
「ブランド」の本質は言葉の起源にあり
ここまで、ブランディングの目的や、失敗例を解説してきました。では、「ブランド」とはどのように定義されているのでしょうか。「ブランド」「ブランディング」の定義は、アメリカ・マーケティング協会(AMA)と経営学者のフィリップ・コトラー氏の定義がシンプルであり、誤解が生じにくいと思います。
コトラー氏は「ブランドとは、個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ」と定義しています。AMAでも、この定義を用いています。
ブランドという言葉は、「牛の焼き印」が語源だといわれています。農家が他者の牛と自分の牛を識別するための印です。ここから転じて、ブランドとは顧客が商品を識別するための記号のようなものを意味します。
しかし、1990年代に経営学者のデービッド・アーカー氏が提唱した「ブランドエクイティ論」をきっかけに、ブランドの意味が拡張され、ブランディングはマーケティング部門を超えて経営層にも注目される分野になり、大きな投資対象となりました。特に広告代理店を中心に、実務への応用は拡張され続けています。
ブランディングへの投資が当たり前になった
2024年の現時点でも、「ブランド」とは何か、「ブランディング」とは何かに関して、様々な解釈が生まれ、過剰期待や無駄な投資につながっています。
アーカー氏はブランドエクイティを、次のように定義しています。
「ブランドは組織から顧客への約束」「顧客の中で生まれるイメージの総体」「ブランドエクイティとは、ブランドの名前やシンボルと結びついたブランドの資産(あるいは負債)の集合であり、製品やサービスの価値を増大(あるいは減少)させるもの」
アーカー氏のブランドエクイティ論によって、ブランドはコトラー氏が定義した「存在している財やサービスの識別、区別、差別化」から、「価値を増大させるもの」に拡張されました。これにより、積極的に経営やマーケティングが関与すべき存在になりました。
アーカー氏の著書『ブランド・エクイティ戦略』(ダイヤモンド社)が発売されたころから日本でも「ブランディング」の重要性が叫ばれるようになり、経営戦略、マーケティング戦略の中でも当たり前のように使われるようになりました。

ブランディングとは、認知を高めることではない
筆者が所属していたプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)でも、1990年代から、ブランドエクイティの概念はマーケティングに導入され、活用されていました。ですが、厳密な調査を土台に運用されていました。
具体的には顧客が実際に認知しているブランドのイメージである結果としての「ブランドエクイティ」と、企業視点で顧客に認知してもらいたい期待としての「デザイアード・ブランド・エクイティ(望ましいブランドエクイティ)」を分類して運用していました。
しかし、多くの企業では、このような区別はなく、「顧客が既に持ちているイメージ」「企業が発信するイメージ」「企業として顧客に期待するイメージ」「売り上げや利益に貢献するイメージ」「売り上げや利益に貢献しない(するかどうか分からない)イメージ」などが一緒くたにされ、無用な混乱と誤解が起こっています。
「ブランディング」とは、BRAND =あるべき姿を規定し、形にし、ING= あらゆる活動を通じてそれを伝達、浸透させることです。
ブランド・マネージャー認定協会によれば「ある特定の商品やサービスが、消費者・顧客によって『識別されている』とき、その商品やサービスを 『ブランド』と呼ぶ」とされています。
つまリブランドとは、消費者や顧客から自社の商品・サービスが、他の企業の商品・サービスとは「違うもの」として認められることで成り立つものです。ですから、ブランディングとは単に認知を高めることではありません。
アップルをはじめ、現在成功しているブランドの多くが独自性のあるロゴやネーミングをつくり、最初から消費者や顧客が識別しやすくしていたという点は重要です。ですが、必ずしも、それが直接的に売り上げを上げたり、顧客を増やしたりする要因にはなっていません。
自社の商品・サービスと他社のものとが明らかに区別されること、消費者や顧客に「その企業ならではのもの」として認識させるための取り組みがブランディングです。そこでは、自社が伝えたい企業や商品の価値と、顧客が購入したり、使用したりするにあたって必要とするイメージを一致させることが大切です。
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