2-4-43:成功例や常識は、ときにビジネスの成長を阻む

顧客起点マーケティング N1分析
過去の成功や常識にとらわれると革新的アイデアや成長の妨げとなります。常識を否定し、新しい視点を重視すべきです。
2-4-43:成功例や常識は、ときにビジネスの成長を阻む

N1分析の敵は「過去の成功体験」や「社内の常識」

前出のアサヒビールのケーススタディの中で、「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」の開発時には「3.5%のビールなんて邪道だ」という社内の反対があったというエピソードがありました。

アサヒビールと言えば、アルコール度数5.0%の「スーパードライ」。それが社内の「常識」になっていたからこそ、その名の付いたビールで低アルコールを出すことに抵抗があったのでしょう。

この例のように、大きな事業を営む会社では、過去の成功体験や社内の常識がビジネスの成長を阻みます。とくに「N1分析」を進めるうえで大きな障害になるのは、過去の成功例やこれまでの常識にあてはめて考えるという演繹的なアプローチです。そのアプローチで物事が進んでいると、いくら担当者がお客様から聞いたという話をしても、「そんな個別のケース、どのくらい買う人がいるのかわからない」などと言われて可能性を打ち消されてしまうことになります。

しかし、これまでの過去の延長でしかない常識で判断し、過去にはない未来の議論を進めようとする前提こそ、大きな矛盾であることを認識すべきです。それでは、何度も議論や会議を重ねても、結局は、競合他社と似たようなところで勝負し、同じ便益の分野での比較級で勝つことを目指さざるをえなくなるのです。結果、売上が上がったとしても、投資対効果も利益性も下がっていきます。

「常識の否定= “否”常識」が重要

そもそも常識というのは、過去の成功から導き出された思考や判断の習慣に過ぎません。したがって、永遠に通用する常識など存在しないという前提に立つべきです。そのような常識が存在しないからこそ、既存の大企業が関連事業のスタートアップに取って代わられることがあるのです。

常識がない非常識を推奨しているのではなく、「常識の否定= “否”常識」が重要なのです。

アックスヤマザキの子ども向けミシンや男性向けミシンも、「ミシンは主婦が使うもの」という従来の常識からは大きく外れるものです。しかし、常識にとらわれない意思決定が独自の便益による顧客を生み出したのです。

シロクも、化粧水に100%天然の精油を使われていますが、天然の精油を使うとエグみが出ることがあり、原価も高くなるため、コスメ業界では常識的ではありません。そのため、OEMのメーカーには驚かれたけれども、それが独自性のある便益につながったという話がありました。

パナソニックコネクトでも、N1インタビューでお客様から驚くような話が出てきた際に、そこを深掘りして本質を追求することで、次のヒントにつながることが多いという話がありました。

2007年にアップルからiPhoneがはじめて発売されたとき、その新規性ゆえに「こんな製品は売れない」「商業的に成功するとは思えない」と酷評されたというエピソードがあります。 その後のiPhoneの大躍進を見れば、それらの評価が間違いであったことがわかりますが、やはり多くの人はそれまでの常識にとらわれがちで、そこにあてはまらないものに対しては懐疑的になるのです。

顧客の話に驚いたとき、そこにチャンスがある

「これまでの常識にはとらわれない斬新な発想で……」

「従来の枠を超える新しいイノベーションを……」

いろいろな企業で、多くの人がよく口にする言葉ですが、そのわりに新しいアイデアが提案されたときには、「それは本当に売れるの?」「奇抜すぎない?」「ニッチでしょう」といった反応が見受けられることが少なくありません。

理路整然とした賢そうなプレゼンテーションをする人はたくさんいます。魅力的な図表や詳細な市場規模、環境分析などがたくさん盛り込まれたプレゼンテーションです。 しかし、そういう人に「何をしたいのか」を聞いても、「これから〇〇市場に商機があります」といった誰もが言いそうなことや、どこかで聞いたような答えしか返ってきません。なぜなら、過去の積み上げである現状を演繹的にとらえているに過ぎないからです。

演繹的なアプローチには多くの人が納得感を抱きます。なぜなら、それは自分が知っている、もしくは、ある程度理解できる世界の中で論理が組み立てられ、結論が導き出されているからです。安心するのです。

しかし、多くの人が「これなら売れる」と納得できるようなものは、大きな成功には結び付かないはずです。なぜなら、既存の常識の延長線上にあるからです。お客様にとって何ら新しい価値を提案するポテンシャルがないということです。

一方、帰納的なアプローチをとると、びっくりしてしまう人や拒否反応を示す人も多いです。自分の知らないことや考えたこともない発想だからです。不安になるのです。

ですから、見方を変えれば、顧客から話を聞いてびっくりしたときや、つい笑ってしまったときには、そこを深掘りすれば大きなチャンスがあるということです。

そのときに常識的な考え方や既存の切り口、前例ありきの判断方法で評価すると、例外的なケースとして避けてしまうことになり、結果的には大きな当たりや成功にはつながらないのです。

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《西口一希》

N1分析