2-3-2:組織が大きくなると、経営者も組織も顧客から遠ざかる

顧客起点マーケティング 経営とマーケティングの理解
組織の拡大に伴い、顧客理解が薄れていきます。その結果、意思決定が顧客とは無関係な理由で行われるようになり、利益や競争力が低下してしまいます。
2-3-2:組織が大きくなると、経営者も組織も顧客から遠ざかる

顧客に関係ない理由で意思決定がなされている

経営から顧客が見えなくなっている状態を、少しひも解いてみます。利益の伸び悩みを筆頭に、自社のビジネスに悩みを抱える経営者は、自社のプロダクト(本コンテンツでは、事業主が提供するすべての製品・サービス・事業をプロダクトと呼びます)が提供している「便益」と顧客との関係が見えなくなっていることが多いです。便益とは、おいしい、便利だ、気持ちいい、何かが解決したといった、顧客が実際に受け取る利益や利便性を指します。

便益と併せて、プロダクトには唯一無二の特徴であり代替の利かない「独自性」も必要です。特定の顧客に便益と独自性を提案し、顧客がそれらに価値を見いだして初めて、購入や利用が成立します。

便益とは、言い換えると「顧客が買う理由」です。独自性は「顧客が他のプロダクトを買わない理由」です。継続的に自社の商品・サービスを購入されている方、あるいはサブスクリプションサービスにおいて長く継続されている方は、何らかの便益があるから購入し続けているはずです。そして、何らかの独自性を感じているから、他のプロダクトにスイッチしない、つまり離脱しないわけです。

売上や利益などの財務数字は、経営状態を示しますが、それだけではそもそも誰が購入しているのか、なぜ購入しているのかは把握できません。例えば、どんなニーズや特徴を持つ顧客が、どのような具体的な「便益」を得るために自社のプロダクトを購入しているのかは分かりません。顧客が評価する自社プロダクトの「独自性」は何か。競合プロダクトと違う独自性は何か。こういった、顧客とプロダクトの関係が理解できていないから、業績が良くても悪くても次の打ち手が見えず、利益の継続性が難しくなるのです。

組織の構造課題や人事採用の問題においても、営業、開発、財務、製造、人事、マーケティングなど個別の部門のそれぞれに課題があるように見えて、突き詰めるとそれらの課題の多くは実は会社全体で問題視すべき「顧客の実態が見えなくなっている」ことに起因しています。本来、企業におけるあらゆる意志決定は顧客への価値創造につながっているべきですが、一つの意志決定の理由をさかのぼっても、顧客に関係のない商習慣や社内事情でしかないケースが多く見られます。それらは、すべてコストアップとなり、利益性の低下を引き起こします。

成長企業を率いるオーナー経営者のように自ら現場に立ち、顧客との対話を継続している方には、顧客が見えていることが多いといえます。しかし、売上が拡大し、組織が100人を超えるあたりから、経営者も組織も顧客から遠ざかってしまうのです。

デジタルの浸透で加速した顧客理解の重要性

なぜ、そうなってしまうのでしょうか。それは規模の拡大に伴って、組織構築、人事、財務管理、営業組織の拡大、対外的な交渉や調整などの多種多様な業務に時間も意識も取られてしまうからです。そして、これまでは目の前に見えていた、名前のある実在の顧客と自社プロダクトとの関係が見えなくなっていくのです。経営者は担当役員や現場からの調査報告や、財務数字の増減を通して顧客の行動を理解するようになり、それが〝組織としての経営〟だと割り切ってしまう。組織拡大の過程で多くの企業が直面する縦割り化や意志決定スピードの鈍化、いわゆる「大企業病」の始まりです。

この背景には、日本が人口増のマーケットから人口減のマーケットに様変わりしていることもあります。人口減とは、すなわち潜在顧客の減少を意味します。そして、圧倒的なスピードで顧客の生活と価値観を変えているデジタル化の波が、数の少なくなった顧客をますます捉えにくくしています。

従って、こうした環境下で、自社プロダクトに価値を見いだす可能性の高い潜在顧客層を見付け、その層に正確にリーチし、顧客化の投資対効果を高める必要があります。自社プロダクトに高い価値を見いだしてくださる潜在顧客層は誰なのかを見極め、自社プロダクトの価値を高め続け、顧客満足を高め続けて、単価と購入頻度を高めなければならないのです。今、ほぼすべての企業がその必要に迫られていると考えます。継続的に利益を高めるには、深い顧客理解が不可欠なのです。

それはBtoBでも同じです。なぜなら、BtoB事業の先をたどると、最終的に必ず“C”であるエンドユーザーがいるからです。自社のクライアントが見つめている顧客は何を価値と感じているのか、その顧客の顧客はどうなのか、と価値の連鎖をたどる必要があります。これもまた、顧客理解にほかなりません。

では、その中で常に顧客を理解し事業成長を実現している企業は、何をしているのでしょうか? どんな時代においても、売上を伸ばす企業に共通するのは、顧客が「価値」を見いだす自社プロダクトの便益と独自性を強化し続け、一方で、潜在顧客にとって新たな「価値」となる便益と独自性を提供するプロダクト開発を模索し続けていることです。顧客の心理と行動は固定ではなく、常に変化し続けています。経営は、その変化を常に捉え続けることが重要です。昨日の顧客は今日の顧客とは異なりますし、明日の顧客もまた変化していきます。目の前の顧客の心理と行動の理解を、どれだけ活かせるかが、経営のすべてなのです。

前述の人口減、そして顧客の多様化は、もはや不可逆な潮流です。その中で顧客に価値を見いだし続けていただき、得た利益をさらなる価値の創造に結び付けるために、本シリーズ「経営とマーケティングの理解」を生かしてください。

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《西口一希》

経営とマーケティングの理解