
さらなる付加価値を加える第2の目的
続いて、ブランディングの2つめの目的が、「情緒的・心理的価値の提供」です。実はこの第2の目的が、結果的にブランディングに対して大きな誤解を生じる要因になっています。重要なのは第1と第2の目的とゴールは、同じブランディングでも別物であると区別して考えることです。

経営学者のデービッド・アーカー氏は、ブランドエクイティを「ブランド名やシンボルと結び付いたブランドの資産(あるいは負債)の集合であり、製品やサービスの価値を増大させるもの」と定義しました。
このアーカー氏の主張以降、ブランディングは商品・サービスに名前やロゴなどのシンボルを付けることを超え、そのブランドに関連する価値、信頼性、感情などの無形資産を構築するプロセスだと捉えられるようになりました。
アーカー氏の主張以降に注目されるようになったのが、既に確立しているブランドに対して、さらなる付加価値を加える第2のブランディングの目的です。ここでの付加価値とは、商品・サービスの機能的便益や独自性に対して、先の図のように情緒的・心理的な便益と独自性を指します。
他にも似たような商品があるものの、何となく特定のブランドを選んだ経験はあると思います。有名なタレントが利用していたから、広告に載っていた経営者のメッセージに共感していたからなど、その理由は人それぞれでしょう。それは単純な機能性だけでなく、情緒的・心理的な価値を無意識に感じているからです。
ユニクロに見る、第1と第2の目的の違い
ユニクロを例に説明しましょう。ユニクロのチラシを人に見せるときに、ロゴを隠した状態で見せると、商品を買いたいと思う人は少ないでしょう。しかし、ユニクロのロゴが見えることで商品に対する説得力と安心感が生まれ、購入を検討する人が増えるはずです。
これが記号化の効果であり、ブランディングの第1の目的が達成されている状態です。ユニクロのロゴは、皆さんが記憶している「商品に対する価値」を呼び覚ます役割を果たしているのです。
また、ユニクロのWebサイトでは女優の綾瀬はるかさんを起用したコミュニケーションが見られます。これはブランディングの第2の目的である、情緒的・心理的な価値の創出を狙ったものでしょう。綾瀬はるかさんに対して顧客が抱いている感情的なイメージをブランドにも付与しているわけです。
広告宣伝に有名タレントを使うと、機能的な便益や独自性を超え、タレントが使っているという情緒的価値が加わります。これもアーカー氏のブランド論以降、ブランディングの範疇に含まれるようになりました。
このようにユニクロは、ブランディングの第1の目的である「記憶化と想起性の確立」と、第2の目的である「情緒的・心理的価値の提供」を巧みに組み合わせることで、ブランドカを高めています。ポイントは、機能的な便益や独自性と付加価値を一緒に訴求するのではなく、それぞれを適切に伝えている点です。
チラシにも綾瀬はるかさんを起用するという手法はありがちです。ですが、ユニクロは安易にそうはしません。媒体によって、メッセージを分けることで適切な情報を顧客に伝えています。こうしたブランディングの工夫によって、ユニクロは他のアパレルブランドと比較して優れたポジションや業績を達成しています。
ラグジュアリーブランドの成り立ち
第2の目的である情緒的・心理的な価値を最大限に引き出したビジネスがラグジュアリーブランドです。顧客は、デザイン性、クリエイティブ性、希少性、そして、その所有から得られる情緒的・心理的な便益に、バッグ、時計、クルマなどが提供する機能的な便益を超えた大きな価値を見いだします。

これにより、ブランドヘの忠誠心や継続的な購入意欲を高めることを狙います。上の図で説明すれば、機能的な便益と独自性が小さく、情緒的・心理的な便益と独自性が価値の源泉となるカテゴリーです。
このように、ブランディングによって商品・サービスに対する顧客の認識や感情を形づくり、最終的には購入行動に影響を与える要素となり得ます。
この2つめの目的におけるKPIは、顧客満足度、次回購入意向(NPI)の高さ、ブランドヘの忠誠心、購入単価などが考えられます。
ただし、前段でも解説した通り、情緒的・心理的な付加価値をつくる活動を実行したからといって、売り上げや利益が上がるというのは大きな誤解です。ましてや、機能性が主体の商品・サービスとラグジュアリーカテゴリーを混同してはいけません。顧客が価値を見いだす強い便益と独自性を自社の商品・サービスが提供できるのかどうかを前提としていた活動であることを、念頭に置いてください。
ここまでをまとめると、ブランディングの第1の目的は商品・サービスが持つ強い便益と独自性を顧客が記憶しやすくし、想起しやすくすること。第2の目的は強い便益と独自性を持つ商品・サービスに情緒的・心理的にさらなる付加価値を付けることです。全てのブランディング活動は、顧客が価値を見いだす、具体的な商品・サービスの持つ便益と独自性の上に成り立っているということを改めて強調しておきます。
まだ会員登録されていない方へ
会員になると、既読やブックマーク(また読みたい記事)の管理ができます。今後、会員限定記事も予定しています。登録は無料です


