものを実現していることがわかります。

このように、Appleの創業から現在までの歴史は、ビジネスに関する学習の宝庫ですが、 一貫して「N1」の起点があり、「Apple Ⅰ」と「Apple Ⅱ」はその出発点です。

まだ世の中に存在しない便益を求めるジョブズ自身が「N1」であり、ウォズニアックの独自の技術から、これまでになかった独自便益を提供する「何か」を洞察し続ける、「N1」の起点となったのです。

逆に、いわゆるマスの市場分析からスタートしたプロダクトというのは、結局、独自性が弱く、一般的な便益での価格競争に陥ってしまうのです。

「N1」まで絞り込むからこそ、強い独自性と便益のあるプロダクトアイデアを生み出せるのです。1人にフォーカスすることによって、ほかの人にも響く強いアイデアのヒントが得られるということです。

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《西口一希》

N1分析