2-5-14:誤った「ブランドエクイティ」にこだわる危険性

顧客起点マーケティング ブランディングの誤解
誤ったブランドエクイティへのこだわりを避け、顧客の実際の購入理由を調査・分析することが重要です。さらに、その変動性を理解し、適切に活用することが求められます。
2-5-14:誤った「ブランドエクイティ」にこだわる危険性
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経営層や上司の思い込みを事実で検証する

経営層や上司が誤ったブランドエクイティにこだわり、それが購入理由になると信じ込んでいる場合には、まず、本当に購入につながっているのかどうかを事実として検証すべきです。

もし作り手のエゴとして、売り上げに直結しないブランドエクイティであっても強化したいと考えるのであれば、それを目的にしてもかまいません。色々な思いで商品・ブランドをつくっているでしょうから、エゴはあってもいいのです。重要なのは「そのブランドエクイティを強化することが売り上げにつながるのかどうか」を明確に認識した上で投資することです。

どんなブランドでも顧客が買う理由は複数あります。調査をすれば便益と独自性と顧客の組み合わせは5つぐらい簡単に見つかります。ですが、調査を行うときに注意していただきたいのは回答の平均値を、高めるべきブランドエクイティの選定に使わないことです。

ブランドエクイティの調査でありがちな誤りのうち、最も多いパターンはブランドエクイティを定義するための定量調査の結果から、複数回答の平均値を基に定めてしまうことです。具体的には、多種多様な複数の顧客が、対象となる商品・ブランドの購入を検討するに当たり重視する便益、機能、個性などのイメージ属性の平均値を見て、5~10以上の属性をブランドエクイティとして定義してしまうケースが多いです。

ですが、現実には、一人の顧客が購入に当たって重視する便益や独自性は、1つないし数個です。その少数の要素を頼りに購入し、継続購入をします。つまり、多種多様な複数の異なる顧客が期待する多数の平均的なイメージ属性を強化しても、必ずしもビジネスの結果につながるわけではありません。

調査結果から平均として得られる便益や独自性、個性などのイメージ属性は、広告や商品との接触などの体験をへて、顧客が抱いていた結果の平均です。必ずしも、商品・サービスを初めて購入したり、継続購入したりする理由ではありません。

複数回答と単一回答では結果が異なる

この問題を検証するために筆者は「スニーカーブランド」を題材に、20~69歳の男女8244人を対象に、自主調査を実施したことがあります。調査では特定の商品・ブランドの購入を検討するときに、重視するポイントを尋ねました。

ここでは、「ニューバランス」を例に説明しましょう。複数回答でニューバランスを選ぶポイントを尋ねた平均値だと、上位5つの属性は「有名ブランドである」「デザインが良い」「履き心地が良い」「街履き。普段向き」「飽きずに長く履ける」でした。

調査では次に、その中で最も重視するポイントを一つだけ選んでもらいました。すると上位5つの属性は、「履き心地が良い」「価格が手頃」「デザインが良い」「疲れにくい」「足へのフィット感がある」となり、複数回答の平均値とは異なりました。これこそが、購入を左右するブランドエクイティです。

複数回答で選ばれた「有名ブランドである」などは、有名であるに越したことはないという程度で選んでいる可能性が高く、ニューバランスを選ぶ強い理由ではありません。ですが、複数回答だと選ばれやすいため、平均するとさも優先すべき事項のように見えてしまう。それにより「本当に購入を左右する理由」と「あったらいい程度の理由」を混同してしまいます。

多くの場合、ブランドエクイティで強化しようと考えたときに、このあったらいい程度の要素が多く含まれています。こうした過ちを避ける上でも、必ず単一回答で重視するポイントを尋ね、その回答結果と照らし合わせることが必要です。

「ニューバランス」が重視すべきブランドエクイティ

ニューバランスが重視すべきブランドエクイティの枠は、単一回答で得られた「履き心地が良い」「価格が手頃」「デザインが良い」「疲れにくい」「足へのフィット感がある」であり、それぞれの属性を選んだ個別の顧客です。

ここまで分かれば、次はその5つの属性を選んだ顧客層に向けた訴求内容や商品の提案、その組み合わせを考えてマーケティングすればいいのです。もし、一つの商品でそれぞれの最重視する属性を十分に満たすのであれば、各顧客に対する訴求点を最適化するだけでもいいかもしれません。

もし、利益を重視するのであれば、「価格が手頃」を最重視する顧客に対する提案は優先せず、それ以外のブランドエクイティを優先するという判断もできるでしょう。

マーケティングの効果を最大化するためには、最重要視するこれらの項目を全て広告したり、訴求したりするのではなく、それぞれの顧客の購入ファネルにしたがって施策を検討します。商品の認知時点、来店時、商品の試し履き時点、購入後の商品利用が日常化した時点など、それぞれに合わせて最適化します。

これらを一貫して長期的に継続した結果として、最重要視される属性としてのブランドエクイティが強化され続け、ニューバランスは5つのイメージ属性の認知度が高く、購入意向が高い顧客に支持されます。結果として、他のブランドとの区別、独自化されたブランドとなるのです。

ブランドエクイティは変化し続ける枠

また、ブランドエクイティは固定的なものとして見るのではなく、変動するものと捉えることも重要です。ブランドエクイティとは単に一つの特徴やイメージに限定されるものではなく、様々な顧客が商品・ブランドに対して見いだした多様な便益や独自性などのイメージの集合体です。固定せず、「変化し続ける枠」として捉えるべきです。

企業によってはブランドの統一感を重視するあまり、使用フォント、ロゴ、レイアウトなどを定義して固定することもあるでしょう。広告やWebサイトをつくる上でも、詳細までがっちり決まったブランドブックなどをつくっている場合も多いです。これは一見、ブランドマネジメントとしては正しいように思えるかもしれませんが、やりすぎるとビジネスの成長が止まり、縮小しかねません。

これまでのイメージや認識を何も裏切ってはいないけど、何の驚きもなくなり、新鮮さを失ってしまいます。そこで、着目してほしいのが「購入に直結しないブランドエクイティ」です。顧客の購入に直結するブランドエクイティは変えてはいけません。ニューバランスなら、「履き心地の良さ」を失うことは大きな顧客の離反に直結します。

ですが、購入に対する優先順位として低いブランドエクイティであれば、それとまったく反することをすると、いい意味で驚きを与えられる可能性があります。これまで商品・サービスに対して抱かれていたイメージを裏切ることで、耳目をひくという手法です。

長期的な視点で見たときに、購入に関わる便益や独自性イメージが枠としての守られた道筋通りであれば構いません。例えば、保守的な仕事用ビジネススーツに、革靴の代替としてニューバランスのスニーカーを提案するコミュニケーションは全く問題ありません。

カジュアルなスニーカーというイメージを裏切りながら、履き心地の良さを伝えることで、タフなビジネス環境でも疲れにくい選択肢として売れるでしょう。

購入に直結する絶対に変えてはいけないポイントと、そうではないポイントを分けて、コミュニケーションに活用するのは顧客層を広げるための一つの選択肢です。

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《西口一希》

ブランディングの誤解