
N1分析の「N1」は、誰でもいいわけではない
ここまでは、「N1分析」とは何か、なぜ必要なのかを解説してきました。
ここからは「N1分析」の基本的なフレームワークとなる「5segs(ファイブセグズ)」「9segs(ナインセグズ)」「ストラテジーマップ」などをもとに、顧客戦略について説明していきます。
「N1分析」は、顧客1人ひとりを「N1インタビュー」によって深掘りし、顧客ニーズを洞察していきます。その際の「N1」は誰でもいいわけではありません。
「N1分析」を成功させるために重要なのは、「どの1人を掘り下げるのか」という選定です。1人にインタビューを行う前に顧客全体の構造を理解し、全体をいくつかのセグメントに分類し、誰に話を聞くかを決める必要があります。
企業やブランドによってさまざまな顧客の分類が行われており、筆者もこれまで多様なフレームワークを試してきましたが、最もシンプルで汎用性が高いのが「5segs(ファイブセグズ)/顧客ピラミッド」です。

「5segs」は、自社や競合のプロダクトの顧客を「認知・購入経験・購入頻度」の指標で5つに分類したものです。マーケティングの投資対象である潜在顧客層をはじめ、ターゲット全体を包括的にとらえているので、現在の顧客だけでなく、離反顧客や、認知はしているものの一度も買ったことがない未購入者、未認知者も含みます。
「5segs」を作成する3つの設問
これはインターネットの量的調査などを使うことでも作成でき、その調査では次の3つの設問を用意します。
①このブランドを知っているかどうか(認知)
②これまで買ったことがあるかどうか(購入)
③ どれくらいの頻度で購入しているか (毎日、毎月、3ヵ月に1回、最近は買っていない……などの購入頻度)
そして、以下の図のように、アンケートの対象者に①、②、③の順で質問をしていくと、「5segs/顧客ピラミッド」を作成することができます。このとき、購入頻度の基準は、プロダクトごとに異なるので、自分たちで切り口を決めてしまって構いません。

たとえば、毎日使ったときに2、3カ月程度で使い切るシャンプーであれば、仮に年に3回以上買っている方を「ロイヤル顧客」とすると、年2回以下の方は「一般顧客」となります。
自動車であれば、平均的な購入サイクルが8年から9年なので、たとえば以前乗っていた車種と今乗っている車種が同じ場合は「ロイヤル顧客」と定義するなら、以前は違うメーカーの車で今は自社の車に乗っている人は「一般顧客」とします。
また、POSデータや売上データを見れば、継続率と購入頻度の最も高い顧客(ロイヤル顧客)を見つけることができます。D2C(Direct to Consumer/顧客に直接商品を販売するビジネスモデル)などの直販事業をしている企業であれば、購入データをもとに、より精緻にロイヤル層、離反層、一般層に分類することも可能です。
「9segs」で顧客の実態を知る
さらに詳細に顧客の実態を分析する場合は、この5つのセグメントに「次回購入意向(NPI)」の項目を加えます。先の3つの質問に続く4つ目の質問として、「次に(次も)このブランドを購入したいと思うか」を尋ねます。
たとえば、自社ブランドのロイヤル顧客層に「次回購入意向」の調査をすると、自社ブランドを選ばない顧客も存在することがわかります。自社ブランドを大量に買ってくれているロイヤル顧客であっても、必ずしも次回もロイヤル顧客になるとは限りません。
今は繰り返し購入してくださっている顧客も、単に店舗の利便性がいいから購入してくださっているだけで、もっと近くに店舗ができればそちらに移るかもしれません。あるいは、2つの店舗を場合によって使い分けるかもしれません。
実際には、どの分野においても常に1つのブランドだけを買い続けている消費者はほとんどおらず、多くの場合、複数のブランドを利用しています。
購入頻度だけでなく、「次も買いたいと思うか」の質問を加えると、「ロイヤル顧客」の中にも「次回購入意向」のある「積極ロイヤル顧客」と、次回購入意向のない「消極ロイヤル顧客」が混在していることがわかります。

「9segs」による詳細分析とN1インタビュー対象の選定
先の「5segs/顧客ピラミッド」に、この「次回購入意向(NPI)」の質問を加えて分類したのが「9segs(ナインセグズ)」です。「5segs」の「ロイヤル顧客」「一般顧客」「離反顧客」「認知・未購入顧客」の4層を「次回購入意向(NPI)」の有無で8つに分類します。そこに未認知顧客を足して、9つになります。
9番目の「未認知」以外の奇数のセグメントはブランドヘのロイヤリティが高く、偶数のセグメントは離反する可能性が高くロイヤリティが低いと言えます。
9つの顧客層のうち、継続的に売上と利益に貢献していただける最も重要な顧客層は「積極ロイヤル(セグメント①)」です。高頻度で購入していて、しかも今後も買いたいと思っている人は、この製品やサービスに対して必ず何らかの強い便益と独自性を見出しています。
その理由は言語化されていない可能性もありますが、「N1分析」で掘り下げることによって見つけていきます。そこで、「N1インタビュー」で最初に話をうかがうべきは、「積極ロイヤル」の顧客になります。
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