
「N1分析」のレビューと振り返り
1人のお客様への「N1インタビュー」をした後は、傍聴者や参加者全員でブリーフィング(デブリーフィング)などでレビューを行うといいでしょう。
各自の記録をもとに、「どんな人だったのか」「お客様の驚きや喜びなど心が動いたポイントは何だったか」「想定外だった出来事は何か」「新しい気づきや発見はあったか」など、いろいろな可能性を確認します。
このレビューでは、ほかのお客様との「共通項」だけでなく、「外れ値」や「異常値」に注目することも重要です。変わっていて驚いた話や、これまでの仮説と違うところがあれば、そこに拡大のチャンスがある可能性が高くなります。
このお客様の潜在ニーズを汲み取り、「WHO (顧客像)」や「WHAT (便益と独自性)」を整理していきます。その際には、「WHO × WHAT① 」ゃ「WHO × WHAT②」のように、複数の「顧客戦略(WHO&WHAT)」の組み合わせが考えられます。
そして、それぞれの顧客戦略に向けた再現性のある施策「HOW」を考えます。そうしてまとめたものは、新しい仮説案として次のN1インタビューに取り入れていきます。
また、次回以降に追加するべき質問事項がないかを確認します。

パナソニックコネクトの関口さんは、N1インタビュー後のレビューにはインタビューの5倍の時間をかけていると話されていました。しかも、その顧客に関わる職能の人をすべて集め、全員であらゆる角度から検討することで顧客理解の解像度を上げられていました。
このように、単なるインタビューで終わらせず、顧客をどう解釈し、今後のアイデアにどうつなげていくかが重要です。
高速でPDCAを回しながら「勝ち筋」を見つける
N1インタビューで「WHOとWHAT」のアイデアが複数見えてきたら、小さなテストを行い、コストに見合うだけの顧客の反応があるのか、お金を払ってくださる顧客がどれだけいるのかという投資対効果を検証します。
マスマーケティングのように、1つの戦略を決めたらそこに100%投資するのではなく、施策の実行においても帰納的なプロセスをたどります。
「N1インタビュー」から出てきた戦略仮説を施策に落とし込み、小さなテストで顧客の反応を確かめながら、投資に見合うかどうかを検討し、見合うものだけを拡大していくのです。
小さなテストというのは、アイデアスクリーニングテストやコンセプトテストなどの事前のアンケート調査のほか、実際のマーケットでの商品の発売やサービスの開始も含まれます。
筆者がおすすめするのは、アンケート調査を経て、実際にマーケットで小さく限定的にテストを実行してみることです。
やはり実際のマーケットではアンケート調査では想定しきれない差異が出てくるので、大規模な投資の前に、マーケットで顧客の反応を確認したほうが良いでしょう。
前出のケーススタディでも、たとえばアサヒビールは本物のレモンスライスを入れた「未来のレモンサワー」をネットで限定販売されたり、数量限定や地域限定で販売されたりしています。
また、缶を開けたときの泡の出方が一定ではない「生ジョッキ缶」を、逆転の発想で「顧客ご自身の手で完成させる商品」と位置付け、体験されたお客様の驚きや喜びもコミュニケーション訴求に反映されています。
まさに、PDCAを回しながら「勝ち筋」を見つけられている例と言えます。
アックスヤマザキの山﨑社長も、ミシンの体験会を頻繁に行い、ターゲット層に実際に使ってもらって反応をうかがい、開発やコミュニケーション訴求に反映されていました。
とくに、これまでにないニッチな子ども向けミシンの開発中には、子どもたちがミシンを取り合っている様子を見て、「これはいける!」という実感を得ていらっしゃいました。
シロクも、「N organic」のお客様にN1インタビューを毎日行うほか、お客様からのレビューを1日100件以上いただき、それらを翌日にはクリエイティブ訴求に活かされています。
ほかのインターネットサービスやアプリにおいても、不完全な状態であってもいち早くリリースすることを優先し、お客様の声を聞きながらアップデートされています。
今の「WHOとWHAT」の限界が来る前に次を考える
筆者自身も、これまでに担当してきたプロダクトで「WHOとWHAT」を検証するテストを頻繁に行っています。
たとえば、スマートニュースでは地域限定で「猫チャンネル」のテレビCMに投資したところ、予想より新規顧客の獲得数が増えず、高額なテレビCMよりもオンライン広告などのデジタル施策に変更したほうがいいと判断しました。プロ野球の「12球団チャンネル」もオープン戦の開幕時はテレビCMの運用が成り立つものの、それ以外の時期はやはりデジタルに投資すべきだと考えました。
このように、常に5~6の「WHOとWHAT」の組み合わせを検証しています。
「WHOとWHAT」の仮説をつくって小規模にテストする一方で、次の「WHOとWHAT」の仮説をつくり、それもまた小さくテストして検証していくというプロセスは、筆者の支援先の企業でも必ずやっていただいています。
1つの「WHOとWHAT」がうまくいっていたら、それをどうやって最大化すべく拡大していくかを考えますが、それは「HOW」の領域になります。
どんなルートで、最初の「WHO」と同じような顧客にリーチさせ、どんなふうにその顧客にいいと思っていただける便益と独自性をお伝えするのか、です。ただし、この水平的拡大だけでは、いずれ限界がきます。その限界がくる前に、次の「WHOとWHAT」を考えておく必要があるのです。
たとえばクーポンの施策が新規顧客の獲得に大きな効果をあげたとしても、クーポンに慣れた人たちはしだいに飽きてきます。そうなると、次の新しい便益と独自性を提案する可能性が出てきます。
このように「WHOとWHAT」の組み合わせを複数つくり、効果検証のためのテストをして勝ち抜き戦を行いながら、勝ち残ったものを拡大していく。その一方で、それが枯れ果てる前に、次の勝ち抜き戦で勝ち残った「WHOとWHAT」を拡大していく。この流れを延々と続けていくことが重要です。
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