
「Think different.」は売り上げに貢献したのか
アップルの広告でもう1つ広く知られているのが「Think different.」です。ジョブズ氏がCEOとして復帰した1997年に行われたキャンペーンで、「1984」と同様に現在でも広告やブランディングの文脈で必ず語られるほど知られています。
しかし、このキャンペーン後の売り上げを見ると、やはり前年を下回っています。キャンペーン翌年の98年に発売したパソコン「iMac」のヒットにより、一時的に業績は上昇したものの、2001年には、1997年をさらに下回るほど低迷しました。株価も同様で、2000年に一度上がったものの、再度低迷しています。
現在のアップルに至る驚異的な売り上げと時価総額の成長は、2003年の楽曲をネットで直接購入できるサービス「iTunes Music Store」の登場、06年の「Mac Pro」「MacBook」「MacBook Pro」、07年の「iPhone」、08年の「MacBook Air」、10年の「iPad」の発売と、これらの新商品の連続的なヒットによって達成されるのです。
「1984」も「Think different.」も、公式にはどのような目的で制作されたかは明らかにされていません。ただ、視聴者に加えメディアからも圧倒的な反応を生んだものの、当時の売り上げと株価で見れば、業績に貢献したとは決して言えません。
賞賛される広告が、必ず業績につながるわけではない
その時期だけで考えれば、ビジネスに直接貢献する「広告」ではなく、それ自体が賞賛された無償のエンターテインメント「作品」でしかありませんでした。賞賛される広告は商品・サービスをブランドにすることを約束するものではありません。
こうした事実を振り返れば、アップルの成功要因はプロダクトの先進性と機能便益にあることは明らかです。

従って、世の中で語られる「1984」や「Think different.」によるアップルのブランディングの成功は、数々の広告賞を獲得し、多くの方々から賞賛されたテレビCMという事実と、数十年後の2000年代後半にアップルが世界一のブランドになったという結果を、部外者が後解釈したにすぎないのです。
私も、アップルの広告は大好きで、マーケターとしてのキャリアを歩む上で、大きな影響を受けました。数値化されずとも、これらの広告を通じて、従業員のモチベーションが上がり、後にアップルが優秀な方々を採用することに貢献した可能性はあるはずです。しかし、これらの広告出稿時期におけるアップルの売り上げへの貢献は見られず、株価も高まってはいません。これがビジネスの真実です。
「作品」としての広告の評価とビジネスヘの貢献を混同し、誤解する事例は珍しくありません。様々な広告賞を受賞したテレビCMを含め、国内外でそのようなケースが数多く見られます。
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