
BtoBでもブランディング投資で大きな成果
BtoB(企業間取引)事業は、多様な顧客ニーズに対応するため、プロダクト(商品・サービス)が提供する機能が非常に多く、訴求すべき便益や独自性の絞り込みが難しい場合が多いです。
一方で、顧客企業の数自体は特定かつ少数なため、テレビCMなどのマス媒体の活用は不向きとされています。業界の専門媒体、展示会、PRのリリースや日々の営業活動を通じて認知獲得を行うことが日々のマーケティング活動であり、どんなに優れたプロダクト(商品・サービス)であっても、顧客の開拓に時間がかかる傾向があります。
機械部品の製造販売を手掛けるミスミの「meviy(メビー)」というサービスは、このようなBtoB特有の課題を克服し、21年12月からテレビCMや「YouTube」に投稿した動画コンテンツを積極的に活用した型破りなブランディングを展開し、短期間で急速な事業成長を実現しました。

ミスミ「meviy(メビー)」のCM戦略
メビーのブランディング強化は、テレビCM放映から始まりました。BtoB企業がテレビCMを放送するケースは珍しくありません。ですが、大半は社名を中心にアピールするコーポレートブランディングです。これは本章で紹介した、ブランディングの第3の目的である「働くモチベーションの強化とリクルーティングヘの貢献」を目指しています。
それに対して、ミスミが放送したテレビCMはサービスであるメビーそのものを潜在クライアントに訴求する内容です。ブランディングの第1の目的に当たります。
メビーは設計者がつくった複数の部品の3D CADデータをまとめてアップロードするだけで、AI(人工知能)が加工工程を算出し、瞬時に価格と納期を示します。それを基に発注するだけで、工場で加工機や工作機械が即時に製造を開始。最短1日で出荷される仕組みです。
この利便性を一度体験すると、非常に満足度が高い便益を持ち、他社にない独自性を持つ圧倒的に強い製造業向けのDX (デジタルトランスフォーメーション)支援サービスです。この強みを端的に伝えれば、顧客を一気に獲得できる可能性を秘めていました。
ミスミグループの吉田光伸常務が率いるメビーチームはPR、セミナー、展示会出展、営業強化など様々な施策を実行していたものの、認知形成を一気に進めることができず、そこに大きなマーケティング課題を感じていました。こうした中、競合企業の営業活動が激しくなってきていました。
メビーの機能は非常に優れており、一度、試してもらえれば大きな満足と継続使用につながることは分かっていました。そこで、認知形成の早期化を図るべく、BtoBの定石を超えて、あらゆるマーケティングの可能性を探りました。その結果、認知形成から顧客獲得までを視野に入れた、第1の目的のブランディングを狙い、テレビCMの放映に挑戦することにしました。
大きな投資が伴うため、費用が大きくなる関東以外のエリアで事前にテスト運用し、効果検証しながら拡大する計画です。
テレビCMは短い放送時間でサービスの名称と便益を一気に覚えてもらわなければなりません。そこで吉田常務やマーケティングメンバーに加え、広告代理店、営業担当部門と直接議論し、まずはメビーの多岐にわたる機能便益を、どのようにシンプルかつ、多くの顧客層に響くように訴求すべきかを探りました。
発音をなまらせて印象に残す
対象顧客企業はどのような業種か、どういう部品が対象か、どういう場面で使えるのかなど、ニーズは何十パターンもあります。多種多様なことができるため、切り口は多い。ですが、ブランドの全体認知を上げることが先決だと考えました。
悩んだ結果、どのクライアントにとっても象徴的なメビーの便益は、オンライン上で3Dデータをアップロードすると瞬時に見積もりができるという機能だと結論付けました。それを「1分」という言葉に置き換え「3Dデータまとめて1分見積もり」というコピーが生まれました。
次にこのコピーをいかにして、ブランド名と結びつけるかです。もともとメビーのロゴはありましたが、英語表記が大半でした。meviyという表記では直感的に読みづらく、記憶にも残りにくい。そこで、これをスマートニュースと同様にカタカナ表記へと変えました。
さらに、音としても記憶に残すためにどうすればいいかを検討する中で、クリエイターから出てきたのが、サービス名の発音を「なまらせる」というアイデアです。
このなまり気味にメビーと発音する手法について、筆者はそこまで必要なのかという印象を受けました。ですが、貴重なテレビCMの予算を最大限に活用するためにも、音感として強く記憶に残すには、これぐらい大げさにやるべきだというクリエイターの熱い意見に納得し、採用しました。
利用者6万人から17万人へ急成長
21年にテレビCMを放送した後、効果測定のために放送10分以内のサービス名での検索数がどれぐらい増えているか、放送地域でのサービスの認知率が上がっているのかといった定量データの分析を継続的に行いました。その結果、期待通りに認知度は上昇し、22年には、潜在顧客の母集団とも言える製造業従事者における、メビーの認知度が10%上昇しました。
検討初期には、テレビCMへの投資に懐疑的な声もありましたが、営業対象企業の担当者経由でテレビCMを見たという言葉を得られ、それを皮切りに営業トークを始められるなど、短期的に営業が効果を実感できました。
また、テレビCMを見た人やクライアントでも、「メビー」となまったイントネーションでまねをする現象が起こりました。これは認識がされた、つまりブランディングが強化された状態になったことを示唆します。クリエイターが出したアイデアの狙い通りの結果になりました。
テレビCMでは認知未購買層だけでなく、未認知層の潜在顧客の両方の認知形成から獲得を狙いました。ミスミはサービスの生産や開発、営業の革新と併せてテレビCMを実施することで、メビーの利用者を6万人から、24年10月時点で17万人まで、急成長させました。
多くの企業は自社の商品・サービスの便益と独自性を見いだし、それを消費者が忘れないようにする活動が「ブランディング」の最も大きな目的です。ですが、ブランディングの定義が曖昧なせいで、ブランディングとは情緒的、感情的な印象を与えるための活動だという誤解が広がっています。
ここまで解説した通り、目的設計がしっかりしていれば、顧客の獲得や離反防止など、マーケティング上、大きな成果をもたらす可能性をブランディングは秘めています。また、ブランディングは測定が難しいとされていますが、目的設計さえ明確であれば、効果測定も可能です。
次項からは、ブランディングの測定手法について、スニーカーブランドをテーマに解説します。
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