2-5-11:ポーター氏が提唱した「差別化戦略」とは

顧客起点マーケティング ブランディングの誤解
ポーター氏が提唱した「差別化戦略」の意図は、同じ機能での差別化というより、比較されない独自化を目指すことにありました。
2-5-11:ポーター氏が提唱した「差別化戦略」とは
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ブランディングの優先度の見極め方

米国の経営学者マイケル・ポーター氏が競争優位を確立するための一つの方法として「Differentiation Advantage(日本語訳として差別化戦略)」という言葉を生み出したことで、他社にはないブランドポジションを築く企業戦略で「差別化」の重要性が論じられました。

ですが、Differentiationの意図は「競合と区別すること、分けること」であり、本来は日本語では「独自化」に近いのです。ところが、なぜか「差別化」と訳されたことで、「競合商品の特徴や同じ機能の比較級」としての意味合いが広く伝わり、誤解を生んでいます。Differentiationとは本来、比較されない独自化を目指すことです。

自社の商品・サービスの便益と独自性を明確化できて、ようやくコミュニケーションとクリエイティブの議論へと移ります。その便益と独自性と自社商品との関係を記憶しやすく、想起しやすいようなアイコン、名称、デザインなどで識別記号化することを目指します。

ブランドを記憶し、忘れないための識別記号をつくらないといけません。それは商品名かもしれないし、パッケージデザインかもしれないし、販売する場所かもしれません。それを商品の便益と独自性に価値を感じてくれそうな対象者に訴求し、その便益と独自性に価値を見いだしていただくことで、強く記憶され、想起されやすくなります。

普通の牛に「神戸牛」と焼き印を押す過ち

秀逸な広告クリエイティブやデザインで、一時的に商品・サービスを売ることはできるかもしれませんが、商品・サービスそのものの便益と独自性が弱ければすぐに忘れられ、継続的な売り上げにはなりません。結果、多くの場合、ブランディングに投じた投資や費用は回収されずに、累計では損失につながります。

にもかかわらず短期の売り上げ成果をもって、ブランディングの成功とする事例が多いこともブランディングヘの過剰期待と誤解を広げる要因です。

普通の牛に「神戸牛」と焼き印を押しても、神戸牛にはなりません。ですが、それを「神戸牛」として売ると神戸牛だと勘違いして買う層が一定数は出てきます。その大部分は実際に食べた後にがっかりして、リピート購入にはつながらず、場合によっては詐欺として訴訟される可能性もあるでしょう。

商品・サービスの便益や独自性が伴わない、短期的な成果を上げる間違ったブランディングとは、極端に言えばこのような詐欺的な心象を顧客に与えます。

ところが、この偽物の神戸牛を食べておいしいと思う人も一定数はいるため、短期的な売り上げは立ちます。そのせいで、このような誤った、ともすると詐欺的なブランディングは後を絶ちません。ですが、圧倒的においしい本物の「神戸牛」が市場にある限りは、いずれ偽物だとバレてしまうのです。

「一過性の価値」で衰退した高級食パン店

高級食パンも、誤ったブランディングで一過性の売り上げを生んだ一例です。2018年ごろから、2斤で1000円近い価格の食パン店が増え始め、各地の店舗で行列を生み出すブームを巻き起こしました。

それから数年がたちブランドの乱立によって、競争が激化したことで商品のコモディテイー(汎用)化が加速しました。それにより、高級食パン店は成否が分かれ始めています。高級食パン店の中には奇抜な店舗のネーミングで、注目を浴びたものもあります。

奇抜な店舗名や話題性で一度は購入してみようという好奇心で、短期的な売り上げにはつながる可能性はあります。ところが、商品が持つ便益や独自性が価格に見合っていなければ、一度きりの購入で満足してしまい、継続的な購入にはつながりません。

商品のコモディテイー化が進む中、商品の持つ便益と独自性が顧客の期待値を上回れなかったことが明暗を分けた要因の一つでしょう。

開店した地域の見込み顧客を取りきってしまうと、顧客として定着せず、持続性のない焼き畑農業的な事業に陥ってしまいます。

“広告的なクリエイティブ”で、顧客の注意を引くことはできます。しかし、それで期待を高めても、商品やサービスの便益と独自性が見合っていなければリピート購入にはつながらないため、投資したコストの回収ができなくなります。

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《西口一希》

ブランディングの誤解