
ロクシタンの顧客動態と3 種類の顧客戦略
どのような業種や業界であっても、単年度の利益貢献度の高いロイヤル顧客は一定割合で離反するので、この離反を補う顧客獲得が必要です。しかしロイヤル顧客の売上と利益貢献度は高いので、ロイヤル顧客一人が離反すると、より多くの新規獲得が必要です。また新規獲得へのコスト(投資)は多くの場合、単年度では回収が難しく、2‐3年、あるいはBtoBで大規模な設備投資が必要な業種などでは10年、20年といった単位での回収が前提になります。
このように、短期と長期を見据えて継続的な売上と収益性を高めるために、カスタマーダイナミクスで4種の顧客動態を可視化し、それぞれに顧客戦略を構築することが重要なのです。
コスメブランドのロクシタンにおける過去の事例を紹介します。同ブランドは当時、1年単位で見た場合、売上の60%が顧客数(購入者数)の16%(ロイヤル顧客)に上位集中していました。さらに利益の集中で見ると、最終利益の100%がこの16%のロイヤル顧客から生み出されていました。残りの84%の顧客となる一般顧客の維持、離反顧客の復帰、新規顧客の獲得への投資は単年度では赤字であり、3年で回収する構造でした。当然、上位16%からも毎年数%が離反していました。
このカスタマーダイナミクスを強化し(上位引上げと離反最小化)、売上を落とさず収益性を高めるには、まず上位16%顧客の単価と頻度を上げつつ、離反率を低下させることで、上位層への投資対効果を高めることが必要でした。並行して下位84%の顧客への投資対効果を高めるため、すなわち単年度赤字の回収期間を3年以下に短くするための離反防止、離反顧客の復帰、新規顧客の獲得への投資対効果を高める顧客戦略を構築する必要があったのです。カスタマーダイナミクス上のそれぞれの顧客分析の結果、3種類の顧客戦略を実現することで、売上を落とさず短期間での収益性の回復を目指しました。

効果が高い投資に集中して利益性改善
ロクシタンはハンドクリームなどのボディ関連商品が強かったのですが、分析の結果、顔に使うフェイスケア商品が購入頻度を向上させることが明確になりました。そこで、一つ目の顧客戦略として「フェイスケア商品を中心としたスキンケア」を上位の既存顧客へ提案し、「単価」と「頻度」を最大化しました(図中A)。
以前はフェイスケア商品もハンドクリームやボディ関連商品と同様にすべての顧客に提案しており、フェイスケア商品は店舗では売りにくい商品と位置付けられ、店舗スタッフも力が入っていませんでしたが、ロイヤル顧客になればなるほど受け入れやすいと分かったのです。
2つ目の顧客戦略は、ロクシタンの誕生の地であるプロヴァンスをテーマにした新商品、企画品、プロモーションの提案です。これは長年実行していたのですが、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の離反防止にも効果がありました。そこで、購入頻度が落ちてきた既存顧客(潜在的な離反顧客)に積極的に提案することで、離反を最小化しました(図中B)。
3つ目の顧客戦略は、他人に贈るためのギフト提案です。これは、大量に存在していた離反顧客の急速な復帰につながり、また自分向けには購入をためらっていた潜在的な新規顧客層を大きく獲得し、2つ目の顧客戦略と相まって、新規獲得に大きく貢献しました(図中C)。
この3つの戦略をそれぞれの顧客層において実現することで、売上を伸ばすとともに無駄な投資を避け、効果が高い投資に集中して短期間で利益性を改善しました。
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