2-5-40:ヤッホーブルーイングの「黒字ニッチ」の確立

顧客起点マーケティング ブランディングの誤解
ヤッホーブルーイングはネット通販と顧客交流を活用し、熱狂的なファンを獲得してクラフトビール市場で成功しています。
2-5-40:ヤッホーブルーイングの「黒字ニッチ」の確立
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「よなよなエール」を筆頭にヒットを連発

前項では、函館市内に17店舗を展開するハンバーガー店「ラッキーピエロ」のブランディング事例を紹介しました。

一方、大手企業4社が市場シェアの多くを占める日本のビール市場で、独特なブランディングに成功しているのが、クラフトビール「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町、以下ヤッホー)です。

ヤッホーのビールは、今でこそコンビニエンスストアをはじめ、多くのお店で目にするほど大きく成功しています。ですが、創業から危機を乗り越えて、現在に至るまでには、中小企業にとってのブランディングのヒントが数多くあります。

ヤッホーの創業は1997年。長野県軽井沢町にて星野リゾートの代表である星野佳路さんが設立しました。星野さんがアメリカ留学中に出合ったクラフトビールの魅力にひかれ、日本にその文化を根付かせたいという思いから始まりました。創業メンバーには、現在の社長である井手直行さんも含まれます。

日本のビール市場は大手メーカーによるラガービールが主流でしたが、星野さんはアメリカン・ペールエールというフルーティーな香りのビールを選択しました。これが、よなよなエールの特徴を際立たせました。

しかし、創業当初の成功は、必ずしも商品の評価によるものではありませんでした。94年の規制緩和を契機に、日本全国で起こった地ビールブームに支えられ、よなよなエールも「地ビール」として観光地などで売れました。

販促を強化するも、ことことく失敗

ところが、2000年ごろにそのブームは終焉。ヤッホーの売り上げは急速に低迷します。販売促進の強化として、テレビCMやキャッシュバックキャンペーンなどを試みたもののうまくいかず、取引先との関係も悪化し、井手さんは最大の挫折を味わったそうです。

関東地区の大手コンビニとの取引が始まったものの、結果は散々で、追加注文どころか初回納入分も売れず、在庫が山積みとなりビールを廃棄する事態に陥りました。これにより、社内の士気も下がり、井手さん自身も会社の存続に絶望的な思いを抱えるようになります。

井手さんの転機となったのは、創業者の星野さんとの対話でした。星野さんは「本当にやり尽くしたのか。とことんやってみよう」と励まし、井手さんはこの言葉に奮起し、心機一転、金力で再挑戦する決意を固めました。

その手段として、「インターネット通販」を活用。当時、ヤッホーブルーイングは大手ECモール「楽天市場」に出店していましたが、最初はその可能性を見いだすことができず、売り上げはほとんど伸びませんでした。

ですが、再挑戦を決意した井手さんは、ネット通販に自ら専念し、メールマガジンなどを通じて商品の魅力を発信していったそうです。

ネット通販で好感触を得たのは、メールマガジンや楽天市場でよなよなエールのこだわりなどを発信するようになり、「よなよなエール、おいしいです。がんばってください!」といった応援のメッセージが少しずつ届くようになったこと。

「それまで我々のお客さんは間屋さんや酒店さん、スーパーの酒売り場担当者だったため、購入者に直接メッセージをもらって初めて『よなよなエールを好きな人がこんなにいるんだ』と気づいた。そして、リアル店舗だとその店の周辺に住んでいる人がたくさん買ってくれないと棚から落ちてしまうが、ネット通販で全国に点在しているこういう嗜好の人を拾っていけたら、会社が存続できるんじゃないか」

と考えるようになったと、井手さんは言います。

さらに、タンクで長期熟成させたビールを1本3000円という高額でメルマガ読者向けに販売したところ、100本が数時間で完売しました。

100人に1人でも熱量の高いファンがいれば成立する

「100人のうち1人でも熱量の高いファンがいれば、シェア1%を取れる。ただ、それだと酒店やスーパーの棚には残らない。つまり、コンセプトと流通のシステムが合っていなかったということ。ネットがなかったら、このポジションに来ていなかった」

と井手さんは振り返ります。「熱量の高い顧客が1%いればいい」。この発見がまさに、ブレークスルーの瞬間になりました。次第に「よなよなエールを愛している」という熱狂的なファンが現れ、ネット通販は収益の大きな柱となっていきました。

ヤッホーは「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」を何度も受賞。顧客とのコミュニケーションをさらに深めていきました。特にファンイベント「よなよなエールの超宴」を開催することで、リアルな場での交流も重視し、ファンとの強固な関係を築き上げました。

ヤッホーのように、デジタルマーケティングやネット通販の発達は、マスメディアしかなかった時代に比べて、中小企業が少ない資本で重要な顧客層を特定し、効果的にリーチすることを可能にしています。

このような取り組みにより、ヤッホーはクラフトビール市場でトップブランドになり、一般の小売り店の棚でも目にするブランドヘと成長したことは、ご存じの通りです。

函館のラッキーピエロと同様に、食品の商品価値の根幹である「味」の便益と独自性を追求する重要性、その価値を記号化として記憶化することの重要性が見てとれます。

さらに、当初は決して多くはありませんでしたが、商品に便益と独自性に価値を見いだしてくれる顧客を見つけ、定義し、そこに投資を集中しました。それによリブランディングの効果が発揮されて、特定の顧客層での高いシェアを取る黒字ニッチヘと段階が進んだことが学べます。

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《西口一希》

ブランディングの誤解