2-4-11:帰納法である「N1分析」を理解する

顧客起点マーケティング N1分析
演繹的発想は理論から仮説を導く思考法であり、帰納的発想は個別事例からパターンを見出す思考法です。この2つを補完的に活用することが、マーケティング戦略において重要になります。
2-4-11:帰納法である「N1分析」を理解する

「演繹的発想のマスマーケティング」と「帰納的発想のN1分析」の違い

これまで見てきたように、大きな市場でマスな競争を仕掛けるマスマーケティングは既存の理論や仮説に基づいて結論を導き、施策に反映します。これは、思考法で言えば「演繹的発想」にあたります。

一方、「N1分析」は、具体的な事例や個別ケースを観察した結果、あるパターンを見出し、そこから有効なアイデアを導き出す「帰納的発想」と言えます。

この帰納的なアプローチでは、潜在顧客を発見し、獲得し、拡大していくことを目指します。マーケティングにおける演繹的方法と帰納的方法は、問題解決や理論構築においてまったく異なるアプローチをとりますが、マーケティング戦略の策定においてはお互いに補完的な役割を果たすため、状況に応じて適切に使い分けることが求められます。

たとえば、帰納的アプローチで新たな視点や仮説を発見し、それを演繹的アプローチで検証することによって、より確かな結論に到達することができます。

それぞれのアプローチの違いを簡単にまとめると、次のようになります。

演繹的方法(Deductive Method)

演繹的方法は、既存の理論や法則から特定の結論や予測を導き出すものです。理論や仮説が先にあり、それをもとに具体的な事例を分析し、理論の正しさを検証します。

この方法は理論の検証や論理的な問題解決に有効なので、たとえば経済理論に基づいて将来の市場の動向を予測する場合などに用いられています。

■利点

・既存の理論や法則に基づいて仮説を立て、それを検証するため、論理的な強度が高くなる

・確立された理論から導き出される結論は、強い説得力を持つ

■欠点

・既存の知識や理論に依存しているため、新しい領域の探索には制限があるなど、新しい可能性の生成には不向き

・仮説の設定に偏りがあった場合、誤った方向へ導かれることがある。はじめの仮説が誤っている場合は、その後の結果も誤ったものになるリスクがある

■事例①

あるエレクトロニクス企業が新しいスマートフォンの市場への投入を計画しているとします。この企業は消費者の技術製品に対する既存の主な便益や機能の期待をもとに市場をセグメントし、それぞれのニーズを予測し(仮説の設定)、具体的な製品開発の計画を立てます。

たとえば、すでに確立された「消費者は大画面のスマートフォンを好む」というニーズに基づいて、「新製品はこれまで以上の大画面を特徴とする」といった案を立てます。この案を市場調査によって検証し、試作品が良い反応を得られれば、製品開発を進めていきます。

■事例②

ある製薬会社が新しい医薬品の効果を推定する場合、既存の医学理論や前臨床試験のデータをもとにして患者群に対する効果を演繹的に予測します。

「特定の成分が炎症を軽減する」という既知の理論があるとしたら、「その成分を含む新薬が特定の疾患に有効である」という考えに基づいて臨床試験を設計し正確性を検証します。

帰納的方法(Inductive Method)

帰納的アプローチは、具体的な個別ケースの観察から一般的な法則や理論を導く方法です。個別の事例が先にあり、それらからパターンや傾向を見出し、一般的な結論や理論を形成します。

このアプローチは、新しい理論をつくる際や未知の可能性の発見に有効です。たとえば、市場調査を通じて消費者の行動パターンを観察し、そのデータから今後の市場の可能性を予測する場合などです。

■利点

・新しいデータや情報に基づいて理論を形成するため、創造的な思考と新しい発見につながりやすくなる

・実際の観察に基づいて理論を構築するため、現実世界の動向や変化をとらえる際に有効

■欠点

・限られたデータから広範な一般化を行うことにより、誤った結論に導かれるリスクもある

・マーケター(分析者)の主観が、データの解釈に影響を与える可能性がある

■事例①

あるファッションブランドが新しい市場のトレンドを探るために、SNSや店舗での顧客の個別の情報や反応をそれぞれ分析します(具体的観察)。これらの個別の情報から、顧客の好みに関する独特なパターンを抽出します(パターンの識別)。

複数の個人のSNSの情報や店舗で得られたコメントから特定のカラーのトレンドが顕著に好まれる傾向が見られれば、その色を中心に新しいコンクションを展開するという方策をとることができます。

■事例②

小売業者が、個別店舗での顧客の購入履歴を詳細に分析し、店舗ごと、地域ごとの商品需要のパターンを見つけ出します。たとえば、個別の店舗で特定の時間帯に特定の商品群の売上が著しく増加していることが観察されれば、その情報をもとに、時間帯別のプロモーションを計画します。

以上、大まかに演繹的発想のマーケティングと、帰納的発想の「N1分析」のアプローチの違いをまとめました。統計的分析や一般的なマーケティング理論のほとんどは演繹的であることを意識して、帰納法である「N1分析」を区別し活用してください。

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《西口一希》

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