2-3-4:戦略の根本的な問題は顧客不在

顧客起点マーケティング 経営とマーケティングの理解
企業戦略の根本的な問題は、顧客理解の不足にあります。持続的な成長のためには、顧客価値の創造とその把握に重点を置くことが必要です。
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10年変わらない経営の課題「収益性の向上」

人口増が止まった日本の市場において、今、多くの経営者が変革を迫られています。デジタル化、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)が急務だといわれ、コンサルティング会社やシステムなどを導入した企業も多いでしょう。ですが、DXを推進しながらも途中で崩壊した大手の事例なども出てきています。本書の執筆時点で筆者が知る限り、DXで期待通りに事業が伸び、新たな成長の道筋が見えたケースはほぼありません。

中小含む多くの企業で、今後の事業成長への打ち手が分からないという問題があります。2020年の日本能率協会(JMA)による全国主要企業の経営者への調査によると、現在の経営課題の1位は「収益性向上」ですが、実は10年前の2010年の同調査でも、第1位は「収益性向上」でした。10年間、変化がありません。

戦争から発展してきた戦略論の落とし穴

すべての企業は、成長に向けて何らかの戦略を実行しています。それぞれの経営陣が必死に考え、議論し尽くした末に立案された戦略ですが、業種は異なっているのに驚くほど似通っていることがあります。大手コンサルティング会社や代理店に委託したがうまくいかないという場合も、戦略提案書の構成は網羅的で論理的、表現も魅力的です。しかし実行するには概念的すぎて、現場の納得感もないため、クライアント内で具体的なアクションに移せていません。

その場合、提案の元となるはずの「顧客の理解」がそもそも弱い、という問題を抱えていることがほとんどです。コンサルティング会社が提案する改革やアクションは、顧客が誰かを具体的に定義しないまま策定された競合との戦い方、手段や手法、仕組みやプロセスの変更、あるいは財務的な打ち手が中心です。そのため、それらアクションの結果としてどのような顧客が自社プロダクトに価値を見いだし、結果として売上と利益をもたらすのかが見えないので、概念的に感じるのです。提案に対して、現場も腑に落ちないため、実行に結び付かず、分厚い戦略提案書だけが残ります。

ここには、誰しもが受け入れてしまっている、戦略の根本的な問題があります。世の中には数多くの経営戦略や戦略論があり、著名な経営者の皆さんも影響を受けられたでしょうし、筆者も学んできました。その多くは実際の戦争から発展してきたものですが、そもそも戦争の目的は、国家としての意思や価値観を押し通すために他国を屈服させることです。その目的達成を下敷きに、戦って勝つ方法や戦わずして勝つ方法をビジネスにあてはめようとするものが、既存の経営戦略や戦略論です。

ここで、ビジネスにあてはめようとしているのが、大きな問題です。ビジネスは戦争ではありません。国家間の戦いのように競争相手を屈服させることが目的ではなく、顧客への価値創造を最大化し、多くの顧客の満足と継続的な支持や対価を得ることが目的です。視界に入れるべきは顧客なのです。敵、つまり競合との戦争を前提とした戦略提案に、社内での腹落ち感がないのは当然です。むしろ健全な反応だといえます。

経営者の悩ましさに共通するのは、競争相手の理解ではなく、顧客の理解と解像度の弱さです。自社プロダクトの今の顧客は誰でしょうか? 購入してくれている理由は? 離反してしまった顧客はいるのでしょうか? なぜ離反したのでしょう? 今後、獲得可能な新しい顧客は誰でしょうか? ……これらへの回答が曖昧なままだと、経営の意志決定は悩ましい状態から抜け出すことが難しくなります。

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《西口一希》

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