
2007年1月9日、Appleが初代iPhoneを発表したとき、Microsoftとは異なり、Googleはその影響を即座に理解し、迅速に対応する姿勢を見せました。Googleはすでにモバイル市場の成長を見越し、スマートフォン向けの戦略を模索していましたが、Appleの発表は、Googleがモバイル市場への取り組みを本格化させるきっかけとなりました。Googleの経営陣は、iPhoneを単なる新しい携帯電話ではなく、モバイルコンピューティングの未来を象徴する製品として認識していました。
当時のGoogleのCEOであったエリック・シュミット(Eric Schmidt)は、iPhoneの発表会にAppleの役員として登壇し、AppleとGoogleの関係を強調しました。彼はその場で、「今日の発表は、インターネット業界とモバイル業界にとって画期的なものだ」と語り、iPhoneが単なる携帯電話ではなく、インターネットを活用した新しいプラットフォームとしての可能性を秘めていることを強調しました。
Googleは当時、検索エンジンの分野で圧倒的なシェアを持っていましたが、モバイル市場においても影響力を拡大することを目指していました。そのため、Appleとの協力関係を深め、iPhoneにはGoogle検索、Google Maps、YouTubeといったGoogleの主要サービスが標準搭載されることが決まっていました。これは、AppleとGoogleの関係が当初は非常に良好であり、iPhoneがGoogleのインターネットサービスを利用することで、両社にとって利益となる関係性が築かれていたことを示しています。
しかし、Googleのモバイル市場に対する戦略は、AppleのiPhoneの成功とともに大きく変化していきました。Googleは、すでに2005年にAndroid Inc.を買収し、独自のモバイルOS「Android」を開発していましたが、当初のAndroidはiPhoneとは異なり、BlackBerryのような物理キーボードを備えたスマートフォン向けのプラットフォームとして設計されていました。Android Inc.は、アンディ・ルービン(Andy Rubin)、リッチ・マイナー(Rich Miner)、ニック・シアーズ(Nick Sears)、クリス・ホワイト(Chris White)によって2003年に設立された企業でした。彼らは、スマートデバイス向けの高度なオペレーティングシステムの開発を目指し、「カメラやその他のモバイルデバイスのためのオープンプラットフォーム」を構想していました。GoogleがAndroid Inc.を買収した目的は、モバイル市場における影響力を拡大し、モバイル向けの検索や広告ビジネスの基盤を確立することでした。Googleは当時、モバイルの成長を見越しており、Androidを使ってモバイルデバイスのエコシステムを構築することを計画していました。
しかし、2007年のiPhoneの登場は、この計画を根本から覆すことになりました。Googleのエンジニアリング担当副社長だったヴィック・ガンドトラ(Vic Gundotra)は、後に「iPhoneの発表を見た瞬間、我々のチームは会議室にこもり、Androidの設計を全面的に見直す決断を下した」と語っています。Googleは、それまで開発していたAndroidのプロトタイプを白紙に戻し、タッチスクリーンを全面的に採用した新しい設計へと移行しました。この決定により、AndroidはiPhoneに匹敵するユーザー体験を提供するプラットフォームへと進化し、後にAppleと直接競争することになります。
Googleの共同創業者であるラリー・ペイジ(Larry Page)とセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)も、iPhoneの発表を受けてモバイル市場への投資を強化することを決定しました。ペイジは、「モバイルこそが未来だ。人々がPCを使う時間よりも、モバイルデバイスを使う時間のほうが長くなる日が来る」と述べ、Googleがモバイル分野においてリーダーシップを確立することの重要性を強調しました。
しかし、AppleとGoogleの関係は、Androidの急成長とともに次第に悪化していきました。2008年、Googleは初のAndroidスマートフォン「HTC Dream」(T-Mobile G1)を発表しました。このデバイスは、iPhoneと同様にタッチスクリーンを搭載し、Googleのサービスを全面的に統合したものでした。Appleの経営陣は、これを「Appleの技術を模倣したもの」として強く批判しました。スティーブ・ジョブズは、GoogleがAndroidを開発し、iPhoneと競争することに対して激しい怒りを抱いており、2009年には「GoogleはiPhoneを殺すつもりだった。Androidは盗作だ。我々はそれと戦うつもりだ」と発言しました。
この対立は、Appleが2010年にiPhoneからGoogle Mapsを削除し、独自のマップアプリを導入する決定を下すことでさらに深まりました。Google Mapsは当初、iPhoneの標準アプリとして搭載されていましたが、AppleはGoogleとの関係悪化を受けて独自の地図サービスを開発しました。しかし、この新しいApple Mapsはリリース直後に多くの不具合が発生し、ユーザーからの批判を受けることになりました。一方、Googleは2012年にGoogle MapsのiOSアプリをリリースし、Appleのマップに対する不満を持つユーザーに支持されました。
AppleとGoogleの関係は、このように協力から競争へと急速に変化しました。iPhoneの登場は、Googleにとっても大きな転機となり、Androidの開発を加速させる要因となりました。もしiPhoneが登場しなければ、Googleは従来の携帯電話市場にとどまり、現在のAndroidのようなオープンなスマートフォンプラットフォームを構築することはなかったかもしれません。
iPhoneの成功によって、スマートフォン市場は劇的に変化し、AppleとGoogleは最も激しいライバル関係へと発展しました。iPhoneの発表当初、GoogleはAppleと緊密な関係を築いていましたが、Androidの急成長とともに、両社の競争は避けられないものとなりました。iPhoneとAndroidは、それぞれ独自のエコシステムを構築し、モバイル業界を二分する存在となり、スマートフォン市場の主導権を巡る競争は現在も続いています。
このように、iPhoneの登場はAppleとGoogleの関係を根本的に変え、モバイル業界全体に大きな影響を与えました。AppleはiPhoneを通じてモバイルコンピューティングの新たなスタンダードを確立し、GoogleはAndroidを開発することで、Appleに対抗する独自のエコシステムを築き上げました。最初は協力関係にあった両社が、やがて激しい競争へと突入することになったのは、iPhoneという革新的なデバイスが持つ影響力の大きさを示しています。
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